仲良しアイドル部は廃部の危機

川野マグロ(マグローK)

文化祭一週間前

ルコ「いやあああ!」


ネリ「どうしたの? いきなり大きな声を出して」


ルコ「どうしたもこうしたもないわよ! 文化祭のステージまでもうあと一週間よ?」


ネリ「そうねぇ」


ルコ「そうねぇって。このままじゃ、あたしたちのアイドル部が廃部になっちゃうのよ?」


ネリ「ああ。確か、部員数が足りなくって、集めないといけないんだったかしら。それが、文化祭が終わるまでが期限なの?」


ルコ「そうよ! 先輩たちが、あたしたちの代までつないでくれたバトンを、あたしたちのせいで受け継げなくなるなんてできないでしょ!」


ネリ「もちろんよ」


ルコ「わかってるならいいんだけど」


ネリ「でも、練習は順調よね?」


ルコ「いつも通りならね。でも、いつも通りだったら、いつもと同じ反応しか返ってこないじゃない」


ネリ「いつもと同じだからでしょ?」


ルコ「そうよ! また、何やってんだあいつら。とか! あれなら漫才部にでも改名した方が人が集まるんじゃないか? とか! 言われちゃうでしょ!」


ネリ「そんなこと言われてるなら、漫才系アイドルに転向しようかしら」


ルコ「なんでよ! そこは反論しなさいよ!」


ネリ「あら? そうだったかしら?」


ルコ「そーよ。どうして、漫才系アイドルなんてものをやることになるのよ。それじゃあ、結局、先輩たちが受け継いだもの、あたしたちがぶち壊してるじゃない」


ネリ「みなさんは漫才してなかったものね」


ルコ「そうでしょ?」


ルコ(この子と話してるといつもこうだわ。むしろそれなら……。って、ないないない!)


ネリ「どうしたの? 急に黙り込んで」


ルコ「わああああ!」


ネリ「急に叫んだらびっくりするじゃない」


ルコ「ごめんなさい。って違うわよ! 近いのよ!」


ネリ「そうかしら?」


ルコ「あのねぇ、あんた、あたしとの距離が特に近いのよ。だから、他の奴らに、夫婦漫才とか言われるんだからね?」


ネリ「めおと、って何かしら?」


ルコ「……」


ネリ「ルコちゃん。いじわるしないで? 私、本当に知らないのよ。ルコちゃんの言ってることを理解したいから、知ってるなら教えてくれないかしら」


ルコ「……夫婦ってこと」


ネリ「夫婦……。それってどっちが」


ルコ「知らないわよ」


ネリ「そうなの? でも、私はそれくらいの距離感でも気にしないわよ? それに、夫婦と言われても恥ずかしくないくらい仲はいいわよね?」


ルコ「わかった。わかったから。一旦離れて落ち着きなさい」


ネリ「はーい」


ルコ(まったく。美人が近づいてくると同性でもドキッとするのよ。ネリはそこのところ自覚がないみたいだから厄介だわ。それに、こう、離れると犬みたいに寂しそうな顔をするなんて、反則じゃない)


ルコ「そんなに寂しいならもう近づいていいわよ。好きにしなさい」


ネリ「うふふ。ルコちゃん!」


ルコ「はいはい」


ネリ「でも、どうすればいいのかしらね。このままじゃ駄目なの?」


ルコ「今の状態をあたしたちの持ち味って言えば、聞こえはいいかもしれない。けどそれって、勝手につけられたイメージじゃない?」


ネリ「……そう、かもしれないわね。覚えてもらうのとレッテルを貼られるのじゃ、全然違うわ」


ルコ「そーいうこと。あたしたちはあたしたちとして、アイドル部の活動を全校生徒に認めさせて、部員を獲得するのよ。そうしないと、先輩たちに顔向けできないでしょ」


ネリ「……」


ルコ(ネリ、顔が変わったわね)


ルコ「他人に決めつけられた姿なんて、いずれ無理が出るわ。そうなれば、期待して入ってくれた子たちが、抜けていってしまうかもしれない。それじゃ意味ないのよ」


ネリ「みなさんはそんな悩みを抱えながらも、おくびにも出さないでいたってことね」


ルコ「そうよ。アイドルは楽しいことだけじゃない。でも、だからって、他人の決めつけた枠に収まってやる必要はないわ。あたしたちはアイドルなんだから」


ネリ「ええ。笑顔になってもらうことを目指しても、それはお笑いで、ということではないわよね」


ルコ「そうでなくっちゃ。決意も固まったところで練習にしましょ。練習をできるのは、泣いても笑ってもあと一週間よ」


ネリ「そうね。早速他の子たちにも連絡して、練習を始めましょう」


ルコ「今日も気合十分だわ」

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