1日目 予習復讐(1)

「どうした? 死人でも見たような顔して」


「い、いや、なんでもないっす」


「妙なやつだな」


 弓を持った傭兵の首はつながっている。

 どうやら魔狼ワーグが襲撃してくる前の時間に戻ったようだ。


 魔狼に襲撃されて俺は死んだ……と思う。

 なのに何で俺は生きている?

 今歩いていても、夢の中のようで実感がない


 俺は100日祭のときから数えて、昼を3度繰り返している。

 時間にすればもう夕方のはず。

 いや、夜になっていてもおかしくない。


 気分はすり減っているのに、眠くもなんともない。

 それがかえって俺の疲れを増していた。


「おい、どうしたカロン。

 具合が悪そうだが……やっぱ止めておくか?

 俺だけでも――」


「い、いや、大丈夫だ!

 いけるよ。」


「そうか? ならいいんだが……」


 俺は慌てて大丈夫だと言い張った。


 このままカールが傭兵と一緒に森を進めば、彼は確実に魔狼に殺される。

 でも、その場に俺がいれば、そして魔狼に殺されれば――

 また時間がまき戻る。


 カールが殺されたことは無かったことになる。


 自分で考えておきながら冷や汗がでる。

 俺はなんてことを考えるんだ。


 死んだほうが安心なんて……。

 頭がおかしくなったとしか思えない。


 でも、何で時間が戻ったんだろう。

 俺は確かに魔狼に斬られて死んだはずだ。

 

「……」


 俺は汗を拭おうとして、手を額にもっていく。

 すると手のひらに強い痛みを感じて顔をしかめた。

 俺の右手にある火傷に汗がしみたのだ。


 まさかとは思うが――これのせいか?


 俺は右の手のひらに残る、緑色の火傷痕やけどあとをみる。

 この火傷は、村がガイコツどもに襲われた時にできたものだ。


 あの日俺はアリアを連れて、村を逃げ出そうとした。

 しかし、村の裏までいったところで、俺は神官風のガイコツと遭遇する。


 ガイコツはやたら高価そうな金の装身具を身に着けていて、

 それに目がくらんだ俺はそいつと戦った。


 しかし弱そうに見えたそいつも十分危険な存在だった。

 ヤツが吐き出した毒の霧で、俺はすぐに死のふちに追いやられてしまう。


 俺は何とか杖を奪ってガイコツを殴り倒したが、

 毒が回って、妹のアリアと一緒に俺は死んだ。


 だが、死ぬと俺はなぜか100日前の村に戻っていた。

 そして、右手には杖を奪ったときの傷がそのまま残っていた。


 毒を吸い込んだ肺はなんともないのに、火傷だけが俺の手に残っている。

 時間が戻った原因はこの火傷にありそうだ。


 過去と俺をつなぐ唯一の証は、この火傷しかない。

 

 何故俺が死んでも時間が戻るのかは分からない。

 だけど……この火傷が何か関係している気がする。


「おい! ボサッとしてると置いてくぞ!」

「す、すみません!」


 物思いにふけっていたせいで、俺だけ列から遅れていた。

 俺は小走りでみんなに追いすがる。


 すると、列の前の方で声が上がった。


「おい、これを見ろ」

「……シュルツ、くそだ、糞がある」


「どれ、見てみるか」


 げ、シュルツがもう狼のクソを見つけてしまった。


 えーと、さっきはどうだったかな……?

 傭兵たちの細かいやり取りまでは俺は覚えていない。

 だが、この後に起こることはわかる。


 このクソを調べている最中に俺たちは魔狼に襲撃される。

 魔狼が飛び込んできて、まず弓手がやられる。

 そしてその次が俺たちだったな。


 あいつは大剣を口にくわえていて、それを振り回して攻撃してくる。

 ただの狼と思ってヤリの長さに安心していると不意打ちを食らう。


 シュルツは出発の前に「ただの狼退治だ。緊張することはない」と、

 そう言っていた。


 たかが狼という思い込み。

 さっき俺たちがやられたのは、そのせいだと思う。


 相手は狼ではなく魔狼ワーグ

 それも大剣をもち、名人級の腕前で人の首をポンポン飛ばす魔狼だ。


 なんとかしてそれを隊長に教えないと……。



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