第2話 ドワーフとの戦い
俺の血を受け継いだものたちが俺の配下についた。俺の勢力はこいつらの力により増している。魔王もまたそれを認め、俺たちは戦いへと駆り出された。
行き場のない怒りが、憎悪が、解き放たれる。それは願ってもない機会だった。
戦いの舞台は深淵へと続く、暗黒の洞窟だ。いや、その暗黒は今や不愉快な輝きにより飾られていた。ドワーフたちが
ドワーフは屈強な種族だ。背は低いが、筋肉に充ち、その顔面は膨大な髭によって守られている。そして、地中の富を独占することを優先し、鉱脈を何よりも尊んだ。
許すことはできない。俺たちオークはいきり立った。地中にある光など根絶やしにしなくてはならない。
だが、そのために動いたのはオークだけではなかった。巨大で低脳のトロル、喰うことしか頭にないオーガ、それに実体を持たず恐怖を撒き散らす
しかし、戦況は思わしくはなかった。
トロールはその愚鈍さを利用されて罠に嵌められ、オーガは単純な衝動を利用されて集団戦で打ち破れた。幽鬼の恐怖はドワーフの頑固さには通用しない。
ならば、オークはどうか。単純に力負けしていた。ドワーフはオークや暗黒の種族に対抗すべく、鍛冶の神によって創造された種族なのだという。だから、ただ正面から立ち向かうだけでは打ち勝つことは難しい。
だが、難しいだけだ。
俺は笑みを浮かべた。勝つ手段など、いくらでもある。
「ゴーグ、やれ」
俺が言葉を発すると、俺の第一子であるゴーグが動いた。彼は優秀なオークの隊長へと成長している。
カランカラン
その鮮明な音により、何かが撒き散らされたことがわかる。それは金貨だ。ドワーフの穴倉から奪った金貨をここで放る。これにより、奴らは欲に目が
「ふんっ、オークの浅知恵よ。我らは鍛冶神の寵愛と絶対神の慈悲によって生を預かった身。見え透いた罠などに嵌らん」
ドワーフの王が高らかに宣言した。その言葉はドワーフたちの宗教心に響いたらしい。奴らは金貨に目もくれず、潜んでいた我らオークを見つけると、一斉に刃を振るった。
これにはひとたまりもない。俺は退却の合図を送る。
「我が子らよ、逃げろ逃げろ。これは負け戦だ。散り散りに逃げろ。だが、次がある。復讐の時を忘れるな」
俺の野太く震える声を聞き、言葉通りにオークは散り散りになった。それを見たドワーフたちは勝利の雄叫びを上げる。いい気になったのだろう。だが、それもまた俺たちの思いのままの行動であった。
「ターク、見つけたな」
俺は第二子のタークに声をかける。こやつはゴーグほどの戦士には育たなかったが、鉱脈を見つける勘に長けていた。そのため、ドワーフの洞窟を探らせ、新たな鉱脈を見つけていたのだ。
「ふっふっふっふっふ、ドワーフに先駆け、地中の宝を掘り出すのだ」
俺が号令をかけると、オークたちは湧き立った。それぞれが
だが、その様子をドワーフどもが嗅ぎつけた。そして、あろうことかオークたちを薙ぎ払い、鉱脈を我が物とせんとする。再び、我らオークはドワーフに追い払われることになった。
「新たな鉱脈か! 銀か金か、それともミスリル銀か? わしらのものだ。オークなどには渡すわけにはいかぬ」
「そうだ、わしらのものだ。禍々しいオークには渡さん。わしらドワーフのものだ」
「そうだ、わしらのものだ。わしら、氏族のものだ」
しかし、また別の異変がある。ドワーフたちは鉱脈の権利を互いに主張し、争い始めたのだ。
もともと、ドワーフの誰かが見つけた鉱脈ではない。それぞれの氏族が、あるいは集団が、同時多発的にオークが見つけた鉱脈を奪ったのである。誰が見つけたという一つの真実はありはしない。
争いは泥沼化し、互いに傷つけあい、あるいは殺し合う状況にまで発展した。
「ぐふふ」
その様子をにたりとした笑顔で見守っているものがいる。俺だ。
ドワーフは直接的な富よりも、大地に眠る富により弱い。そこに目をつけた。そして、その読みが的中したのだ。
これに笑みを絶やすほうが無理というものだろう。
「くっくっく、この期を逃がすな。ドワーフたちを血祭りに上げよ。
そして、トロールとオーガの群れも解き放て。俺たちオークの手柄が確定してからだぞ」
その言葉通りに、ドワーフは滅亡した。後に残ったのはオークがドワーフを滅ぼしたという結果だ。
トロールやオーガも健闘してはいたが、決定打とは判断されない。暗黒の軍勢の主力はオークである。その認識が定まりつつあった。
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