第3話 不便すぎる
窓の外に広がる雲海と、そこから突き出す何百もの石塔。
これらは全て宗教建築らしく、何らかの神が祀られているようだった。
カケルは家の土台になっている僅かな陸地部分に足を踏み出して、おそるおそるその下を覗き込んでみた。
「ヒェッ……」
彼はそんな情けない声とともにたじろいだ。
白い雲の裂け目、遥か下方に濃い緑色のジャングルと蛇行している川が何本か見える。まるで航空写真のようで現実感がないが、ここから落ちたらひとたまりもないことは明らかだった。
「●インクラフトの天国MODかよ……」
田中カケルがこのファンタジーRPGさながらの天空世界に転移してから三日。
彼が今いるのは雲の上にある村で、ただの民家も含めて全ての建物が空中に浮いている……のだが、彼自身は人間の姿形を保ったまま転移したので飛べない。
周りの鳥人たちが自由に空を飛び交うのを遠目に眺めながら、彼は始まりの村、というか最初に目覚めた女の子の家から一歩も出られないまま留まっていた。
「……不便すぎる」
カケルがベッドに腰掛けて途方に暮れていると、あの半人半鳥の女の子が家に帰ってきた。
「あ、ケンナリーちゃん!」
一切家から出られないので、彼は彼女の帰りを待ちわびていた。
ところが。
「
彼女はそう言って少し怒ったようにむくれた。
「『バー・ハー』が確か『ちがう』って意味だったはず。ケンナリーじゃない、ってことは……、『ハン』ちゃん?」
「
こんな感じで、二人はお互いの言語をまぜ、なんとかカタコトで意思疎通をとろうとしてきた。
「言葉が通じるようになる魔法とかないのかな……」
そんなことをぼやきつつも、彼はこれまでも現地語を覚えようと必死に努力してきた。
「よーし、これだけは覚えてる。『イェー・ノー?』で『何?』の意味のはずだ」
彼は今までの彼女とのやりとりの中で、よく聞く単語などを学生手帳にメモしていた。
「『ワタシ』、
自分の胸に手を当てて、彼はそう言ってみた。
「……
彼女は首を傾げた。
「その『ロー・ノー』っていうのが何だか分からないんだよな……」
彼は再び学生手帳を開いた。
「この『レー』っていうのが『私』みたいな意味かな? そうすると、『
「
彼女は嬉しそうにうんうん、と頷くと、
「
ジェスチャーを交えてゆっくりそう言った。
「そうか、『エー』って名前だったのか! そうすると、『ナン』で名前か?」
彼は続けて「
「よしよし。じゃあ、気を取り直してもう一度。
「アハハッ! タナカー! タナカー!」
彼はただ自己紹介しようとしただけだったが、エーはなぜか腹を抱えて大笑いしていた。
「……なんか変なこと言った?」
今度は彼が首を傾げた。
鳥人族の住む村に連れてこられたが俺には翼がない。 中原恵一 @nakaharakch2
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