数ヶ月後

 数ヶ月後。


 新たにフラン国王が即位した王国は、平穏を取り戻しつつあった。


「もっと、脱力して、力任せはダメだ!」


 俺は、今サクラ王国の騎士から剣術を教えてもらっていた。


「くそ!」


 再び立ち向かうが、剣を弾かれて、持っていた剣が上に飛んで行った。


「今日は、ここまでだな。剣筋もなかなか、良くなって来ているぞ」


 騎士の男は、そう言うと立ち去って行った。


「大丈夫?」


 コトミが、俺の元に駆け寄る。


「いてて、なんとかな」


 俺は、サクラ王国の騎士見習いになっていた。


 俺が、フラン国王に言ったのは、『武術を学びたい』という願いだった。本当は、兵士でも良かったのだが、『恩人には兵士より上の階級で、武術を学ばせたい』というフラン国王の提案を受けた。その結果、本来は貴族でしか学ぶことができない、騎士による訓練を受けて、騎士になることを目指すことになった。


「あんまり、無理しないでね」


 コトミは、城の使用人見習いになっている。


 言うても、勤めるはずの城は、再建途中なので、仕事がないらしい。数時間ごとに俺の訓練をしている様子を見に来ている。


「前の戦いは、グレムや周りに助けられていた。自分の無力さを突き付けられたんだ。今度は俺が戦えるようになって、救える立場になる」


「ロックは、十分助けたよ」


 コトミは、優しく話した。


「よお、ロック」


「ロック。元気―?」


 トッポとフーミンが話しかけてきた。


「これが、元気に見えるか?」


「これはまた、こっぴどくやられたな」


 トッポは、俺のぼろぼろな状態を見て、笑う。


「フーミンは、また本探しか?」


 フーミンは、束になった紙を両手で抱えていた。


「そうだよー。フラン国王様が、図書館を作るって言っているから、セパーヌさんと、これから図書館に置く本を選別してくる―」


 フーミンは、報酬として『文官になりたい』と希望した。


 前から、興味があったらしい。今は、セパーヌの秘書見習いとして、働いている。


「トッポは、スラム街の管理は大丈夫なのか?」


「今は、グレムに任せている。俺は、休憩中だ」


 トッポは、スラム街の差別をなくすために、スラム街復興計画を進めている。まともな職業につけるための、身分の保証。最低限の衣食住を、提供するため支援計画を立てた。


「月と黒猫の構成員による。違法な職業斡旋。あれ、結構な大事になったみたいだな」


「あぁ、大変だったぜ。グレムに、ヘイホーの母について話したら、顔を真っ赤にして怒ってさ、フラン国王にも話したらしい。フラン国王も、めちゃくちゃ怒って、国王令で、斡旋した月と黒猫の構成員及び、関係業者みんな捕まえて地下牢に入れられたってさ」


 グレムは、その後ヘイホーの母親の所まで行って、直接謝罪。今後、一生不自由させない約束をし、無償で建物と介護要員を付けてくれた。


『最後まで、面倒みるから安心せい』


 グレムは、そう言って、ヘイホーの母を死ぬまで支援すると俺等に話してくれた。


 俺は、月と黒猫の収入源が、違法労働を斡旋していることだと思っていたが、それは一部のルールを無視した構成員がやっていたことらしい。組織全体としては、違法労働の斡旋は禁止していた。月と黒猫の収入源だと思っていたのは、俺の思い込みだったみたいだ。


 なにはともあれ、抱えていた問題は、一通り解決したか。


「お、みんな集まっているな」


 声の方向を見ると、フラン国王が歩いて近づいて来た。


「国王様」


 俺達四人は、頭を下げる。


「そんな、改める必要はない。俺と同い年なのだ。仲良くしたい」


「そう言われても、国王様」


「国王にため口って、言いづらいよねー」


「おい、フーミン。今その口調で話すと、ため口に聞こえる」


「くす」


 コトミが、俺達のやり取りを見て笑う。


「あははは。面白いな」


 フラン国王も笑う。


「あのー、国王様」


 なんて、反応したらいいかわからない。


「あぁー、悪い。つい、面白くてな。今度、食事会に招待する。その時、いろいろ話そう。俺は、仕事に戻るじゃあな」


 フラン国王は、そう言うと、その場を立ち去った。


「やっぱ。緊張するな」


「緊張するねー」


 俺達四人は、体勢を崩して話した。


「コトミ、俺等の会話おかしかったか?」


「うん。とっても、おかしかった」


「だってー」


「フーミンも含まれるんだよ」


「いて、トッポ殴らないでよー」


 薄暗い地下で、話していた、トッポとフーミン。檻を隔てて話していた、コトミ。その三人と、青空の下で、こうやって笑え合える日が来たことに、俺は幸せがいっぱいだった。

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君を買いたい〜奴隷の彼女とスラム街の青年〜 るい @ikurasyake

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