後日談

1話 その日々 


「イアリス、ここに住むにあたって偽名と、特徴的な髪の色を変えなければいけないんだけどいいかい?」


“この美しい銀髪を変えるなんて、本当はしたくないんだけど“とそう付け足し、悔しそうな顔をしながら私の髪を撫でるシエル。


「構わないわ…、自分を変えるって少しわくわくするわ。」


それだけ言うとシエルはくすりと笑った。


「本当君は前向きだね。そう言う所が本当に、大好きだよ」


「……」


あんまりにも甘い声で囁くものだから、何も言葉を返すことが出来なかった。私もですわ……、と返したいですのに。きゅ、と無意識に目を閉じてしまう。異性に髪を預けることなどなかった為、いちいち反応してしまう。何故、シエルはこんなに優しく触れるんですの。


ポワと暖かい心地がすると、何か眩い光が、閉じていてもわかるほど出ていた。

きっと今髪の色を変えているのでしょう。


「……よし。そのまま瞑っていてね」


「、ええ」


シエルは私の髪をゆっくり下ろしてた。その後、私の額に手を合わせる。大きく、暖かい手だった。優しさを感じるけれど、苦労してきたのか、硬い手だった。


瞳の色を変えているのね。


「イアリス目を開けていいよ」


「分かりましたわ」


ゆっくり目を開けると、ほんと十数センチほどの近さにシエルの顔があった。どくどく、と心臓の鼓動が高まる。それが驚きからなのか、それとも他の感情なのか……。顔がとても整っていて、肌も陶器のよう。


「これ、鏡ね。どう?…って僕の顔になにかついてる?そんなにみられると…、」


そこでハッと私はきがつく。素敵な睫毛までじっくりみてしまいましたわ…。


「い、いえ…つい。わ、凄く良いですわ」


黄色の瞳と髪だった。鮮やかで、前の自分と全く変わった気がして、何処か爽快な気分でもあった。


「けれど、何故黄色なんですの?とても素敵で、私は好きですが…」


「それは……」


シエルが照れくそうに頬をかく。なんでしょう、どうしてそんな反応を?と思った瞬間気がついた。


気がついた瞬間、耳が熱くなるのを感じる。私の色は、シエルの瞳の色と全く同じだった。

小説や舞台では、殿方が女性に自分の瞳と同じ色の贈り物をするのが定番である。


「僕の女性ということで……嫌だったらごめんね、いつでも変えられるから」


「…何を言うんです、一生変えませんわ。とても好きですわ。貴方とお揃いですし」


私は髪を触る。

シエルは良かったと言って、笑った。


「前に、君が瞳と同じ花をくれたことがあっただろ?それが凄く嬉しかったんだ。今でも飾ってあるよ。」


シエルは、棚の上にある花を指した。

永久保存する魔法でもかかってあるのか、新鮮さがあり、まだ枯れていなかった。


そういえば、子供の時にシエルに贈った気がする。自分の庭園の花のもので、特に色を考えたことは無かった気がするけれど、……そんなに昔のことを覚えていて、今も飾ってくれているというのがとても嬉しかった。




「ありがとう、シエル……。大好きよ」


思わず私は彼を抱きしめてしまう。


「僕もだよ……」

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