第5話 このムキムキエルフの勘違いに乗っかる





「テストの内容は簡単だ。僕の攻撃を避け続けろ。無論、手加減はしてやるから安心しろ」



 冒険者ギルドの裏手にある広場で、俺はムキムキエルフのドレッドと対峙していた。

 太陽の光を反射してムキムキエルフの筋肉が輝いている。


 アカン。


 このムキムキエルフの攻撃を避け続けるとか俺がスライムに勝つより難しい。



「やるだけ時間の無駄だと思いますけど」



 絶対に避けられない。


 だってこのムキムキエルフ、全身からオーラみたいなのが出てる。


 いや、オーラみたいに見える湯気だ。


 太陽の光が当たって汗を掻き、体表温度が高すぎてすぐに蒸発してるのだ。


 絶対に強い。少なくともスライムより強い。



「……ほう?」



 ムキムキエルフの目が細くなる。


 おっと。俺は何か勘に触るようなことを言ってしまっただろうか。


 でも事実だからね、仕方ないね。



「では、手っ取り早く行くぞ。リリー、開始の合図を頼む」


「あ、は、はい!! では――」



 リリー?


 ああ、リリーというのは受付のお姉さんのことか。


 リリーお姉さんが開始の合図を出そうとする。


 ちょうどその時、冒険者と思わしき青年たちが見学がてら俺の試験を見にやってきた。



「お? ギルマス直々の試験か」


「げっ、あのチビスケ大丈夫かよ? ギルマス、この前試験に来た野郎を半殺しにしちまったじゃねーか」


「……多分? まあ、大丈夫じゃね?」



 ねぇ、ちょっとそこの通りすがりの冒険者さん?


 そういう怖いこと言うのやめてもらえます?

 怖くて膝ガックガクで動けなくなっちゃったんですけど!!



「――始めッ!!」



 開始の合図と同時だった。


 突風が吹いた。

 そして、俺の目の前にはムキムキエルフの拳があった。


 ……え? あれ? これ死ぬんじゃね?


 俺は直感的に死を悟る。


 お父さん、お母さん、すみません。俺は一足先に天国で待っています。


 天国って美味しい食べ物とかあるのかな? うーん、観光案内所が天国にあったら良いんだけどなあ。


 なんて考えていると。



「ふっ、ふはははははははッ!!!!」



 ムキムキエルフが高らかに笑った。


 よく見ると、俺の目と鼻の先で拳がピタリと止まっている。



「まさか、瞬き一つしないとは思いもしなかった!!」



 いや、瞬きする暇も無かっただけですが。


 ていうか見えなかったし。もう気付いたら目の前に拳があったし。



「合格だ、少年。君には冒険者になる資格がある!!」


「え、どゆこと?」


「ふっ、とぼけるつもりか? 最初から分かっていただろうに」



 ん? え、まじで意味不明なんだけど。



「実はな、この試験に意味は無い。君の言う通り、時間の無駄なのさ。冒険者に必要なものが何か知っているか?」


「……知恵と勇気です」


「その通りだ」



 お、適当に言ったら当たった!!



「この試験は勇気を試すものだ。その意図を見抜いている時点で時間の無駄」


「……試験の意味が無いのでは?」


「形の上では必要というだけだな。何より、この試験の意味はギルマスと極一部のギルド職員しか知らん。それを瞬時に見抜いた……。君には、冒険者に必要な知恵がある!!」



 えー、まじっすか。俺って知恵があったのか。



「まあ、この試験の本質を知っていても、僕が本当に殴らないという保証もない。寸止めするとは君も思っていなかったろう? だが、君は瞬き一つせず僕の拳を最後まで見つめていた。それは、勇気の証明にもなる」



 いや、そもそも別に試験の本質を知らないです。


 素直にそう言いたかったが、ムキムキエルフが楽しそうに笑っている。


 ……よし、この勘違いに乗っかっとこう!!


 冒険者は舐められたら終わり、みたいな風潮が今もあるってモヒカンマンも言ってたし、『全てお見通しですとも』みたいな態度で行ったろうやないか。



「俺が見抜いていると、ギルマスは見抜いていたわけですか。流石です」


「ふっ。何年王都のギルマスをやっていると思ってる。このくらいは朝飯前……と言いたいが、くっくっくっ。君ほどの逸材は滅多に見ないな」


「ふ、ふふふ」


「くっくっくっ」



 もう笑うしかねーや。



「あはははははははは!!!!」


「ははははははははは!!!!」



 なんでお前まで笑うんだよ。



「ちょ、ギルマス!! ペラペラ喋りすぎです!!」


「おっと、そうだったな。この試験の本当の意味は内密に頼むぞ。じゃないと僕がグランドマスターに怒られちまう」



 困った困った、とリリーさんに叱られながらも全く困った様子無くギルマスが笑う。


 だから何を笑てんねん。



「やったね、フォルト!! ボクは信じてたよ!!」


「オレは最初から合格するって思ってたぜ!!」


「お、お怪我が無くて良かったです!!」


「肯定。凄かった」


「わはははははは!!!!」



 ヒイロたちが俺に駆け寄ってきた。


 なんで君らは俺が合格するって確信できたんですかね? ソースはどこよ、ソースは。


 スライムにも勝てない俺がこんな筋肉の妖精みたいなムキムキエルフに勝てると思ってた根拠は何よ。



「コホン。とにもかくにも、少年。君は今日から冒険者だ。……励めよ」



 そう言って、ムキムキエルフが俺の頭をガシガシと撫でてきた。


 ちょ!! 痛い!! 加減しろやボケ!!


 ……いや、待て。

 相手はギルドマスターだ。ここは媚びを売っておくべきだな!!



「はい、頑張ります」



 すると、ヒイロたちが便乗してきた。



「もっちろん!! ボクたちは最強を目指してるんだから!!」


「ほう!! 良い目標だ!!」



 おっと? 別に俺は目指してませんが?



「おうよ!! オレたちは王都だねじゃねえ、世界最強になるんだ!!」


「わ、私も頑張ります!!」


「同意。皆で、どこまでも」


「わははははははは!!!!」


「ふっ、ははなはなははは!!!! そうか、最強を目指すのか!! 良いな、チビスケ共!! 気に入った!! 困ったことがあったらいつでも相談に来い!!」



 ……ま、まあ、一応、胡麻すりは成功、かな?


 こうして俺たちは冒険者となることができたのであった。






 その、数時間後。






「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


「終わった」



 俺はドラゴンと遭遇していた。


 いや、意味分からん。


 なんで冒険者になって数時間でドラゴンと遭遇してんの、俺たち?



「ドラゴンだあ!! 皆、倒そう!!」



 こらヒイロ!!


 人が絶望してる横で嬉々としてドラゴンに襲い掛かるな!!







――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントムキムキエルフ設定

ムキムキ。筋肉で斬撃を弾く。


「笑った」「主人公の強いか弱いかの判断基準がスライムになってんの草」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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この勇者パーティーが神すぎる!〜幼なじみたちがチート過ぎてリーダーを押し付けられた俺の評価が留まるところを知らない〜 ナガワ ヒイロ @igana0510

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