悪役令嬢に転生した俺はイケメンハーレムを作って勇者パーティーに対抗。魔王に求婚されて辺境のスローライフが台無し!?前世の知識で産業革命を起こしたら追放までされて大ピンチ!ダンジョン配信でSSS冒険者。

田中満

第1話で最終話

「ああ、俺は何て美しいんだ」


 思わずため息が出る。鏡に映るヒラヒラでフワフワ、それでいて胸とお尻を強調しつつ、肩当てや具足もついているメイド服姿の自分に惚れてしまいそうだ。え?俺は誰かって?ふふふ、俺はこの物語の主人公さ、頭に直接語り掛けてくる異邦人の方よ。せっかく俺の頭の中を見に来てくれたんだ、少し俺がどうしてこんな格好で、こんな場所で、こんな事をしているのか教えてあげる。まだ時間もあるからね、インタビューまでの。え?何のインタビューか、って?ああ、いつものあれさ。ダンジョンの奥深くで魔物と冒険者相手に無双している姿を全世界に配信したらバズってさ、冒険者ギルドにSSSランクを与えられて『永世冒険者』の称号を貰ったんだ。それの記者会見とインタビューだよ。良くあるだろ?


 頭の中に入り込んだ旅人相手に語りながら俺はその場でクルクルと回った。うむ。我ながら絶好調。人も見ているし、ここで回想をする事にした。インタビューの練習にもなるしね。


 全てをセピア色に染め上げて俺は回想を始めた。旅人のためだ、世界の色が変わることくらい我慢してもらおう。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 すべてはあの日、いつものように布団に入ったあの日から始まった。俺の名は不知火傑≪しらぬいすぐる≫、どこにでもいる大学生だ。普通の家庭で普通に育ち、普通に大学に通って普通に生活をしている。趣味も普通、友人たちも普通。何もかもが普通な俺は、当然、ある日起きたら異世界に居た。当然だな、これだけ普通な俺だから。これはそんな俺の普通な物語である。


 自分が転生した事を確認した俺はまず、この世界の事を調べた。運よく執事のアルフレッドが『転生者用百科事典:この異世界の必要な情報全て、改訂版』を持っていたのでそれを10分くらいで読んだ。君も気になるかい?いいよ、後でアルフレッドの頭に移動して読むと良い。1500ページくらいだからすぐに読めるよ。おっと、話が逸れたね。


 そう、この世界にはごく普通に魔王が居て、勇者が居て、誰から見た評価なのか知らないが、悪役令嬢がいる。それが俺だ。普通に育った俺の頭の中にはあらゆるノウハウが詰まっている。車輪から電子顕微鏡まで、何でも作れるだけの知識が、ね。普通に習い事もしていたので楽器から剣術、サバイバル技術から詩の朗読まで、何でも普通にできる。あまりにも普通だったために全くモテなかったのが普通に悩みだったから、ここではモテて、モテて、モテまくりのスローライフを送ることにしたよ。


 そう決めたのは良いが、ここでの俺は女性だった。令嬢と言うくらいだからね。そうなると現実世界とは違うモテ方をすることになるよね?これもアルフレッドに聞いたんだが、俺は悪役らしい。と言う事は、勇者のライバルだよね?パーティーが必要だと思った俺は大陸一個分だか、辺境の村一個分だか自分でも良く分からない広さの領地からイケメンを募った。令嬢の俺は美人だからね。美しい髪の毛に美しい顔立ち。美しくて可愛い目と口。可愛い仕草に美しい雰囲気の俺を引き立てるのはイケメンだと、そう思わないか?


 同意したとみなして話を進めるよ?


 なんしか、イケメンが集まった。みんなザ・イケメンだった。君の想像の通りさ。そしてマッチョだった。これも君の想像の通りだから説明は省くよ。それよりも、当時の会話を思い出してあげる。


「や、君たち。良く集まったね。わたくしが令嬢です。これからわたくしとパーティーを組んで勇者にやられないようにしましょう」


 どっと歓声が上がる。


「うおー!令嬢万歳!!!」

「令嬢様!!」

「結婚してください!」

「一生ついて行きます!」

「飯はまだか、ゴルァ!」

「きゃああ、大好き!!」

「幸せにしてやるよ、俺のチートスキルでな!!」


 とまぁ、こんな反応だったから成功だね。転生した俺が誰にでも好かれるのは分かり切った事だけどさ。何はともあれ、パーティーも組めたし、もう大丈夫なはずだから産業革命を起こすことにしたんだ。ここってほら、中世ナーロッパって呼ばれる場所だからさ、文明の素晴らしさをごく普通に教えて上げる事にした。マヨネーズとか、欲しいじゃない?水道と、トラクターと機織も導入することにした。領地の経済に貢献して、悪役から成り上がるために誰でもする事だよ。


 知識も技術も才能も資材も金も兼ね備えている俺の試みは大成功。途中で領民が屋敷に向かってデモ行進してきたのには驚かされたけどね。なんてスローガンだったかな?確か……


「よめっこさ、仕事奪うなや!」

「地域のパート職を壊す機織にNO!!」

「令嬢は茶だけ飲んでろ!」

「勇者万歳!悪役許すまじ!」


 確かそんな感じだったと思う。流石に困ったよ。イケメンたちがいくらポーズを取って見せても鎮まらなくてね。そこでアルフレッドの提案で全員を処刑したんだ。悪役だからね、俺は。領民の半数が居なくなっちゃったけど、三日で人型ロボットを500体ほど組み上げたら農作業の効率も上がって、結果オーライだった。え?回想中だよ?質問は後にしてよ?え?今聞きたい?しょうがないな。うん、木の枝と、魔法の水晶と牛のフンで作ったんだ、ロボットさん達。誰でもできるよ、普通に育っていたらね。それより、ここからが凄いんだって。


 領民を無慈悲に処刑したって王都の新聞に書かれてね。魔王が感激して結婚を申し入れてきたんだ。驚く事は無いけどさ、魔王って趣味じゃないのよね。角とか生えてるし、尻尾あるし、魔族と人間とその他500種類の生物の血が入ってるんだって。しかも、魔王も転生者で元の世界では賢者と勇者と普通のサラリーマンをやった事があるおっさんが中身なんだって。え?誰情報?君さ、旅人なんだから黙って聞いてよ。求婚の申し出を断るか、どうするかを勇者に相談したんだ。


「ねぇねぇ、名もなき勇者さん」

 俺は自分のふくよかな胸を強調しながら、俺を討伐しに来た勇者に向かってスカートの裾を捲ってパンツを見せてやった。

「あなたも転生者、なんでしょ?うふふ。魔王について教えて下さるかしら?」


 勇者の横で彼が連れまわしている仲間たちがざわついた。特にうるさかったのが勇者に買われたのか、飼われたのか分からない、種族及び年齢不詳のヒロイン5人衆。俺の美しさに嫉妬していると直感したよ。


「お前は有名な悪役令嬢!下品この上なしだと言う噂は本当であったな!このヤマダ・タロウ改め、ウィル・ジェノサイダーが討伐してやろう!」


 名もなき、なんて言っちゃったのが気に障ったんだと思う。キッチリと名乗りを上げて勇者は複雑な魔方陣を描きつつ、剣の舞を始めた。それがチート能力の発動条件だったんだと思うんだよね、分からないけど。でも、残念。同じ転生者の俺には通じない。それは転生する際に女神だか動物だか分からない生物に確認したからね。


「他に転生者がいたらやられちゃうの?」って聞いたら、「大丈夫よ、不知火傑。あなたのチート能力は『チート能力無効化』だから」ってさ。


 それで、勇者に戻るんだけど、叶わないと知って素直に教えてくれたんだ。魔王の事。勇者って、職業柄詳しいからね、そう言うの。しかも、この勇者は転生前にこの世界の元になった小説を読みまくっていたらしい。だから俺の能力も知っていたけど、一度も戦わなかったらヒロインたちに理解されない、って言ってた。大変だよね、女性のハーレム。こっちはマッチョなイケメンだから楽なんだ。ポージングとプロテインと筋トレにしか興味ないから、あいつら。あ、プロテインは俺が開発したやつね。『飲むだけで大きくなる、ABCD配合!XYZ成分倍増!(当社比)』ってやつ。後で分けてあげるよ、旅人さん。


 で、どこまで話したっけ?ああ、そうそう。勇者とは仲良くなって、魔王の申し出は断って、念願のモテモテスローライフを送り始めた10年後にいきなり王様から領地を取り上げられたんだ。うちは全部機械仕掛けになっちゃっててね、税金を納める領民が居ないから税金を一切払わなくなったのが気に食わなかったらしい。心の狭い王族だよ、全く。


 そうやって領地を追放された俺は、アルフレッドと、テレビ局のクルー顔負けの器材を背負い込んだイケメンハーレムと、言葉をしゃべる狐と共に旅に出た。目指すのは、当然、すぐ近くにある『奈落のヘソ』と言うダンジョンだ。地下1万階まであって、日々冒険者たちが入り浸っている。そこで暇つぶしのついでにお宝なんかもゲットしようと思ったんだよね、令嬢のステイタス維持のためにも。


 思い至ったが吉日、って言うよね?早速ダンジョンに潜ったら近道を見つけてしまったんだ。地下一階から地下1万5,000階までのエレベーター。え?1万階までじゃなかったのかって?はは、そう、そこなんだよ。誰も見つけられなかったけど、俺が通りかかったらすぐに気が付いたね。令嬢だもん、観察眼もばっちり。


 で、持ってきた機材を広げて撮影に取り掛かった。あ、「そんなの、ナーロッパの誰が受信するのさ?」って思ったでしょ?ふふふ。そこはまだ領地があった頃に解決済みさ。ご都合主義は嫌いなんだ。だから、言わなかったけど、テレビとか、通信網とかのインフラを全世界に作ってあったんだよね。追放される前に。このダンジョンでの撮影配信も俺が流行らせたようなものだよ。うちのカメラの売り上げも良い感じだった。王様に没収されたのが惜しいよ、1,000億兆ゴールドのビジネスだったから。10年もスローライフ送るとそれくらいできるよ、普通。


 で、話を戻すんだけど、その撮影の様子が受けたんだよ。


「魔物め!覚悟!!」

ブシャッ!

 嫌な音を立てて巨大なゴブリン狼の首やら手足やらが飛ぶ。大地が弾ける力で踏み込んでお見舞いする俺の一撃は重く、身の丈を越える巨大フライパンは振るう度に竜巻を起す。

ドリュッ!

 発生した竜巻はレベル998の『不死者の王』と額に書かれた骸骨をズタズタに引き裂く!

「お嬢!お気をつけなすって!!」

ドバァ!

 俺をかばって飛び込んだイケメンC君が血飛沫をまき散らしながら倒れ込んでいくのがスローモーションで見えた。


「き、きさまぁ!わおーん!!」


 俺は吠えながらフライパンの取っ手から剣を抜くと『飛鳥の舞』を発動させた。これは全身を震わせながら鳥のように舞う事で敵の手足に切り傷を入れて出血死させる、とても恐ろしい奥義。地下1階の冒険者がやったのを一度見たので難なく再現できたことに満足しながらも、俺の心は深い悲しみの深淵にゆっくりと沈みこんでいった。


「イケメンC君……」

「お、お嬢……はぁはぁ……拙者は最早これまで、お嬢は必ずや配信を……ぜはぁぜはぁ……成功させてください……ぐふ」


 ああ、なんてこった。100人いるイケメン中の一人が死んでしまった。配信を成功させる。その決意を胸に俺はスカートをヒラヒラさせながら立ち上がり(言うまでもないが、イケメン君の隣に膝をついて座っていたんだ)、そのまま吠える。


「今日が!貴様らの命日、っだぁ!わおーん!!」


 とまぁ、そんな感じで12時間配信していたんだ。そしたらチャット欄に冒険者ギルドが凸ってきて、ダンジョンの未開の階を発見した功績と、戦いぶりを評価してSSS冒険者の称号をくれちゃる、って書いてきたのよね。今まで聞いた事も無かった冒険者ギルドにSSSの評価を貰ったのが嬉しくて、すぐに地上に戻った。


 地上で俺を待っていたのは想像もできない程の人気だった。ギルドの支店が10メートル先にあったから出向いたら記者会見しましょう、って言われてね。それで今に至る、と。はい、回想終わり。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 回想を終えた俺は世界の色を元に戻した。頭の中で旅人がうごめく気配がする。ふふふ。回想の内容が普通過ぎてびっくりさせちゃったかな?途中は端折ったけど、実は結婚も不倫もしてたんだよね、追放される前。勇者と魔王と。転生者同士、気が合うんだ。


 俺が鏡の前でニヤニヤしながらクルクル回っているとノックが聞こえてきた。


「お嬢様、「アルフレッドでございます。ご準備はよろしゅうございますか?」


時間が来たようだ。これから俺は記者会見に臨む。旅人さんには悪いが、頭から出て行ってもらおう。この記者会見は有料会員にしかライブ配信されない契約なんだ。だから、この先の俺の物語が気になったら一口50ゴールドで登録してくれよな、旅人さん。


 ちゃおー!


 おかげで良いインタビューの練習になったよ!ありがとう、異世界の、人の頭の中を覗き見るのが趣味の異邦人さん!また会おう!

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