AA2011~独眼の接続者は神に触れて天を目指す~

矢坂 楓

プロローグ

AA2011~you have been updated!~


 人類は、その愚かさ故に一度滅んだという。

 しかし、天に座す神はそんな愚かしい人間達を見捨てず、一年半に及ぶ“裁き”と“施し”の後にそれまで築き上げられた暦を旧神との契約歴として破棄させ、新たな歴史を紡ぎ出した……これが、現代に生きる俺達が真っ先に教わる地球という星、そこにいる人類の歴史だ。

 そして、俺はそんな歴史が紡がれた先で生まれ育った地を追放され、今しがた生死の境目にいる、……否、数十秒前まで「いた」。

 故郷を追われてから手放せなかった防護スーツのバイザー越し、漆黒とグリッド模様が覆う視界の中で、誘われるままに歩いてきた。遠く視界内に浮かび上がる「Access」の文字を追いかけるように放浪して一ヶ月。手切れ金代わりに渡された食料と水、そして三八五コロニー製クアッドモート四輪駆動車の予備燃料が尽きかけたところで辿り着いたのは、廃墟、というには余りにも整った建物だった。そして、中心部のデバイスに触れアクセスした。

Hello,world.おはようございます。アクセス地点を測位……完了。旧日本国、第六〇五コロニー。分類、休止コロニー。現在時刻把握……A.A.二〇一一年七月十五日。地球再生プログラムの自動運転の開始、それにあわせたスリープ状態から千八百年余りの経過を確認しました。起動に際するアクセス権限を確認。接続します。『ギフト2』デバイスにケーブルを接続してください』

「え? いや、ここでスーツ脱ぐのは危ないんじゃ……」

『現地および周辺区域の空気組成、有害物質濃度を算定しました。問題ありません。信じてください、私は神様ですよ?』

 あまりに頓狂な言葉に声を失う。目の前の機械が動き出して話しだしたことにも驚いているが、こともあろうに神様を自称し始めるなんて。でも、確かに響く声は寸分違わず毎日世界に鳴り響く『神様』の声に他ならない。でも拗ねたような口調は神様らしくないな、と思う。

 ケーブル、と言われて視線を少し下げるとそれらしき物体を確認。つかもうとしたが、やはり片目の視界では距離感が狂う。何度か空振ってから、ケーブルを掴み取った。首筋の解除ボタンを押し、防護スーツから露出した顔、その右目。埋め込まれた人造器官ギフト2に接続する。瞬間、視界は歪み、爆発的な情報の奔流が脳をぶん殴る。チカチカと爆ぜ、右目から聞いたこともない音が聞こえている。

『ギフト2、接続確認。生体認証、およびコロニー復旧要因を確認後、あなたにご褒美をあげましょう』

「ご……っ、褒、美?」

『はい。喜んでください』

 もしかしたら、世界が変わる力かもしれませんよ。

 『神様』を名乗る声は、確かにそう俺に言った。

 

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