第3話

 最近、街を歩いているとどういうわけか苦しくなってしまう瞬間があります。身体的な苦痛ではなく、胸が締め付けられるような感覚です。私はこういう胸の締め付けを寂しさと呼ぶものだと思って生きてきましたが、私は一体何に寂しがっているのでしょうか。シチュエーションは様々です。街中を楽しそうに走り回る子供たちを見たとき、落ち葉が風に吹かれてカラカラ踊るのを見たとき、何故だか私は泣きたくなってしまうのです。先輩だったらどうだろう。先輩の優しい目は、私と同じものを見たときどんな気持ちになるのでしょうか。私は先輩になりたくてもなれません。だから先輩に直接聞いたところで本当は意味なんかありません。そして、先輩をもってしても私になることはできません。これは神様が与えた、珍しく私と先輩が互角な要素です。

「先輩は、いつも歩いてるとき何を考えてますか」

気になったので聞いてみました。先輩は私の突飛な質問にも動揺しません。ですが少しの間考えているようでした。特に、これといって決まったことを考えているわけではないよ。先輩は答えたあとこう続けました。でもそうだな、いつもなんだか物悲しくなるんだ。歩いていると。

 やっぱり。私は思いました。先輩と私は、根っこに近い部分でどこか似ているのです。私は嬉しくなりました。だって、それは趣味が同じだとか顔が好みだとか、よくある関係性より格段に私と先輩の相性が良いことを示しています。でも、と私は思います。私と先輩が似ているだなんて、やはり何か変な感じがします。本当は人の多くは先輩や私と同じなのではないか、そんな気がしてきました。ただ普通こんな変な話はできないから、皆それを隠して生きているのではないでしょうか。そんなことを考えていると、また頭が痛くなってきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイに似ている niko @xeynototu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ