第3話 この幼なじみたちが人任せすぎる





「ねえ、言っとくけどさ。これ誘拐だからね?」


「失礼な!! ちゃんとおばさんに許可はもらったよ!!」


「親公認の誘拐事件は一大事なのよ」



 俺の名前はフォルト。


 現在、簀巻きにされた状態で馬車に乗せられ、幼なじみたちと王都へ向かっていた。


 こうなった原因は全てヒイロにある。


 俺が冒険者になることを諦めたその時、彼女が至って真面目な顔で言ったのだ。



『スキルが無いならリーダーやってよ。ボクは戦いに集中したいし』



 否、彼女だけではない。



『オレら小難しいことできねーしな』


『というわけで一緒に冒険者になりましょう!!』


『同意。拒否権、無し』


『わはははははははははは!!』



 ゾート、リザーレ、テナ、ドラウも俺と一緒に冒険することに賛成しているようだった。


 いや、泣くほど嬉しかったよ? 本当に。


 スキルが無くても、皆と一緒にいていいと思ったらわんわん泣いた。


 でもね、やっぱり不安なのよ。


 冒険者は常に危険がつきまとう職業だ。時には同業者を相手にすることもあるだろう。


 果たして俺は冒険者としてやっていけるのか。


 夢は夢のままにしておいた方が良かったのではないかとも思うのだ。


 思って、いたのだが……。



「まさか拉致られるとまでは思わんよ。別に逃げる気まではなかったし」


「もー!! さっきからごちゃごちゃうるさいよ、リーダー」


「そうだぜ、リーダー。大人しく諦めろ」


「えっと、が、頑張ってください、リーダー」


「面倒なことは全部任せた。リーダー」


「わはははは!!!!」



 やだ、こいつら嫌い……。



「ほっほっほっ。随分と仲の良いパーティーですなあ」


「ねぇ、おじいちゃん。一人を簀巻きにして拉致るパーティーのどこが仲良しに見えるの? 目とか腐ってない?」


「ほっほっほっ。儂の目は腐り落ちるにはちと早いですな」



 俺たちが乗っている馬車は、村に立ち寄った行商人のおじいちゃんのものだ。


 これから王都に商談で向かうらしく、ついでに乗せてもらっている。



「あ、そうだ!! リーダーはフォルトで決まりだけど、まだ大事なこと決めなきゃだよね!!」


「おいこら。本人の意志を無視しないで」


「「「「パーティー名!!」」」」


「うん、パーティー名を決めるのも大事だよね。でもその前に仲間の拘束を解く方が先じゃない?」



 俺の言葉を完全に無視してわいわい話し合い始める幼なじみたち。



「ここはボクのスキルの名前をそのまま使うってのはどう? 『天を越えて至りし剣オーバードブレイド』!!」


「いや、オレの『斬れると思ったものを剣で斬るワンチャンスラッシュ』だ!!」


「『狂乱の癒し手バーサクヒーラー』……は、少し違いますね」


「間を取った、私の『深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗くメイドインアビス』が一番いい」


「わははは!! ワタシの『馬鹿は人間の言葉使うなモンスターコミュニケーション』がいいのだ!! ……ところで馬鹿ってどういう意味なのだ? 馬と鹿って何なのだ?」



 えぇ……。



「ねぇ、皆もしかして本気で言ってる?」


「「「「「うん」」」」」


「……あのね、まずスキルって大きなアドバンテージなのよ」



 俺は五人へ言い聞かせるように教える。



「スキルはその持ち主の切り札と言っても過言じゃない。それをわざわざ周知させるような真似はしない方がいい。……あ、いや、ドラウのはいいかな。名前からは効果が分からんし」


「おおー!!」


「否定。私のスキルも名前からは効果を想像できない。私のスキル名もパーティー名に適している」


「いや、分かる奴は分かる。『深淵』は魔法関連のスキルによく使われるものだからな」


「……むぅ」



 テナは学術的な本を読むのが趣味だから知らないのだろう。

 逆に、俺は過去の英雄の伝記を読むのが好きだったから知っている。


 スキルの効果には、少なからず名前と関わりがあるのだ。


 逆に『馬鹿は人間の言葉使うなモンスターコミュニケーション』のようなスキルは名前からでは効果が分からない。



「うーん、じゃあボクやゾートのスキルはすぐに剣に関連するものって見抜かれちゃうのかー」


「そういうこと。だから、そうだな、全く関係ない言葉をパーティー名にした方がいいかも知れない」


「あ、あの、すみません」


「ん? どうしたの、リザーレ」



 おずおずと手を挙げるリザーレ。



「あの、行商人のおじいちゃんにスキルの名前がバレちゃってるんじゃ」


「「「「「……」」」」」


「ほっほっほっ。年寄りは耳が遠いので気にしなくていいぞい」



 人の良さそうなおじいちゃんで良かった。


 情報を扱う商人も世の中にはいないこともないからな。

 まあ、このおじいちゃんが情報を売らないとも限らないんだけど。



「とにかく、スキルをパーティー名にするのは反対だ。もっといいのを考えよう」


「じゃあ、フォルトが決めてよ!!」


「えぇ? 人任せすぎない?」


「だってボクたち、ネーミングセンス壊滅的だもん。ゾートなんか犬にゴッドイーターって名前つけるくらいだし」



 ああ、あれは酷かったなあ。



「急に考えろって言われてもなあ。こう、何か具体的な目標的なものが欲しい」


「そりゃあもちろん!!」



 ヒイロがバッと立ち上がり、高らかに宣言する。



「最強だよ!! 誰にも負けない、誰も辿り着いたことが無い高み!! そこにこの六人で行くこと!!」


「……ふむ。じゃあ、『天を越えて至りし領域オーバードヘヴン』とかどう?」


「えー!! なんかボクのスキルみたいな名前になってるよ!!」


「だって他に思いつかないし」



 参考にできるものが各人のスキルしかないなら、何気に一番かっこいいと思ったヒイロのものを使いたいじゃないか。


 深い理由は特に無い。



「ふむ。少し良いですかな?」


「ん、どったのおじいちゃん?」


「魔物が出たので、将来有望な冒険者たちに討伐を依頼しても?」



 荷台から顔を出した俺たちに、御者台に腰かけるおじいちゃんが前方を指さして言う。


 その先には魔物がいた。


 スライムという、冒険者なら誰でも簡単に倒せるような魔物だ。


 ぷるぷるのゼリーみたいな身体で、種類によっては装備を溶かしてくるのもいるから意外と危険な魔物である。



「よーし!! ボクがやる!!」


「あっ、ずりーぞ!! オレにも戦わせろ!!」



 馬車からヒイロとゾートが飛び降りて、スライムに攻撃を仕掛ける。


 俺たちの装備は村の人々から受け取った餞別品だ。

 お世辞にも高性能とは言えないが、スライムを相手取るのに支障は無い。


 問題は、まだ魔法を習得していないリザーレやテナがいることだろう。


 二人も最低限の装備はしているものの、戦わせるのは不安が残る。


 よし、ここは俺も戦うぜ!!



「リザーレとテナは馬車の中で待機!!」


「ワタシは何をするのだ!?」


「ドラウは……えっと、好きなようにしてて!!」



 ぶっちゃけドラウには指示を出しても理解できないという確信がある。


 俺はショートソードと小盾を構え、ヒイロやゾーと共にスライムに斬りかかった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントキャラ設定

ドラウは人の言葉を話していることが奇跡的なくらいのお馬鹿。


「拉致られる系主人公は草」「無理やり連れてこられたのか……」「面白い!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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