第4話 太陽を見たエルフ、泥にまみれたオーク
――許せない、許しておけない!
俺はエルフを見た瞬間に、言葉にできない激しい感情に支配された。憎悪が渦巻くように押し寄せる。今すぐに殺さなくては。
「者ども、こいつらを殺せ! 俺に続け!」
「誰がお前についてくるというのだ?」
俺を見下している。それがはっきりとわかった。
そして、もう一つのことがわかる。俺の配下のオークたちはすでに全滅していた。咄嗟に振り返ると、エルフの矢で射殺された部下たちの死屍累々とした姿が目に入る。
エルフの特殊な矢は音も発さず、放ち、殺すことができる。ということは、先ほど音が鳴ったのは俺たちを
ズサッズサズサッ
今度は音が聞こえた。もはや音を消す必要もないのか、それとも自分の骨を伝って音が聞こえたのか。
俺の全身に矢が突き刺さっていた。どす黒い血が噴出し、意識が遠のく。ぬかるみに倒れ込み、俺の全身は泥にまみれた。
「ふんっ、この場は片付いたか。実に醜悪な化け物だな。忌々しい」
いけ好かないエルフが吐き捨てるように言った。
それを別のエルフが助言するように言葉を発する。
「けれど、オークの大将はこいつのようだね。これで指揮系統はガタガタになる。後は雑魚狩りだよ」
だが、俺を苛立たせるエルフは収まりがつかないようだ。なおも文句を重ねる。
「私の兄も暗黒の軍勢に滅ぼされた。優秀で強い兄だったが、数が多すぎたのだ。魔王が迫っていたという情報もある。
しかし、もしもこんな醜い化け物に殺されたのであれば、兄も浮かばれないだろうな」
俺の意識は少しずつ回復しつつあった。全身は痛みに苛まれているが、それに耐え、どうにか
改めて、エルフたちを見る。その体からは光が放たれているように見えた。そうか、こいつらは
かつて、エルフの中には神々の国へ赴き、太陽の光を直接見たものがあった。その光はエルフの身体に宿り、その肉体を強靭にし、その精神を崇高なものにしたという。そして、神々の知恵と技術を学び、地上へと帰ってきたのだ。
そのため、
思い出した。かつて、俺もその光を浴びている。神々の国へ赴いたことがあったのだ。
魔王の手にかかり、殺された俺はその存在を歪められ、
苛立ちの理由がわかった。エルフはかつての自分だ。その存在が目障りだった。
醜悪な化け物と化し、衝動のまま、本能のままに生きる怪物となった。かつての美しさも、気高さも、知性も、優雅さもすべてを失っている。それをすべて持ったままのエルフが気に入らない。
憎い、妬ましい、許せない。私の感情の昂ぶりはエルフを全滅させてこそ落ち着く。
だから殺す。だから許さない。
「ぐがぁぁぁぁぁっ!」
痛みを抑えるべく、雄叫びを上げる。そして、その勢いのままに立ち上がると、エルフの喉下に噛み付いた。すでに安心しきっていたエルフは抵抗することもできない。
喉を喰い千切ると、鮮烈な赤色の血がどくどくと流れ、嗚咽の声を上げる。その声は次第にか細くなっていった。エルフであろうとも喉が食い破られれば、いずれ死ぬ。
「この味、覚えているぞ。我が妹だな。美しく輝く、昔見た姿のままだ。忌まわしい。お前を我のように醜く変えねば収まりがつかんわ!」
俺の怨嗟の声を聞き、エルフは最後の力を振り絞って絶望の声を上げた。
「私の兄う……えが……こんなみにく……い……」
そうだ、目の前にいた神経を逆なでするエルフは俺の妹だった。だからこそ、殺したい。そんな憎悪の感情に支配される。
だが、ただ殺すわけにはいかない。有効活用しなくてはな。
「このっ!」
ほかのエルフが弓を構え、射掛ける。それを妹の肉体で受ける。矢を打ちかけたエルフは「ひっ!」とひるんだ声を上げた。それを見極めて、突進する。
エルフは同族殺しを厭う。その愚かしさを利用するのだ。
ズサッ
妹が腰に差していた長刀を抜くと、そのままエルフの一人の胸を切り裂く。乳房が地に落ち、的確に心臓を
そのままエルフの身体で自らの身を守りつつ、エルフを殺していく。
彼らの作戦は綿密であり、その行動は機敏にして隠密であった。それ故に勝利を確信し、油断しきっていたのだろう。すでに安全圏にいると思い込み、戦うための切り替えができていない。
そんな奴らは、もはや俺の敵ではなかった。
最後のエルフが恐怖に駆られ、うわごとのように呟く。
「どうして……、どうして……、そんな殺戮を繰り替えすんだ……。お前、元はエルフなのだろう? 美しさを求める心も消え失せたというのか。
魔王の醜悪な衝動はそれ以上に強いというのか。それにその矢傷、どうしたらお前を殺せるというのだ」
俺の体はぼろぼろだった。全身に矢が突き刺さり、幾度となくエルフの剣で身体を切り裂かれていた。顔中も切り傷だらけだろう。
だが、そんなことで俺を殺すことはできない。
「俺はオークの始祖、オーク将軍だ。俺を殺したければ、ここを潰すんだな」
そう言って、左胸を指差す。オークは例え頭を潰されても動き続ける。黒い血の供給がある限りは。
この言葉に、エルフはただ怯えるばかりだった。もはや、自分がかつてエルフであったなんてことには微塵も興味が湧かない。
それよりも、飢えと渇きが押し寄せてくる。その衝動のままに、エルフに喰らいつき、その肉を貪り、その血液で喉を
飢えと渇きが収まると、また別の衝動が押し寄せる。エルフどもはまだ息があった。そして、その様子を眺めてそそり立つ衝動がある。
こうなると、牡であろうと雌であろうと関係ない。ただ犯すのみだ。
俺は妹の顔面に噛み付き、その顔を半分に噛み千切る。残った顔は血が
快感とともに衝動が妹に注ぎ込まれる。もはや、妹に息はなかった。だが、オークの子種は生命力が強い。半死人であっても、あるいは死者であっても、子が生まれることがある。
このまま、
それもいい。生まれるものは、
俺の全身は憎悪で充ちていた。その血の滾りによりそそり立つものもある。
エルフはまだいるのだろう。俺はにやりと笑った。殲滅させる。それを心に決めていた。
生まれ変わったらオークだった。
だが、本能のままに、怒りと憎しみに衝動を委ね、こうして暴力に生きるのも、これはこれで悪くはない。
オークに転生したけれど、これはこれで悪くない ニャルさま @nyar-sama
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