オークに転生したけれど、これはこれで悪くない

ニャルさま

第1話 誕生のこと

 ……俺は死んだのか。


 かつての思い出が走馬灯のように押し寄せていた。故郷の懐かしい風景。旅行に赴いた先でのもの珍しい景色。友と語らった青春の日々。

 慕ってくれる妹もいた。時には、恋人と熱い夜を過ごしたこともあったはずだ。やっと手に入れた貴重な食材で料理を作ったこともあった。

 だが、それは曖昧な記憶に変わりつつあった。もはや、具体的にどんなものだったかも思い出せない。


 そんなあやふやな意識のまま、俺は目覚めた。

 死んだはずなのに、なぜ目覚めるのか。これは生まれ変わりというやつなのだろうか。


 しかし、今までとは根本的に何かが違う。そう感じていた。

 胸にざわざわとした痛みが常に走っている。これは不安か、それとも焦燥か。いや、それ以上に強い感情、怒りだ。

 俺の全身には怒りと憎悪が満ちていた。その感情はエネルギーに溢れたものだったが、痛みを伴うやり場のないものだ。それをどこに向ければいいのか、まるでわからない。


「成功したようだな」


 黒いローブに覆われた男が深淵から湧き出るような震える声を発した。


 成功? 何が成功だというのだ。

 私はその言葉にも怒りを感じる。そして、近くにあった棒を手に持つと、高く振り上げ、男へ向けて振り下ろそうとした。

 だが、振り下ろすことができない。まるで金縛りにあったかのように、身体を動かすことができなかった。


「血気盛んなのはいいが、喧嘩を売る相手は選べ、オークよ」


 オーク? それが俺の名だというのか。いや、個体名ではなく、集団としての名前だろうか。

 目の前にいるこの男、只者ではない。そう思った瞬間、俺はかしずいていた。そうしなければならない。そんな恐怖とも畏怖ともいうべき、強制的な感情に支配される。


「我が魔王よ、なんなりとご命令ください」


 魔王の支配は甘美な感覚を伴っていた。この男の命令にさえ従っていれば、もはや何も不安に感じることがない。そんな依存心が湧き上がるようだ。


「今はこの場に留まれ。追って沙汰する」


 重低音の声が鳴り響いた。魔王はその言葉を発すると、踵を返し、階下へと去っていった。

 俺はこの場に留まらなければならない。だが、魔王が去ると、先ほどまで感じていた満ち足りた感情は失せ、枯渇が押し寄せてくる。

 その飢えを、渇きを、そして憤りを埋めるものが欲しい。俺は周囲を見渡した。いくつもの肉の塊が奇妙な蠢動を繰り返している。それを見た瞬間、俺には飢えとともに、憎悪の感情が溢れ出てきた。


「うがぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 雄叫びを上げる。そして、感情の昂ぶりとともに、肉の塊の一つに喰らいついた。がぶりと噛み付くと、肉汁が溢れ、不愉快な味わいが口内に広がる。口当たりのどれもが不快で、まるで泥水を啜っているみたいだ。しかし、それは喰うことをやめる理由にはならない。

 俺はひたすらに喰いつき、咀嚼し、飲み込み、その不愉快な感覚に身を委ねる。


「うぐぅぅぅっ!」


 その肉は腐った臭いが充満し、口の中で弾ける肉汁はぐにゃりとした気色の悪い感覚を伴っていた。それでも、それを夢中で喰い続ける。

 どうやら、俺の体は完全に醜悪な化け物へと変貌したらしい。


 やがて、自分の喰らっていた肉の塊が雌であることに気づいた。硬化するものがある。力強くそそり立つものが。


 俺はその衝動のままに、喰いかけの肉の塊に自らのものを突き立てた。それもまた不愉快な感覚であった。ぐちゃりとした柔らかい感覚が俺のものを締め付けるとともに、無数の棘が突き立てられる。快楽以上の激痛が走る。だが、そんなものに傷つけられるほど俺のものはやわではない。その棘を砕き、肉の塊の奥へと到達した。


 それはそのものの子宮であろうか。ならば征服するまでだ。

 どくどくとした衝動が音を立てて放たれた。だが、それはとても満足できるものではない。おぼろげに記憶にある甘美な肉の悦楽とは程遠いものだ。


「ぐるるぅぅぅあああっぁぁぁぁっ!」


 もっとだ。これではとても足りはしない。

 俺は声を上げる。それとともに、次の肉片に喰らい、そして犯す。衝動はやむことがなかった。

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