天使
平 一
天使
当時私は図書館員だったが、その日は休館期間中で、
返却された本の整理のために一人で出勤していた。
だから、誰もいないはずの館内で本を運んでいた時、
いきなり不審者と出くわした私は、腰が抜けるほど驚いた。
思わず「うわっ!」と叫んでしまったが、
よく見るとまるでアニメから抜け出して来たかのような、
可愛い天使の姿をした女の子だ。
「ひゃあ! わわっ、私は怪しい者ではありません!」
夢中で本を読んでいたようで、 彼女も負けずに驚いた。
……とはいえやっぱり、いかにも怪しい(笑)。
「いや、でもこんな所でそのかっこう……」
「ああ、その、これですね? じゃあこうすれば?」
白い衣装や双翼がちらちらと
よく街で見かけるような服装に変わった。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666028988970
「おおっと天使様が……こりゃあ凄い!」
オカルトに興味がある私はまず、話を聞いてみることにした。
「今の変身、もしや何らかの地球外技術では?」
そしてSFには、もっと興味がある。
「ああ、そういう方なら話が早い! 実は私、宇宙人でして」
確かに私は、どんな方だと言われても文句はいえない
純度100%、混じりっけなしの中二病オタクである。
だけど貴方の
「ではなぜ宇宙人が、こんなところに?」
「仲間と、はぐれてしまったんです。
母国で大規模な内戦が起きてしまい、
敵の襲撃を避けるために本隊は避難しました。
地上にいた私だけが取り残されて……」
涙目になった。 これは何だか、大変そうだ。
「母国って、どこから来たの?」
「銀河帝国です。 銀河系全体で、数十万の種族がいます。
知的種族の大集団を、治めているんです」
全銀河系って、デカすぎでしょ(泣)!
でも君主制かあ……宇宙は広いから、
まとめていくのも大変なんだろうな。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666029108557
「地球は大丈夫かな? 巻き添えとか……」
「すぐに影響が及ぶことは、ないでしょう。
でも状況次第では、帝国との公式接触が早まるとか、
どこが勝つかで将来の関係が変わるとか、
そういったことはあるかと思います」
まあ私達は今のところ、恒星間航行もできないから、
少なくとも脅威とは見なされないだろうね。
「貴方が地球に来た目的は? もしや侵略とか、監視とか?」
「いえいえとんでもない! 文明発展度の調査です。
私達は皆さんが大昔に文明化を始めた頃から、
ずいぶん古いな! 〝古代の宇宙人〟ってやつなのか?
「当時の先輩達は、神様や悪魔を演じながら、
それでさっきのコスプレか……時代か場所を間違えたな。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666029293198
「でも、フェルミ・パラドックスって聞いたことある?」
「色々と頑張って探しても、宇宙人らしい
電波信号とかがないってお話ですよね?
ごめんなさい、私達が隠していたんです。
先進種族がその……発展途上種族といきなり交流すると、
過剰依存や士気低下、先進技術の誤用の危険があるので」
君が謝る必要は、ないけどね。
私もそんな可能性を、考えたことはあるし。
「内戦というのは?」
「皇帝種族の側近団として政府の要職を占める、
軍事種族同士の争いです」
「種族が要職を占める?」
「最先進種族は母星の量子頭脳網に
外部の量子頭脳や人工体に
寿命を克服したうえに、高い環境適応能力も得ました。
そのうえ個々の人格とは別に、種族全体の集合人格を作って、
国連の理事国みたいに役職を務めることもできるんです!」
銀河文明の超先進技術をいともあっさりと説明した後で、
彼女は少し恥ずかしげに、でも嬉しそうに微笑んだ。
「でもまあ私達は……権力争いなんかが苦手で、
途上星域の支援を希望した、文民種族なんですけどね」
何だか頼りない気もするが、悪い連中ではなさそうだ。
「戦況はどうなの?」
「帝国の中枢である銀河系の中央部は、
大変なことになっているみたいです。
恒星まで破壊するような大量破壊兵器が使われて、
皇帝種族の
彼女は以前から軍事種族の暴走を心配していたし、
私達もそれを防いであげたくて、
平和的種族の育成に努めていたのに……」
彼女はまた、泣き出しそうな顔をした。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666029623290
「君はこれからどうするの?」
「必要なら地球の方々にも協力をお願いしながら、
助けが来るのを待つしかありません。
宇宙船にある量子頭脳と連絡がつくまでは、
この人工体の知識と能力だけで生き延びるしかないんです。
本当に、せっかく銀河系全体を統一できた国が、
こんなことになってしまうなんて……」
しょんぼりとして、本当に困った様子だ。
まるで
同情した私は、何か慰めの言葉をかけてあげいと思った。
「人工体が生きるのに、何か助けは要る?」
「生物学的特性は人類に合わせてあるので、
何十年かは普通に生きられます」
「じゃあ大丈夫だよ! 最悪の場合でも、
国か国際機関に保護を求めて待てば、きっと帰れる。
戦争があってもそれを教訓に、平和な国を立て直せばいい。
まあ
私達人類だって同じような道を
「ありがとうございます。 少し気持ちが楽になりました。
それでは……というのも
せっかくの機会ですので、もしお時間があれば、
地球の皆さんが〝文明〟というものについて
どう思っているかを、お聞かせ願えませんか?」
おおっと、よくぞ聞いてくれました!
ていうか先生! 私の考えを聞いてください。
私は文明論にも興味があるが、
悲しいことになかなか
人類文明を助けてきた宇宙人とそんな話ができるなんて、
SFオタクには夢のような
彼女の心配も
人類のいいところだって、見せてやりたい(笑)。
まずは職場や警察に通報すべきかとも思ったが、
恐がらせたりすれば、たぶん逃げられて終わりだ。
こちらの理解と誠意を示しておけば、
彼女からも知識や協力が得られるかもしれない。
相手は超技術を持つ異星人、私はただの一般人だから、
機密漏洩の心配もない(苦笑)。
「よかった! 私も文明には関心があって、
お話したいと思っていたんです。
そうですね……まず、人類は文明により
発展してきました。
それって要するに、頭を使って生きることですよね?」
「まさしく、高度な知的生命活動の様式です!
その力を得た種族をお助けするのが、私達の使命です」
文明支援が仕事というのは、本当らしい。
「〝生きる〟という活動は、それに必要な富や財、
資源と呼ばれるものを、作って分けることで営まれます。
特に人間は物事の関係を知る〝技術〟と、
大勢の活動を決める〝政策〟によって、
より良く作り、分けられるようになった。
因果関係の原因に働きかければ利益が得られるし、
役割や報酬を決めて皆で動けば争いも減るからです。
文明活動の本体は全ての人々による経済・社会活動ですが、
富を生んでそれを豊かにする〝技術〟と、
富を分けてそれを健全に保つ〝政策〟が
文明の両輪だと思うんです」
「そう……確かに、おっしゃる通りですね」
彼女は何だか、面白そうな表情になった。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666030044952
「ではそのような
技術が進めば社会が変わり、社会が変われば政策も変わり、
その政策が新技術導入を促すという、文明の
例えば昔の人々は、食べ物を探して野山を
そうは言っても、農業時代の力仕事は大変だったので、
次に動力機関を中心とする、工業技術を開発した」
「同感です。 知的種族の向上心には限りがないですし、
技術は新たな利益だけでなく、課題も生みますから、
文明の発展って、止まれないところがありますよね。
それに技術が進むほど、その開発には政策的な、
資金や人材、物資などの支援が必要になる……」
おおっ、同意してくれた!
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666030236761)
「大きな力と速度を持ち、正確に動く機械によって
物や人、情報の流れが増えると、
それらを効率的に
さらに社会活動が複雑化して、
普通の
人工知能が必要になった。
このAIの本質は、膨大な情報から因果法則を学習・
適用して、創造的判断も行える自動最適化
……どうでしょう?」
「技術にも、色々な種類がありますよね」
「ええ! 今のは技術の世代による分け方ですが、
同じ世代で他要素との関係による分類もあります。
確かに農耕や動力、電算、AIは社会に直接働きかけて、
文明の発展段階を分ける〝画期技術〟です。
でも、それを物的資源に具現化して利用するには、
土木建築、電気機械、光電子、
〝実現技術〟が必要不可欠です。
また、技術自体の開発を助ける〝研究・開発技術〟や、
人を動かし
ないと、文明は発展できません」
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666030320918
「ああ……よくお勉強されているんですね」
馬鹿にされているのかな?と気になったが、
彼女は眼を見開いて、本当に感心しているようだ。
人工体だと知性も
私は分かりやすい説明をつけ加えた。
「私はこれを覚えやすいように、〝生んで育てて、
変えたら助ける〟4つの技術と呼んでいます。
技術が技術を生んで、物資に育てて、社会を変えたら、
政策を助ける、なんて想像すると面白いでしょう?」
彼女は「何だか
くすっと笑ってくれた。 よし、次に進もう!
「また、この〝文明の
技術にできることが増えるほど、政策がすべきことも増える
という、〝文明の
簡単に言えば、〝モノを作って分けたなら、
ヒトも高めて活かしましょう!〟という順番でね」
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666030357871
「それって、例えばどういうことですか?」
彼女は小首を
本当はどんな
こういう姿はとっても可愛らしい。
「まず、農耕技術から工業技術までは、
モノの生産、安全に役立つところが大きい技術です。
だから農耕・工業時代の国家政策といえば、
まずは人手を集めて治水工事や都市建設を行うとか、
作った物を守るために年貢を取って兵隊を養うという、
国土開拓や軍事活動でした。
富の安全も含めた生産のための技術を
健全に開発・利用する、
〝技術的政策〟が大事だったんです」
「そう言われると、私達の軍事帝国もそうでしたね……」
彼女は何かを昔を思い出すような遠い目をした後、
その内容を確認するかのように、目を細めた。
私はほっとして、先を続けた。
「しかし工業技術が発達していくと、
モノの配分、流通も大きく改善する。
国が豊かになれば、その富をどの産業に投資するか、
豊かになれない人々をどう助けるかなども考えないと、
他国に
そこで、富の投資を含む分配自体に意味のある、
産業振興や社会保障など〝経済・社会政策〟も重要になる」
「ああ! 確かに帝国でも、産業種族が発展したり、
途上種族への支援が行われたりしています」
今度は、何だか納得ができて嬉しそうな表情だ。
「そう?」 私も喜んだ。
「さらに情報技術や人工知能ともなると、
ヒトの定型的または創造的な知的活動を助けてくれます。
それらはまず、産業ロボットや自動交通管制などで
モノの生産と配分を効率化・最適化できますが、
加えて医用電子機器やAI創薬、遠隔教育、個別学習に
応用すれば、ヒトの支援を含む向上も可能になる」
「モノを作って分けたなら、ヒトも……」
「まさにそうです!」
「そして、生活が向上する一方で、
少子高齢化や社会の複雑化が進み、
健康水準の低下や教育難度の上昇がおきる時代には、
それらの技術を活用した介護・疾病予防や、
子育てと教育・医療の連携といった政策が不可欠です」
「技術にできることが増えると、政策がすべきことも
……なるほど、増えてますね!」
ああ、ついてきてくれてる(感涙)!
「特にAIは、仕事の省力化・高度化がますます進み、
企業方針も含めた政策の立案に移っていく中で、
意見集約や適材適所など、ヒトの
そこで、人々の健康や教育を高める〝人的資源政策〟と、
政策自体の国際化や官民協働、市民参画に向けた
〝行政管理政策〟も重要になっていくでしょう」
彼女はますます、嬉しそうな顔をした。
「確かにおっしゃる通りですね!
今では先進種族の中にも、医療や教育に
有力種族が増えてきましたし、
今後は途上種族を国の中核として育成しつつ、
種族を問わず
「本当に?」 安心した私は、まとめに入った。
「では、以上のような変化は要するに、
文明全体にとってどんな意味を持つのか?
私は、次のように考えました……。
農耕技術は体外物質の利用により、文明を生み出した。
工業技術とは体外
情報技術は体外情報の利用、つまりは大量高速な
演算・記録・通信により、文明活動を効率化させて、
地球という空間的限界に到達した衝撃を
そしてついにAIでは、体外知性の利用により、
従来はある意味で環境の〝外側〟にあった文明の利器を、
より複雑な対応が必要になっていく環境となじませて、
持続的発展を
「持続的発展?」
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666030752702
「そう! AIは新素材・
他の多くの技術を飛躍的に高めて、社会を変える。
それでは、それら全てに共通する特徴は何でしょう?」
「むむう……なんでしょうね?」
眉を寄せて考え込む顔も、可愛いな(笑)。
「AI中心の次世代技術は、機械を自然に優しくし、
人間も含めて生物を機械のように修復・改良し、
人間にしかできなかった仕事を機械にさせ、
争い少なく人々の利害を調整することができます。
つまりそれらの共通項とは、人工物と自然物の間の
壁を取り払って、双方の持続可能性を高める、
体内環境含めた自然・社会環境に優しい性質なんです!」
「ほう! 確かに技術と環境をなじませるというのは、
新しい切り口だし、大きく社会を変えますね!」
私は何だか、試験で良い点数をとった生徒みたいに
誇らしい気持ちになった。
しかし彼女はそこで、不思議そうに尋ねてきた。
「でもよく考えると生きることって、そもそも
命をつなぐっていう、持続を求めることなのでは?」
よくぞ聞いてくださいました!
ここからが本題、お話の
「おっしゃる通り! 私もそこで悩みました。
そして、答えは持続の
詳しく言うとその方法や種類では? と気づいたのです。
人類は今、モノの生産と分配、ヒトの向上と活用、
全ての分野に渡る課題に直面しています。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666031045524
つまり、地球の限界からくる資源・環境問題や、
経済・社会活動の複雑化による利害調整困難、
腐敗・衆愚化・
経年・経代的な健康水準低下、
政策の国際化や民主化に伴う制度変更の必要性です」
……疲れてきたがここが肝心、あと少しだガンバレ!
「農耕時代に資源枯渇や格差拡大が起きた時は、
植民地を求めて国外に進出すればよく、
開拓や戦争の中で私みたいな虚弱者や、
遅れた制度も
「え? 淘汰なんてそんな……」
私はあわてて話を進めた。
「でも豊かな工業時代には、産業振興や社会事業が
教育・保健や制度改善も助けたでしょう。
情報時代の効率化はさらに、各種の文明活動における
「文明の恩恵ですね」 ほっとした笑顔。
いやあ、優しい宇宙人だなあ(微笑)。
「しかし今では、地球の限界や世界の一体化、
生活水準向上や武器の強力化によって、
それだけでは代償が大きく、効果も足りず、
特に戦争などは自滅的でさえあります」
彼女は無言で、
でもこれは、私達が歩んできた歴史でもある。
人類の、罪や本音も認めよう。
今後は悲劇が、起きないように……。
「これに対してAIなどの環境親和技術は、
全ての政策課題で安価・安全・根本的に、
文明の持続的発展を実現できる。
だから今後の政策も、その次世代技術を活かして、
モノの生産と分配だけでなく、ヒトの向上と活用も助け、
環境、経済、人間含む社会、そして政策自体の
全分野における惑星文明の持続可能性をめざす、
総合的な政策になるのでは?と思うんです」
さあ、異星からの訪問者は何と言うだろう?
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666031330245
「現代文明の課題には、次世代技術と総合政策……」
彼女は真面目な表情で少しうつむき、考え込んだ。
ちょっと早口になっちゃったし、難しかったかな?
だけど、彼女の意見がとっても聞きたい。
しかし意外なことに、彼女は少し表情を
「でも文明の発展って……あらためて考えてみると、
できることが増えるほど、すべきことも増えるなんて、
何だかイタチごっこか、モグラ叩きですよね。
せっかく色々できた技術に限界が来たとたん、
その問題が増えて返ってくるとか、意外と無理ゲーかも。
自転車操業というか、マグロの泳ぎっていうか、
ええと……『赤い靴』?」 ちら、とこちらを見た。
おっと突然
困っているところに長々と話を聞かされて、
ますます疲れちゃったかな?
ごめん、これじゃあ逆効果だ! 私は動揺した。
「いや、でも大人になるってそういうことでしょう?
技術のおかげで能力が高まり、仕事も楽になっている。
完全な技術なんてないし、人間の欲には際限がない。
むしろ万能技術の楽園でボンクラになる方が恐いかも」
「そっか……そうですよね! 生きるって元々大変だし、
これまで文明で栄えてきたし、今すぐ捨てることもない。
解決策がないと困るけど、見えてるんなら
後はそれに向かって
明るい微笑みが戻った。 いや~前向きな性格で良かった。
もしや私の心の強さを試したか? 恐るべし異星人(笑)!
「まあ実はこれって私達人類の、今の公共政策の
受け売りみたいなもので……すみません。
国連や国、自治体の政策にあった〝持続可能性〟とか、
〝誰ひとり取り残さない〟〝人間の安全保障〟とか、
〝ソサエティー5.0〟といった言葉を調べている時に
考えついたことなんです。
だから上の人達は、とっくにご存知なのかもしれない。
でも、今では私みたいなオタクでさえ気づき、
誰でもウラがとれる事実と論理だけで分かるんだから、
もう間違いなくみんなが知らなきゃヤバい知識だ!って
思っているんです」
偉そうにならないよう、元ネタも白状しておこう。
彼女は何やら、考え込んでいる。
銀河大戦やってる人達に惑星文明の持続を説くなんて、
世間知らずのお人好し、と思われるだろうか?
でも、私は人間の理想だけを信じているわけではない。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666032077473
人間性の本質は
呼ばれるような、良くも悪くも限りない欲求だ。
それは知性で色々な願いを
ことから、必然的に生まれてくるものだと思う。
もしかすると、技術を可能とする〝知的〟想像力は、
政策を必要とさせる多様な〝人間的〟欲求と、
文明発展の中でお互いに高め合う、
だとすればその欲求は当然、社会の維持や再生にかかる
対価や代償の低減だって、求めるだろう。
彼女達が神や悪魔を演じて私達を文明化したのなら、
必ずやそのことも心得ているはずだ。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666032544379
しばらくして、彼女は口を開いた。
「実に興味深いご意見ですね……。
そういえば帝国でも、惑星の環境改造と植民や、
高次空間
量子頭脳への
特色ある新世代の技術が生まれては、広まりました。
これらはちょうど、農業・工業・情報技術にあたります」
彼女はさらに続けた。
「となると次は、AIなどの環境親和技術にあたる技術です。
でも帝国では、今回の内戦からも分かったように、
地球における人工物と自然物の違いよりも大きな、
種族間の違いが問題となるので……ああ、ありましたよ!
まさに種族間親和技術といえるような、
新技術を開発している技術種族がいます!
量子頭脳の遠隔接続や共同利用、人工体の共通化……、
これは大変参考になりました、有難うございます。
……おお!」
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666033035226
彼女は突然、何かに耳を澄ますように、
目を見開いて
「母船と連絡がつきました!
私達の種族は穏健な軍事種族や産業・技術種族、
それに恒星間を渡れる途上種族の協力も得て、
平和の回復にあたることを決定したようです。
どうも大変、お世話になりました。
参考になるお話を、有難うございます。
残念ですが緊急
ここで失礼させていただきます」
私は彼女が助かったことを喜びながらも、
状況の急変に動揺した。
「えっ? そうなると、私達人類は……?
あと、君達の名前だけでも」
再び
彼女は一瞬、少し悲しげな表情を浮かべた後で答えた。
「実は……私達はサタンと言います。
すみません、他の種族のことを考えて、
悪役を演じる時は私達の名前を使ったので、
初めはちょっと言いづらかったんです」
しかし、変身後はすぐに元気を取り戻し、
瞳を希望に輝かせながら、こう言った。
「でも、もうじき公式の接触と説明が
行われることが決まりましたよ。
私達は、貴方達の優しさを忘れません。
これからも、よろしくお願いしますね!」
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666034059952
彼女はにっこりと微笑んで窓を開け、
重力制御も使っているのか、優雅に翼を
飛び去っていくその姿は、再びちらちらと輝いて消えた。
ただ、入館時にも役立ったであろう光学迷彩が
切り替わるその時、翼の生えた猫みたいな影が見えた。
その後の展開は、歴史の本にある通りだ。
旧帝国の文明開発長官だったサタンは新王朝を設立すると、
その基本形態はやはり、
猫科の動物のような姿をしていた。
ただし、彼女達は昔から皇帝種族と深い関係にあり、
特に良識的な亡命者達を大量に受け入れることで、
実質的には混成種族となっていたようだ。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666034497926
新政権は好戦的な側近種族達を平定した後、
見事に帝国を再建・復興し、国政を民主化しつつある。
当時、すでに側近種族達は互いの抗争で弱体化しており、
穏健派種族の核となるサタンを滅ぼせなかった時点で、
その敗北は決まっていたとも言われている。
図書館の天使は、いわば〝ノアの箱舟〟の物語における、
オリーブの枝をくわえた鳩のような、
希望のしるしだったのかもしれない。
もっとも彼女は、全てを話していたわけではない。
何と側近種族の一つが、皇帝種族の人格群が宿る量子頭脳、
通称
彼女達はその捜索に従事していたのだ。
だが人類は、後に他種族と合同部隊を編成し、
その救出作戦も行って、劇的な成功を収めた。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666034801191
そして今、
仮想空間の中で現皇帝種族の
その代表人格はいつものように、
猫耳と
年配者から見ると何ともマニアック……もとい(笑)、
本来の個体と似ていて、親しみやすい
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666035053978
「人類の皆様、このたびの
心からお喜び申し上げます。
かつて私が文明開発長官を務めていたとき、
人類は最も有望な若き種族のひとつでありました。
〝先帝〟救出作戦での目覚ましい功績はもとより、
素晴らしい発展の歴史から得られた貴重な知識も、
現在までの国家運営に大きな助けとなっています。
ここに私は皆様への深い感謝を表すると共に、
そのさらなる繁栄と星間社会への貢献を期待し、
今回の大いなる成果を心から祝福いたします」
……たぶん彼女は、すでに知っていたのだと思う。
そもそも彼女は人類の文明発展を支援してきた、
長い歴史をもつ種族の一員だ。
今にして思えば共有人格の思考能力は神に近いし、
個体の能力もそれなりに高かったはずだ。
一方私は、文明論に興味はあっても普通の市民だ。
彼女達は正式な交流を始める前に、
私のような一般人を
民主政を
同時期に似たような事例が、他にも数多くあったようだ。
とはいえ、それは実に面白い経験だったし、
星間国家の繁栄も、そこでの人類の成功も喜ばしいことだ。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666035702856
まあ、今回得られた
量子人格になっても〝
定期的に快適な仮想空間を離れて、現実世界で
活動する義務があるのだが……やれやれ。
いつの時代も仕事は面倒だが、生き甲斐にもなる。
感謝の気持ちに感謝で応え、頑張ることにしよう。
想定よりも長生きしたが、まだまだ知らないことも多い。
やはり人生は前向きに楽しまないと、もったいない。
地球では〝天使な魔王サタンちゃん〟(笑)とも呼ばれる
愛らしい彼女の姿を見ながら、あらためてそう思った。
https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330666036205850
天使 平 一 @tairahajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
文明のヒミツ!/平 一
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 6話
文明のひみつ/平 一
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 4話
AI文明論/平 一
★6 エッセイ・ノンフィクション 完結済 6話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます