この勇者パーティーが神すぎる!〜幼なじみたちがチート過ぎてリーダーを押し付けられた俺の評価が留まるところを知らない〜

ナガワ ヒイロ

第1話 この勇者パーティーのプロローグ




 勇者になりたかった。


 誰もが憧れる英雄になりたかった。


 何よりも強くなりたかった。


 でも、俺は自分にその資格スキルが与えられなかったことを知っている。

 スキルとは、十歳を迎えた少年少女が女神様から授かる力だ。


 それが与えられなかったということは、挑むことすら許されていないということ。


 だから俺は夢を諦めた。冒険者になるという夢を。


 同じ故郷で育った幼なじみたちと共に世界中を渡り歩き、未知を知る旅に出ることを、諦めたはずだったのに。


 彼女は畑を耕そうと決めた俺に向かってこう言った。



「スキルが無いならリーダーやってよ。ボクは戦いに集中したいし」



 否、彼女だけではなかった。


 同じく旅立ったチートスキル持ちの幼なじみたちが、揃いも揃って俺に言うのだ。



「オレら小難しいことできねーしな」


「というわけで一緒に冒険者になりましょう!!」


「同意。拒否権、無し」


「わはははははははははは!!」



 俺は涙を流し、彼らと共に行くことを決めた。


 そして、めっちゃ後悔した。


 彼女たちは誰よりも、何よりも強かった。


 人の形をした怪物たちのリーダーとなった俺の評価は、留まるところを知らなかった。


 誰だよ、俺が古竜ワンパンしたって噂を流した奴。


 スライムにすら勝ったことねーよ。











 勇者パーティー。


 それは、サンブレイド王国の国王から直々に勇者の称号を賜った少女が率いる一党だ。


 その存在を知らぬ者はいない。


 冒険のために街へ立ち寄れば盛大に歓迎され、すぐ大騒ぎになる程である。



「お、おい、見ろよ!! 勇者パーティーだ!!」


「歴史上で二人しかいない白金ランクの冒険者じゃねーか!! 本物かよ!!」


「よく見て!! 首から下げた白金色の冒険者プレート!! 間違いなく勇者よ!!」



 新人であろう冒険者たちが目を輝かせている。



「あれ? あの地味な奴は?」


「白磁ランクの冒険者プレート? なんで最低ランクの冒険者が一緒にいるんだよ」


「どうせ荷物持ちでしょ。金魚のフンじゃない」



 この勇者パーティーの中で地味な奴はたった一人しかいない。


 俺だ。名前はフォルト。


 いや、ここは敢えて言わせて欲しいのだが、俺は地味ではないのだ。

 顔はそこそこ整っている方だと思う。


 俺が地味に見えるのは、俺の周りが華やかすぎるせいに他ならない。


 俺の所属する勇者パーティーの面子、幼なじみたちは揃いも揃って美形ばかり。

 そりゃそこはかとなくイケメンなだけの俺は浮くよねと。


 金魚のフン、という部分には全く以って同感だ。


 俺は冒険者なら片手で始末できるスライムすら、倒せた経験が無いからな。


 我ながら誇らしいくらいに雑魚なのだ。



「ぷっ、がははははッ!!!! お前ら、見る目がねーなあ!!」


「まったくだな!!」



 新人であろう冒険者たちにベテランの風格を漂わせる中年冒険者が話しかける。



「な、なんだよ、おっさん」


「ちょっと、まともに相手しちゃ駄目よ」


「まあそう言うなって。お前ら新人に本当のことを教えてやるよ」


「「本当のこと?」」



 ああ、やめて。お願いだから。



「まず言っておくが、あの人に絡むのはやめとけ」


「なんでだよ? 鎧も着てねーし、俺たちより弱そうだぞ」


「必要がねぇんだよ。攻撃が当たらねーから」



 ベテラン冒険者が真剣な面持ちで言う。


 新人冒険者たちはそのあまりの気迫に呑まれ、言葉を失った。



「どういうこと?」


「そのままの意味だ。奴にはどんな攻撃も当たらない。防御してるとか、無効化してるとかじゃない。当たらないんだ」


「い、意味分かんねーし」


「有名な話だ。奴はトラップだらけのダンジョンを装備無しで攻略しちまったことがある」


「「「はあ!?」」」



 違います。偶然です。


 偶然作動したトラップが当たらなかっただけの話です。


 鎧を着てなかったのはギャンブルで溶かしたパーティーのお金を補填するために装備を売っ払ったからです。



遭遇エンカした古竜を相手にしても奴は負傷すらしなかった。というか、奴が怪我したところを見た奴が一人もいない」


「い、いやいや、流石に偶然か盛った話だろ。古竜って言ったら国軍が全滅する相手じゃねーか」



 そう、君は正解だ。


 そもそも俺は真っ先に逃げたからね。古竜の相手は幼なじみたちに任せた。


 仕方ないじゃん。怖かったんだもん。



「そうでもない。これは噂だが、奴は未来予知のスキルを持っているそうだ」


「は? 未来予知?」


「ああ、奴はすべてを知っている。だから攻撃を避ける必要が無い」


「で、でも、未来予知のスキルって……」


「そうだ。あらゆる可能性を見てしまうが故に、その使い手は例外なく廃人化する。心がぶっ壊れちまうからな」



 そんな物騒なスキルは持っていないよ。というかスキルすら持ってないよ。


 頼むから変なこと吹き込まないで。



「考えられる可能性は一つ。未来予知のスキルを最低限しか使用していないってことだ」


「え? じゃあ、どうやって攻撃を回避してるんだよ?」


「多分だが、予測してんだろうな。わずか数秒先の未来を視て、そこからもっともっと先の出来事を計算している」


「に、人間にそんなことできるのか?」


「できなかったら、今頃奴は古竜の胃袋――いや、フンになってるだろうさ」



 やったね、金魚のフンから古竜のフンにレベルアップだ。……やかましいわ。


 未来の予測とかしたことねーよ。


 強いて言うなら夕飯のメニューを当てるくらいしかできないよ。


 それもたまに外れるし。



「で、でも、未来が分かるなら、そもそも古竜と遭遇しないように立ち回れるんじゃ?」


「それがなぁ、奴はいい性格をしてるんだ。勇者パーティーの面子を鍛えるために、わざと古竜と遭遇したらしいぜ」


「はあ!? 下手したら死ぬじゃない!!」


「そう、死ぬ。死ぬような相手と戦わせまくったから、勇者パーティーは最強になったって話だ。まあ、その古竜は結局勇者パーティーの面子じゃ倒せなくて、奴がワンパンしたらしいが」


「こ、怖っ」



 誰だよ、その鬼畜で馬鹿みたいに強い奴。俺、知らないんだけど。


 否定したい。ものすごーく、とても否定してやりたい。


 でも、俺にはできない。


 だって冒険者は舐められたら終わりの暴力がジャスティスな世界だ。


 だから俺は、いつも噂に乗っかっている。

 実物はどうあれ、俺の存在が勇者パーティーの弱点なのは確かだから。


 故郷の村で畑を耕していた俺を冒険に連れ出してくれた幼なじみたちに迷惑をかけたくない。


 ああ、勇者パーティーを辞めるのがベストな選択肢ということは分かっている。

 冒険者になるのは小さい頃からの夢だったが、もういいのだ。


 ぶっちゃけ実力以上の評価をされても困る。

 意味不明な難易度のモンスター討伐クエストとかで普通に死にそうな目に遭うし。


 やめたい。むしろ、今すぐやめたい。


 でも……。



「ねぇねぇ、フォルト!! 次はどんな冒険に行こうかな!!」


「オレは強いモンスターと殺りてぇぞ!!」


「皆さん、怪我はしないように気を付けてくださいね?」


「同感。怪我されたら、困る。新しいモルモットを探すのが面倒」


「わははははははは!!」



 こいつらを見てると、一緒にいたくなっちゃうんだよなあ。


 本当にどうしてこうなったのか。


 全てはあの日、俺たちが十歳になった日から始まったのだと思う。


 俺は今に至るまでのことを、ふと思い出すのであった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の挨拶

新作です。一昨日同じようなタイトルで投稿しましたが、改めて読み返して修正したい箇所が沢山あったので一度消しました。せっかく★評価していただいた方々には本当に申し訳ありません。すみませんでした。


「面白いからええんやで」「意地でも自分を責めさせないスタイルは嫌いじゃない」「続きが気になる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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