第2話 この幼なじみたちがスキルを授かる






 とある田舎の村にある教会。


 女神様の彫像が中心に置かれており、どこか神聖な空気で満ちている。


 今日は十歳になった子供たちが女神様からスキルを与えられる日。

 心無しか、女神様の彫像も笑っているような気がする。


 その彫像の前で聖典を持った神官さんが言った。



「君はスキルを持っていないですね、フォルトくん」



 とてつもなく申し訳なさそうに、努めて真顔で神官さんが俺に言う。


 そして、同時に慰めてくる。



「気にしてはなりませんよ。むしろ、スキルを持っている方が珍しい。私だってスキル無しですし、冒険者になるのを諦めることはありません」



 俺が五歳の頃に村へ来た神官さん。


 彼は俺の冒険者になるという夢を知っているがために、ばつの悪そうな顔をしているのだろう。


 俺は笑顔で誤魔化す。



「大丈夫です。俺は気にしてないので」


「……女神様は酷い御方だ。君ほど信心深い子に加護をお与えにならないとは」



 それ神官が言っちゃっていいの?


 まあ、この神官さん、普通にお酒とか飲むし、村長の家でギャンブルしてるような人だし、大丈夫なのかな。


 でもそっか。スキル無し、か。


 たしかにスキルが無くても冒険者になることはできるだろう。


 しかし、俺がなりたかったのは勇者や英雄。


 歴史に名を連ねる英傑たちは揃いも揃ってチートスキルを持っていたらしい。


 チートっていうのは、女神様の導きによって異世界から召喚されて勇者が使った言葉で、『反則的な』みたいな意味で使うとか。


 まあ、スキルを授からなかった俺にはチートも糞も無いのだが。



「じゃあ、次はボクの番だ!! フォルト、見ててね!!」


「分かってるよ、ヒイロ」



 しゅばば!! と神官さんの前に移動したのは、俺の幼なじみのヒイロだ。


 この辺りではまず見ないような、純白の髪と黄金の瞳の持ち主で、かなりナルシストなところがある美少女だ。


 両親が他界しており、祖父である村長のところで育った。


 一人称が『ボク』だから紛らわしいけど、普通に女の子である。


 神官さんの手がヒイロの頭に触れ、鑑定魔法を発動する。

 鑑定魔法は聖典に記されている魔法の一つで、触れている相手のスキルの名前と効果を聖典に写し出す効果があるらしい。


 聖典の魔法は凄いよね。聖文字を読めたら誰でも使える魔法だし。



「こ、これは!!」


「え? 何々? もしかしてボク、凄いスキルでも授かってた? まあ? ボクってば神様に愛されてる系美少女だし――」


「『天を越えて至りし剣オーバーブレイド』」


「ちょ、無視しないでよ!!」


「剣を召喚するスキルのようです。また、この剣は何らかの条件を満たすことで成長するみたいですね」



 何それカッコいい。



「じゃあ次はオレだな!! フォルト、オレを応援してろ!!」


「応援って意味あるのかな? 頑張れー、ゾート」



 今度は真っ赤な髪を逆立たせていた少年が神官さんの前に立つ。


 彼の名前はゾート。

 村の鍛冶師の一人息子で、昔から剣をブンブン振り回している幼なじみ。


 物事の判断基準が「カッコいい」か「カッコよくない」かの二つしかない愛すべきバカだ。


 神官さんが鑑定魔法を発動する。



「こ、これは!!」


「おお!? オレもスキル持ってたか!? フォルトの応援に意味があったのか!?」


「『斬れると思ったものを剣で斬るワンチャンスラッシュ』。斬れると判断したものを剣で斬れるようになるスキルですね」



 え、凄いな。俺の応援の効果かな?



「次は私、ですね。あぅ、緊張してきました。変なスキルを授かったらどうしましょう、フォルトくん」


「スキルにも当たりハズレがあるしねー。まあ、リザーレなら大丈夫じゃない?」



 次に神官さんの前に立ったのは、気弱そうな金髪碧眼の女の子だった。


 神官さんが村に来る途中で拾った子で、今は村の孤児院の子供たちとまとめ役みたいなことをしているしっかり者。


 淑やかで気立ての良い、村一番の美少女だ。


 え? ヒイロも美少女じゃないのかって? あっちは自称だよ、こっちは他称。



「こ、これは!!」


「ふぇ!? な、何かありましたか!?」


「『狂乱の癒し手バーサクヒーラー』。治癒系統の魔法を使う度に暴走し、誰彼構わず回復するようです」



 なんか意味分からんスキル授かったな。



「次。私の番。きっと凄いスキル授かる。フォルトみたいにはならない」


「え? なんか喧嘩売られてる? 買うよ? テナ」


「気のせい」



 ナチュラルに俺に喧嘩を売ってきた淡い水色の髪と瞳の少女はテナ。


 リザーレと同じ孤児院の育ちで、昔から聖典を読み解いたりしている。

 頭が良くて、王都にある魔法学園に通いたいと昔から言っていた女の子だ。



「こ、これは!!」


「さっきから同じこと言ってる」


「『深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗くメイドインアビス』。魔法の習熟速度が上がり、知らなくていいことまで識ってしまうそうです」



 え、なんか物騒なスキルじゃない?



「わははは!! 最後はワタシなのだー!! フォルトの分まで良いスキルを授かってやるのだ!!」


「ねぇ、もうちょっと気を遣って発言してくんない? ここまでスキル授かってないの俺だけで傷付いてるんだけど」


「わははははははは!!!!」


「聞けやい」



 最後に神官さんの前に飛び出したのは、エメラルドグリーンの髪をツインテールに束ねた女の子。


 名前はドラウ。

 元気なのが取り柄で、元気すぎるのが欠点。テナ同様、人の傷つくことをサラッと言う子。


 顔は可愛いけど、わんぱくな性格が苦手だ。


 顔は良いんだけどね、顔は。大事なことだから二回言った。



「こ、これは!!」


「おお!! ワタシもスキルを持ってのだ!?」


「『馬鹿は人間の言葉使うなモンスターコミュニケーション』。魔物の言葉が分かるようになるスキルみたいですね」



 どうでもいいけど、スキルの名前に悪意ありそうじゃない?


 ……ないか。ないよね。


 女神様が考えた名前だとしたら、あまりにも酷いというか。


 まあ、スキルって唯一無二らしいし、人それぞれ違う効果と名前を考えるのは大変だろうけどさ。


 それにしても。



「スキルを授からなかったのは俺だけか」



 別に、スキルを授からないのは珍しい話じゃない。

 神官さんが言っていたように、むしろ授かることの方が稀なのだ。


 幼なじみ五人が揃いも揃ってスキル持ちだったことの方がおかしい。


 だから、そこは別に何とも思わない。



「あれ、なんだろ。少しモヤッとする」



 別にスキルが無くとも、十歳になったら冒険者になることはできる。


 でも、ああ、少し違うな。


 俺は多分、この五人幼なじみたちと一緒に冒険がしたかったのかな。



「一緒に冒険者なんかやったら、足手まといだろうなあ」



 うん、思考を切り替えよう。


 冒険者になるのはやめて、畑でも耕そうかな。



「ねぇねぇ!! 昔、皆で約束したみたいに冒険者になろうよ!! フォルトも一緒にさ!!」



 ヒイロが屈託の無い笑顔で言う。



「俺は遠慮しとこうかな」


「「「「「……え?」」」」」


「元々スキルが授かったらなろうかなって思ってた程度だし」



 嘘だ。

 本当は皆と一緒に冒険者になりたい。


 でも皆の足手まといにもなりたくないのだ。


 冒険者は荒くれ者が多い。舐められたら終わりの世界だ。

 スキル持ち五人なら舐められることは無いと思う。


 でもスキルを持たない俺がその中に混じっていたら、明確な弱点になってしまう。


 スキルを持っていると見せかける方法もあるが、いつかはバレるだろう。

 そうなった時、ほぼ間違いなく五人の足を引っ張る。


 だから、俺は田舎で畑でも耕しているのがお似合いだ。



「フォルト……」



 ヒイロの悲しそうな表情が、俺の脳裏に焼き付いてしまう。


 仕方ないじゃん。


 そう自分に言い聞かせてた時、ヒイロは至って真面目な表情で言った。



「スキルが無いならリーダーやってよ。ボクは戦いに集中したいし」



 おっと? お前はなんでいきなり戦闘狂になってんの?





――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言

個人的には『馬鹿は人間の言葉使うなモンスターコミュニケーション』が一番好き。


明日から朝7時頃更新します。


「スキル名で笑った」「この子好き!!」「面白い!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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