病んだ兄弟、行き着いた彼岸は。

 弟は兄を殺した。
 その兄はながらく弟を性的に虐待していた……

 サスペンスで始まる物語は、殺され、ばらばらに解体された兄の首が『死ななかった』ことでホラーとも幻想小説ともつかない境地に分け入っていきます。

 心を病んでいる弟。
 さまざまな要因で(おそらくは兄の性的虐待もその要因の一つじゃないかと推測できます)自身の身体感覚を喪失し、セルフネグレクトの状態になっているように見えます。
 兄に対する屈折した思いをなぞるように、あるいは兄に復讐するように、兄を性的なことの道具に使う弟。
 その行為によって、弟はすこしずつ、自身の身体感覚を取り戻して行く……

 その甘やかにも歪んだ日常の先にあるのは?
 そもそも生首は本当にそこに存在するのか?
 不穏さ、グロテスク、エロス……さまざまな要素をあくまで弟視点の「愛憎」を軸に描くことで不思議な均衡を生みだしている作品。