ありがとうを君に

新田光

素直な気持ち

 気持ちを伝えるのはとても恥ずかしい。それは誰もがぶち当たる壁だろう。


 本当は素直になりたいのに、天邪鬼な性格が邪魔をしてつい本音ではない言葉を吐き出してしまう。そして、悔恨の感情が込み上げ……というループに陥るのが大体のパターンだ。


 それを断ち切るために、僕は今日行動する。


 だが、口にするのはやっぱり恥ずかしいので、結婚記念日を利用してプレゼントを渡し、気持ちを伝えようと思う。


 僕は手紙にありったけの気持ちを書いた。手が止まる事はなく、ほんの数分で全ての気持ちを書き終えた。口にすれば顔が真っ赤になってしまうような言葉も羅列した。


 ペンを置いて深呼吸。手紙に目を通してプレゼントの中に仕込んだ。


 明日、運命の日を迎える。


 妻はどんな風に感じてくれるだろうか。僕と同じ気持ちだと嬉しいな。


 胸の高鳴りを感じつつ、僕はベッドに入った。


 私は夫を愛している。でも、三年も経ってこの言葉を口にするのはどこか恥ずかしさがある。


 だから、素っ気ない態度をとってしまい、時には相手を傷つけてしまう事もあっただろう。


 その度に私も後悔の念に押し潰されそうになってしまう。


 いつも通りの一日が今日も始まる。夫を仕事に見送る。


 だが、いつもと違う事が今日は起きた。


 夫が「三年目だね」と素っ気ない態度をとりながら、小包みに入った物を渡してきた。恥ずかしそうにしながら、「行ってくる」とだけ言葉にし、家を出た。


「覚えててくれたんだ」


 私は嬉しい気持ちになり、思わず笑みが溢れた。


 夫がくれたプレゼントの包み紙を解く。中には私が欲しいといっていたアクセサリーが入っていた。


 早速私はプレゼントを身につけて、自分の仕事に行く支度をしようとした時、何かを踏んだ。


 目線を踏んだものに向けると、小さく折られた紙が落ちていた。


「なんだろう?」


 私はその紙を拾い、広げて確認した。それを見た私はビックリした。紙にはこう綴られていたからだ。


『いつも僕を支えてくれてありがとう。家事や子育てで大変だけど、経済的にも支えてくれてもいるね。本当に感謝してるよ。君と出逢った時の僕はヒョロヒョロで、いつも君がリードしてくれていたね。今では僕がリードできているかな? もしかしたら、変わってないのかもしれないね。仕事が忙しくて素っ気ない態度をとってしまうこともあるけど、僕の気持ちは出会った日から一ミリも変わってないよ。君を愛してる。だから、こんな僕だけどこれからもよろしくね』


 私は目頭が熱くなるのを感じ、少しだけ涙が溢れるのがわかった。


 潤んだ瞳を擦りながら、


「バカ。──私もだよ」


 と、涙声で呟いた。

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