雲壌/天地
かくして、塚元くんの生首は私の生活から姿を消した。
それでも私は確かに覚えている。晩秋の日々を塚元くんと過ごしていた。紅茶を飲む塚元くん、オムライスを食べて笑う塚元くん、大げさなクッションに困惑する塚元くん、公園の原っぱに敷いたブランケットの上で気持ち良さそうに目を細める塚元くん。
高校生の頃の、グラウンドでサッカーをする塚元くんも、修学旅行で前を歩く塚元くんも、きっと今、等しく同じ距離で受け止められる。
確かに居た。一緒に過ごした。ずっと忘れない。
フリンジのついたビロードのクッションを撫でる。窓の外には木枯らしが吹いてて、気がつけば世界はすっかりと冬の色に染まっていた。
明日から十二月。忙しくなる。
きっと私は些末なアレコレに振り回されるのだろう。ある物は受け止めて、ある物は受け流しながら。
時には校庭で軽やかにドリブルをする塚元くんの姿を思い出す。あんな風に軽やかに駆け抜けられると良い。そうしたら、もしかしたら何処かで、また塚元くんと出逢えるのかも知れない。その時の塚元くんはまた生首なんだろうか。それとも生首じゃない塚元くん?
考え込みそうになって頭を振る。どちらでも良い。生首でも、そうじゃなくても、どちらでも天と地ほど差があるようにも思えない。きっとあんまり差なんてないのだ。……多分だけど。
生首と過ごす十一月のお話 野村絽麻子 @an_and_coffee
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