第86話 公爵令嬢は異世界でパイロットを目指す(最終話)
フーリーが国王になったのでわたし達の学年は6人、今は図上演習の最中、これが学校最後の授業だが、実時間に対応しているので、数日間演習室に閉じ込められた状態。
部隊が待機中は数刻の間何も起きず、定時報告のみの状態が続いたりする、
「ニコレッタ、第3中隊を左翼の救援に向かわせろ」
「ただいま3中隊は敵の偵察部隊と接敵致しました」
「他に誰も残っていないのか!」
「ルッツ、落ちついてください、指揮官の動揺は周りに伝染しますよ」
図上演習ではリアルさを追求した結果どこで何が起きているのか? まったく分からない状態で長期間集中を強いられて、的確な判断を下せない、
貴族学校6年の夏学級は最後の授業、演舞会でお披露目をしたければ課題をこなさなければならないが、図上演習の赤軍はわたしにドレスを着せたくない様だ。
「ニコレッタ、何か良い方法はないのか?」
「全力で右正面に向かいます」
「そんな事をすれば1中隊が全滅してしまうぞ」
「このままでは大隊が全滅いたしますよ、ルッツ決断を!」
◇◇
演習搭載官から辛口評価をもらった後に校長先生がやって来て、
「アヴァンセの皆さん、これで本校の授業は全て終わりました、六年間お疲れ様でした」
この言葉を聞いた瞬間涙腺は崩壊して皆と抱きあった、アヴァンセの7人この学校で培った気持ちは忘れる事はないだろう。
”こーがく”の卒業式以来の気持ちの昂ぶりを感じた……
あれ? わたしは貴族学校以外の学校に通った事はないはずだけど、
卒業後の進路は様々、自身の領地に戻り、親の下で領地経営を学び、将来の領主となる者、中央の官僚として就職する者、騎士団に入り己を研鑽する者、
わたしの進路は官僚でもなければ領主でもない、飛行工房の責任者の地位が待っている、数年して第三王子のフォビアが卒業したらわたしと結婚するだろう、
使い方次第では最強の武器となる飛行機を縛る為の鎖だと思うと業腹だが、王宮に反逆する意思は無いと示しておかないとね。
そうそうアルミンのその後だが、交易額は予想以上のペースで伸びている、オステンブルク領内には“動員用”の道路が整備されていたし、補給基地アントニオは今や一大商業都市となり、人間と羊人が活発に商いをしている、領地は一ミリも獲得していないけど経済的な利益はしっかり頂いたよ。
◇◇
一人用小型機“アヴィスパ”
以前から飛行工房のスタッフの間ではドワーフの塔をどれだけ早く周って来られるか、と言う遊びが流行っていたのだが、
そんな事なら専用の機体を造ってしまえ、とばかりに仕上げた機体だ、トレイス機のエンジンを流用しているのだが、機体が軽いので信じられないくらいの出力重量比、運動性を重視した翼断面は信じられないくらい小さな旋回半径で飛びまわれる、
バブル型のキャノピーからの視界は飛行に乗っていると言うよりも飛行機に跨っている様な感覚になる。
湖の上に浮かべた数個の魔具からは光り塔が立っていてその間をすり抜けてタイムを測ると言う競技、
「今の一番は誰?」
「エリカですが僅差でヨハンネです」
「それでは第三組が離陸しますよ、ニコレッタ」
「まぁ、最後に勝つのはわたしですけどねフェルナンダ伯爵」
「その口と同じ位プロペラを回してくださいな」
相変わらず負けず嫌いなフェルナンダだ“こーがく”にもそんな奴がいたね、
“こーがく”何だったかな、時々頭の中に浮かんで来る謎の単語、
いかんいかん、今はレースに集中しよう。
公爵令嬢はパイロットとなり異世界の空に飛び立った。
エイボニア某所
「エンゲルブレヒト様、発射の準備が整いました」
「うむ、見せてみろタカーシよ」
転生者タカーシが合図をすると200M先の的に向けて氷弾が発射され、厚い木の板を打ち抜いた、
「見事だぞタカーシ」
「ありがとうございます、この銃は水魔法で生成した水を弾の形に凍らせ、風魔法で発射します、魔石の魔力が無くなるまで撃ち続けられます」
「これは個人用だな」
「左様でございます」
「奴らはすごい速さで空を飛ぶ、そんな乗り物を落とせるか?」
「もしかして飛行機の事でしょうか?」
「知っているのか?」
「対空砲、あっ飛行機を落とす為の砲をこう呼ぶのですが、一発必中を狙うのは難しいです、それよりも多くの弾をばら撒き弾幕を張ればば効果的かと思われます」
「造れるか」
「お任せください、エンゲルブレヒト様」
どんよりと曇ったエイボニアの空と同じ色をした荒れる海、その海の向こうを見据える流浪の王子。
最後までお読みいただきありがとうございました。
転生公爵令嬢は異世界でパイロットを目指す アイディンボー @miguel92
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