第4話 この幼なじみたちが退路を断ってくる




「……もう無理……まぢ死ぬ……俺は冒険者になるべきじゃない……」


「あーあ、フォルトが凹んじゃった」



 スライムとの決戦は呆気ない終わりを告げた。



「まあ、フォルトって昔から運動苦手だったしねー」


「体力もねーし、腕っぷしも弱いし。剣の腕前に至ってはへなへなだったしな」


「あ、あんまり気にしないでください。人には向き不向きがありますから!!」


「肯定。まさかスライムも倒せないとは思わなかった」


「わはははは!!!! フォルトはクソザコだったのだ!!」


「ねぇ、お前ら五人中四人には慰めるっていう選択肢が無いの? 鬼畜なの? 流石のフォルトさんも激怒案件だよ?」



 スライムに勝てなかった。


 思ったよりも動きが速くて攻撃が当たらず、反撃を食らって撃沈。


 その間にヒイロとゾートがスライムを全て倒してしまった。


 とどのつまり、俺は役立たずだったってわけ。



「……俺は肉壁にすらなれない……俺は駄目な子……スライムにすら勝てない冒険者……」


「うーん、深刻に考えすぎだと思うなあ。あっ、王都が見えてきたよ!!」



 ヒイロが荷台から御者台の方へ身を乗り出して、外を指差す。


 そこには高い壁に囲まれた大きな街があった。


 あれがサンブレイド王国の王都。

 この国のあらゆる品や文化が集まる王国最大の都市だ。



「おおー!! 凄い凄い!! 人がいっぱい!!」


「うわ、すっげー!! ドワーフだ!! 初めて見たぞ!!」


「わわわ、あっちはエルフです!!」


「進言。人が多くて……うぷっ、酔った」


「わはははは!!!! 人がゴミのようなのだ!!」


「ちょ、皆さあ!! お上りさんだと思われるじゃん!!」



 ほら見ろ、道行く人々が俺たちの方を微笑ましいものを見る目で見てるぞ!!


 特に奥様方の目が優しい!!



「あら、あの子たち……」


「王都は初めてみたいねー」


「可愛いわあ」



 俺は恥ずかしい思いをしながら馬車を降り、おじいちゃんにお礼を言う。



「「「「「「ありがとうございましたー!!」」」」」」


「うむうむ。頑張って良い冒険者になるんじゃぞー」



 おじいちゃんと別れた俺たちは、その足で冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドは国を跨いで存在する機関。


 その存在意義は冒険者の管理と、彼らへの仕事の斡旋だ。

 冒険者ギルドとは絶対に問題を起こしてはならない。


 万が一、冒険者ギルドのブラックリストにでも乗ろうものなら大変な目に遭う。……らしい。


 どうなるのかは知らない。



「ここが冒険者ギルドか……」


「なんか、思ってたより綺麗だね。ボク、もっと荒れてて『ヒャッハァー!!』してる人がいるかと思ってた」



 冒険者ギルドの建物は意外にも綺麗だった。


 建て替えたばかり、みたいな感じで建物自体に汚れが無い。


 荒くれ者の集う場所を想像していた俺たちは、困惑しながらも冒険者ギルドの建物に足を踏み入れる。



「ようこそ、冒険者ギルドへ!! ご依頼……じゃなくて、冒険者登録かしら?」



 受付の綺麗なお姉さんが笑顔で迎えてくれる。


 俺たちみたいな十歳のガキンチョが冒険者になろうとするのは珍しくないのか、特に気にするわけでもなく書類を取り出した。


 そして、諸々の手続きを済ませ、いざ冒険者になる!!


 というところで。



「申し訳ありません、スキルの無い方は冒険者になれないのです」



 はい、トラブル発生。もう笑うしかねーや。


 さあ、皆さんご一緒に!!



「あっはっはっはっ!!!!」


「なんで!? 冒険者って誰でもなれるものじゃないの!!」


「その、本当に言いづらいのですが……」



 その時、事の成り行きを聞いていたと思わしきモヒカン頭の大男が俺たちと受付のお姉さんの会話に割り込んできた。


 おお、如何にも荒くれ者って感じがする!!



「へっへっへっ、何も知らねえガキ共だな。仕方ねーから俺様が色々と教えてやるよ」


「……おじさん、誰?」


「俺様はゴードン。通りすがりの冒険者さあ」


「ボクはヒイロ。それから愉快な仲間たち」


「ちゃんと紹介しろ」



 ヒイロが俺のツッコミを無視して、ゴードンが色々と教えてくれる。



「いいか? 冒険者ってのは常に危険がつきまとう。いつ死んでもおかしくない。だが、数年前に行われた冒険者の死亡率調査であることが判明した」


「あること?」


「ああ。死亡した冒険者のうち、スキル無しが九割だったのさあ。これは良くねぇってことで、数年前に冒険者ギルドのグランドマスターに就任したお偉いさんが、冒険者になるための最低基準を設けたのさ」



 あー、その最低基準がスキルの所有ってわけか。



「そんな話、聞いたこともないよ!!」


「まだ最近の話だからなあ? 見たところ、田舎から出てきたばっかだろ? なら知らなくて当然さ」


「スキルが無くても冒険者になる方法はないの!?」


「一応、試験を受けて冒険者になることもできる。だが、それには確かな実力と人格を備えてなくちゃあいけねぇ」



 実力はともかく、人格まで?


 俺の中での冒険者って言ったら、食うか食われるかの弱肉強食。


 人格なんて二の次ってイメージだけど。



「へっへっへっ。冒険者はグランドマスターの就任と同時にクリーンな組織になったからなあ? 汚職してた幹部は軒並みクビ、犯罪まがいの行為を繰り返していた冒険者も資格を剥奪され、冒険者ギルドは信頼と実績を売りにし始めたんだよ」


「「「「「「ほえー」」」」」」


「まあ、そうは言っても弱肉強食な世界に変わりはねぇ。上にバレないよう弱そうな冒険者から金を巻き上げたりすることは今でも横行している。下手したら殺されるなんてこともなあ? 精々気を付けるこった」



 それだけ言い残して、モヒカンの男が冒険者ギルドの建物を出ていく。


 ……あれ?



「なんか、見た目の割に親切な人だったね」


「金でもカツアゲされるかと思ったぜ」


「そ、そうですね」


「同意。でも普通に親切な人だった」


「わはははははは!!」



 ただの親切なだけだったゴードンに俺たちが驚いていると、受付のお姉さんが困ったように笑う。



「あ、あははは。彼はあれでも、うちのギルドで一番の腕っこきで面倒見が良い人なんですよ。今日だって少ない報酬で盗賊退治の依頼を受けてくれましたし」


「どう見ても盗賊側じゃん」


「あ、あははは……。本当になんであの人、あんな恰好してるのかしら?」



 ヒイロの言葉を受付のお姉さんが笑って誤魔化す。


 しかし、でも、そうか。


 スキルが無いと冒険者になれない。なら、俺は冒険者になることができない。


 ……仕方ない。ここは諦めて故郷に帰り、畑を耕そう。



「じゃあフォルト!! 試験、受けよう!!」


「おっと? 話を聞いていらしたか、ヒイロ。確かな実力と人格が無いと合格できないって言ってたの聞いてた?」


「聞いてたよ!! でもやってみなきゃ分からない!!」



 いやいや、絶対に無理だって。


 俺、スライムにすら勝てなかった男だよ? 試験とか無理に決まってんじゃん。



「ほう? 書類仕事が嫌になって息抜きがてらロビーに来てみたら……。冒険者志望のひよっこたちがおもしれぇ話してんじゃねーか」



 冒険者ギルドの受付カウンターの奥の部屋から、男が出てきた。


 大男だったゴードンが小さく見えるくらいの、超大男だ。

 筋肉がムキムキで、何故か上半身は裸。そして、ピンと尖った耳。


 エルフだった。ムキムキエルフだった。


 あれ? エルフってここまでムキムキマッスルな種族だったっけ?

 


「あ、ギルマス!!」


「よお、ガキ共。僕は冒険者ギルド、サンブレイド王国王都支部のマスターをしている、ドレッドという者だ」



 この見た目と言動で一人称が『僕』なのか。新鮮すぎるだろ。



「試験を受けるのはお前だな? 付いてこい」


「え?」



 ムキムキエルフのドレッドが、俺の方を見ながら言う。



「あの、どこに?」


「決まってんだろ? 冒険者になりたいんだったら、試験を受けなきゃならん。僕が直々にテストしてやる」



 いや、あの、俺は故郷で畑を耕したい……。



「フォルト!! 頑張れ!!」


「オレはお前ならできるって信じてるぜ!!」


「け、怪我しちゃメッ、ですよ」


「同意。気を付けて」


「わはははは!!!!」



 えぇー、幼なじみたちに退路を断れたんですけどぉ。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントどうでもいい設定

ムキムキエルフからはお花のフローラルな香りがする。


「親切なモヒカンで草」「ムキムキエルフで草」「フローラルな香りで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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