第3話 人間砦の攻略
人間の砦を攻略することになった。
人間というのは堕落しやすく、欲望に満ちているが、それでいて正義感にも溢れている。善であることに未練があるのだろう。その感性は我々オークを苛立たせるに十分なものだ。
邪悪を享受した人間は同盟になることもあるが、どうにも信用できない相手でもある。どうせなら、滅亡させたい相手だ。
砦を前に布陣する我らに伝令が到達した。その知らせを受けた部下が報告に現れる。
「人間都市デルノリオスがドラゴンの手によって一日で陥落したそうです」
醜くしゃがれた声で配下のオークが告げてきた。その言葉を聞き、俺は驚く。それと同時に深い憎悪と嫉妬の念が湧き起こった。
衝動のままに慟哭を響かせた。
「ドラゴン何するものぞ。いかにドラゴンが強大といえど、所詮は数匹しか存在しない寡少種族に過ぎん。
魔国の主力はあくまでも我らオークだ。勝利の算段は立っている。奴らが一日で都市を落としたなら、我らは一夜で砦を平らげるのみ!
者ども、
俺の怒号とともに、何千、何万ものオークたちが憎しみと渇きに充ちた雄叫びを上げる。
オークの軍勢はすでにそこまで膨れ上がっていた。もはや、俺は名もないオークの指導者ではない。オーク将軍。そう畏怖される存在へと成り上がっていた。
部下たちの指示により、部隊が展開した。盾を持った歩兵たちが行進し、それに気づいた人間たちが慌て始めたのがわかる。その防衛体制が整う前に、盾兵によって隠されていた弓兵が出る。
雨の如く矢が降り注ぐ。その矢はまだ鎧すら纏っていない人間たちの肉を貫き、血液を
だが、オークの攻撃はそれで留まらない。後方からカタパルト部隊が出現した。
人間どもはオークを本能のままに行動する野蛮な種族だと思っている。
確かに、我らは怒りと憎悪が常に溢れ出ており、本能のままに戦いへと駆り立てられる。だが、ただ暴れられればいいと考えているものなど一人もいない。
我らが欲しているのは勝利だ。我らの持つ深い憎しみは敵対者を地に伏させ、踏み
カタパルトはオークの発明だった。飽くことのない勝利への執念が城壁を効率的に破壊する手段を生んだのだ。
カタパルトによって発された大岩は、計算し尽くされた軌道を描き、砦の壁を打ち崩す。瓦解した壁にオークの歩兵どもが群がり、瞬く間にその場を埋め、逃げ惑う人間たちを殺していった。
勝利は間近だ。俺は会心の笑みを見せる。
だが、その確信は長くは持たなかった。ヒュンっと空気を切り裂く音が聞こえると、俺のいる本陣に矢が突き立てられた。
ヒュンッヒュンッとその矢は何度となく打ち込まれる。本陣を狙った奇襲のようだ。俺の頭を狙って放たれた矢もあり、俺は
「何者だ! 姿を見せろ」
俺はそう叫ぶと、矢の飛んできた方向へと駆け出した。私の部下たちもそれに付いて走り始める。
果たして、そこにいたの少数ながら、怖ろしい者たちだった。長く伸びた銀髪に、尖った耳、それに白く輝く肌。美しく整った端正な表情からは俺たちへの嫌悪と軽蔑が感じられた。
――エルフだ!
その姿を見た瞬間、俺の頭は真っ白になる。怒りが、憎悪が、嫉妬が、あらゆる本能に根付く感情がパンクするほどに爆発していた。
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