最終話 イチャイチャがとまらない

「ハァ……ハァ……」


 どれくらい走っただろう。

 婚約パーティをぶっ壊し、クレアの手を引いて走る事、数十分。

 

 ようやく目的地に到着した。


「やっと……着いたな」

「……ハルト、ここって」

「ああ。そうだ。俺と君が初めて出会った場所」


 そう、あのクリスマスイブの日。クレアが悲しげに座っていて、俺と出会った初めての場所。

 とても大切な思い出の場所。


 ぶるっと身体を震わせ、身を抱くクレアに俺は思わず笑みを浮かべてしまう。


「あ、アハハ、流石に寒いか?」

「う、うん……やっぱり、冬は寒いね」

「…………」


 俺は何も言わずにクレアを公園の中へと連れて行く。何だか、視界がぼやけてるな。

 それから初めて出会ったベンチに座らせてから、首に巻いていたマフラーを外す。

 それを優しく、クレアの首元に巻いた。


「……これ、使ってくれ」

「ハルト……何で泣いてるの?」

「……うるさい!! 良いから……!!」

「……うん」


 俺は手袋とジャンパーも脱ぎ、それをクレアに渡す。

 クレアはあの時と同じように、全部着用してから、嬉しそうに微笑む。


「えへへ、あったかい」

「……だろ? ったく、風邪引いちまうからな」


 あの時と何ら変わらないクレアの姿を俺はしっかりと目に焼きつけてから、そっと抱き締める。

 それからボロボロと目から涙が溢れて、止まらなかった。


「良かった……本当に、良かった……」

「ハルト……」

「また……一緒に居る事が出来るようになって……本当に、良かった……」


 多分、今までずっと気を張ってたんだ。

 クレアは大丈夫だって。覚悟を決めたつもりでも、やっぱり、心の何処かに不安はあったんだ。

 それがやっと、無くなって。こうして、クレアが無事で居てくれて……。


 本当に、良かった。


 ぎゅっと、クレアは俺の背中に手を回し、耳元で囁く。


「ハルト、ありがとう。私との約束を守ってくれて……」

「クレア……俺の方こそ。信じてくれて、ありがとう」

「信じるよ。だって、ハルトだもん。絶対にやってくれるって思ったから」


 クレアは俺から身体を離し、ニコっと天使のような笑顔を向ける。


「えへへ、ハルト、すっごくかっこよかった。本当に私を助けに来てくれた王子様みたいで」

「そ、そんな大したもんじゃない。あれは、クレアのお母さんとか、リアさんとか、ワイズマンさんも協力してくれたから、上手くいっただけ。もう一度、やれって言ったって、もう出来ないよ」


 あんな経験はもうしたくない、というのが本音だ。

 あんな衆人環視に晒されて、悪事を糾弾するような真似は。


 心臓がいくつあっても足りない。


「ふふっ。そっか……」

「ああ……なぁ、クレア」

「何? ハルト」


 今なら言っても大丈夫だろう。むしろ、今しかないだろう。


 俺は真っ直ぐクレアのサファイアのように輝く美しい瞳を見つめ、口を開いた。


「君を愛してる……結婚、してくれませんか?」

「…………はい。私で良ければ」


 ニコっと花が咲き、それでいて太陽のように輝く笑顔を向けてくれるクレア。

 そっか。いや、最初から分かっていたけれど。


 俺は思わず口元が緩んでしまう。


「あ、ハルト、ニヤついてる!! そんなに嬉しいの?」

「あ、当たり前だろ!! や、やっと、こうなんていうんだ? 後腐れなく? お付き合い出来るんだから」

「それも、そうだね。じゃあさ、今なら、チューしても良いんだよ? んふふ。ハルト」


 そう言ってから、クレアが目を閉じ、ほんの少しだけその柔らかそうな唇を尖らせる。

 キス顔を晒しながらのキス待ちである。


 バクバク、と俺の心臓が一気に高鳴るのを感じた。それでいて、物凄くキスをしたい衝動に駆られる。

 え? これ、してもいいんだよね? するよ!?


 誰かも分からない人に言い訳をしながら、俺はクレアの頬に手を添える。

 それから優しく、自身の唇をクレアのその潤いある柔らかそうな唇に押し付ける。


「ん……」


 漏れる吐息。永遠にも感じる時間を感じてしまう。

 クレアの唇から顔を離し、俺は顔が熱くなるのを感じる。

 俺の初心な反応とは対象的に、クレアはうふふふ、とだらしくなく顔を歪ませている。


「え、えへへへぇ~。ハルトとファーストキスしちゃった。ハルトも初めて?」

「ま、まぁな。へ、下手だったか?」

「初めてなのに、下手も上手いも分からない!! ただ、もっともっとしたいなって思った」

「そ、そっか……」

「だから、ハルト。帰ろ? 帰って、いっぱいいっぱい、ちゅっちゅしよ?」

「……分かった」


 確かに。外でするのにも限界はあるか。

 俺ももっとクレアとキスしたいし。うん、そうだ。それが良い。


 ひゅぅっと一陣の風が全身を撫で、俺は思わず身体を震わせる。


 さ、流石に寒いな。すると、クレアが俺の手を掴み、笑顔を浮かべる。


「うふふ、ほら。寒くなっちゃう。家でいっぱい、あったまろ?」

「ああ。帰ろう、俺達の家に」

「うん」


 そうして、俺とクレアは自分たちの家へと帰った――。










 懐かしいな。


 そんな言葉が胸の中に生まれてしまう。


 結局、あれからクラーラ家の後始末はクレアのお母さんとワイズマンさん、リアさんが一生懸命やっていて、ハリス家は崩壊したという話らしい。

 その話を聞いた時は流石に気の毒だと思ったが、どうやら、ハリス家は俺たちが明らかにした事以上のヤバイ事もいくつかやっていたらしい。


 その話を聞いたら、妥当だなと思ってしまう。


「ハルト。今日から私、転校初日だけど、同じクラスになれるかな?」

「なれるんじゃね?」

「適当すぎ!! もう。愛する嫁がハルトの側を離れても良いの? あ~あ、私、他の男の子に靡いちゃうかもなぁ~」

「靡かない癖に」


 俺の言葉にクレアはぷんぷん、と可愛らしい怒りを露にする。


「す、少しは嫉妬してよ!!」

「だって、毎晩毎晩、ハルトに愛して貰って幸せ!! とか言ってる奴の何処に嫉妬するんだよ。むしろ、愛されてるって自信持たなかったら、失礼だろ」

「そ、そうだけど!! それとこれとは別なの!! もぅ、ハルトが私の事、好き過ぎるからダメなのよ」

「そういう君もそうだけどな」

「うぅ~!!」


 グリグリグリグリ。

 俺の腕に頭を擦り付けるクレア。

 でも、しっかりと離そうともしない辺り、本当に愛されている実感しか感じない。

 俺はクレアの頭を軽く撫でてから、口を開いた。


「なぁ、クレア」

「何~」

「今、幸せか?」

「…………」


 俺の問い掛けにクレアはぽかーん、と呆然とする。

 やっぱり、質問がちょっと急すぎたか? しかし、クレアはすぐに笑顔を浮かべる。


「んふふ、うん!! すっごく幸せ!! だって、ハルトが側に居るから!! ハルトは?」

「俺? 俺も幸せだよ。だって、愛する嫁が側にいるんだからな」

「もぉ~。そんな嬉しい事言っちゃうの~。うふふ、ちゅー」

「外ではダメでーす」

「むぅ~けちぃ~!!」


 そんな風にイチャつきながら、俺とクレアは道を歩いていく。


 きっと、この道の歩き方はいつまでも変わらないと思う。


 ずっと二人でイチャイチャしながら、ずっと永遠に。この幸福な道を歩いていく――。


――――


 あとがき


 最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 本当に沢山の人に読まれたみたいで、嬉しく思います。


 ただ、個人的な反省点として、シリアス場面はあんまり必要なかったのかなと思います。見切り発車だったので、グチャついたのも反省ですね。

 この作品で自分なりに思った所を反省、生かし、次の作品も頑張っていきます。


 とりあえず、個人的に立てていた目標は達成したので、良かったです。


 次の作品は『吸血鬼のヒロインとのラブコメ』です。

 シリアス成分薄めの日常的なモノを考えていますので、また機会があったら読んでみて下さい。

 明日には出せるように頑張ります。


 最後になりますが、本当に読んでくれてありがとうございます。  作者

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聖夜にフラれた俺、金髪美少女を拾う。~拾った彼女の婚約者になったらイチャイチャが止まらない YMS.bot @masasi23132

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