お前のせいで疲れてるから、お前で気持ちよくなりたいゾン。

ひとこと紹介で引用した台詞は、この作品の一つのハイライトだと感じました。
 作者独自の世界観(あるいは、我々のいる世界の極主観的メタファー)なため、レビューも推察になります。

 主人公に付与された属性は、この物語そのものを表すかの様です。つまり、我々の人生はゾンビーちゃんの体だということです。
 ゾンビー、から連想される様な腐敗にまみれたグチャグチャな可塑性の中にも、りっぱな背骨、確かな曲線が存在しているわけで、上記のハイライトの様な概念もしっかり内包しています。

 砂と宝石の件が、明確な結論を持たぬまま語られなくなっていく、主人公の私的で流動的な生活へスポットがうつっていく、この構成もメタファーに現実味を与え、読者の思考と作者の思考をつなげています。

 絶妙な所でせめぎあう物語の起伏と、作者の思弁が、接近と反発で進むリニアモーターとなって最後まで読ませます。

 トーベ・ヤンソン作品を読んだ時の感覚に近いですが、作者ならではのキャラクター、語り口で、既存の著作からの独立をなしとげています。

 いいものを読ませて貰いました。