第35話 催眠アプリと幼馴染

「……び、びっくりした」


 教室を出て体育館裏まで向かう道中、私は大きくなってしまった心臓の音を落ち着かせようと必死だった。


完全に不意を突いたような啓介くんの返答に、私は心臓の音を跳ね上げさせられてしまったのだ。


 お昼休みの間にクラスの女の子伝いに、他クラスの男の子が話があるから放課後に体育館裏まで行ってあげてと言われて、流れから告白だろうなという予想はついていた。


 そんなに珍しいことでもないので、いつも通りに啓介くんに先に帰っておいてもらおうとしたのだ。


当然、いつも通りの返答が返ってくるとばかり思っていた。


『付き合いはしないんだよな?』


か、完全に私のことを意識している。それも結構強めに


顔にやけてなかったよね? 赤くなったのもバレてないよね?


 私は急にそんなことを言われて少しだけポカンとした後、急に体が熱くなっていくのが分かって、私は慌てて視線を逸らしたのだった。


 たがら、多分大丈夫だと思う。なんか思わず変な感じで返答しちゃった気もしたけど、多分問題ない。


 それにしても、突然過ぎて驚いたなぁ。


あの返答の感じからすると、誰かに私を取られたくないとは思うみたいだ。


 これも最近のチキンレースのおかげと言っても過言ではないと思う。……だから、昨日の結構変態的な行為も許される。


 そう、ここまで意識するようにさせたのだから、むしろ称賛に値する行為だ。


 ……~~っ!!


 いやいや、今昨日のことを思い出すのはダメだ! あんなこと思い出して告白の場に向かったら、私が満更でもないと勘違いされてしまう!


 ……少しだけ、体の熱を冷ましてから向かおうかな。


 そんなことを考えた私は、少しだけトイレの個室で体の熱を冷ましてから、体育館の裏へと向かったのだった。




 困った。


『――っていうことだから、誰とも行かないなら、俺と一緒に行って欲しい!! 思い出作りでもいいから、この通り!!』


 告白は断ったんだけど、それならデートだけでもと少し強引に押し切られそうになってしまった。


 来週開催される予定の学校の近くの神社で行われる夏祭り。少しだけ時期が早い小さな祭りなのだけど、そこに一緒に行って欲しいと熱烈にお願いをされてしまった。


 断りはしたんだけど、中々折れてくれなかった。


 誰とも行く予定がないのなら、祭りにだけ一緒に行って欲しいとのこと。


 また明日にでも断りに行かないとかなと思うと、少しだけ気が重くもなる。


 啓介くんはもう家に着いたかなと思いながら、校門を取り抜けるとーーそこには啓介くんの姿があった。


「え? 啓介くん?」


「お、おう」


「なんでここに?」


 啓介くんと教室で分かれてから、結構時間が経っていると思う。それなのに、なんでまだこんな所にいるんだろう?


 少しわけが分からなくてそう尋ねると、啓介くんは少し気まずそうに視線を逸らして頬を掻いていた。


「いや、まぁ、色々と」


「そ、そっか。えっと、帰ろっか」


 微かに染まった頬の色を見て、私は啓介くんが伏せている言葉がどんなものなのか想像できてしまった。


 ……私が告白されて付き合うか心配で、残ってたんだ。


 そんな確信がありながらも、私はそんな考えに気づかないフリをして帰路についた。


 その道中でした話は互いに少しだけズレていたと思う。


本当は聞きたいことがあるのに聞かない啓介くんと、それに気づかないフリをする私。


 なんだか自分からその話をするのもどうかと思って、啓介くんから話を振られるのを待っていた。


 すると、十分もしないうちに啓介くんが小さな咳ばらいの後、話題を変えてきた。


「告白、されてきたんだよな?」


 聞かずにはいられなかったようで、うずうずしながら私の返答を待つ啓介くんの表情。


 そんな表情を向けられて、胸の奥の方が小さく跳ねた気がした。


「うん。告白だったんだけど、そこからデートのお誘いに変わった感じ、かな?」


「デート?」


「来週、お祭りあるでしょ? それ一緒に行かないかって。付き合わないでもいいから、思い出だけ欲しいって」


「……いくのか?」


 もちろん、また後で断りに行くはずだった。


 でも、本気で心配するような声色を前に、少しだけ悪知恵が働いてしまった。


「どうだろ? べつに、予定があるわけでもないし、他の誰かに誘われてるわけでもないしね」


 悪知恵というのとは少し違う、止めて欲しいっていうちょっとした乙女心が疼いてしまったのだ。


 私がそう言うと、啓介くんは少しだけ慌てるようにしながら言葉を続けた。


「別に、無理していかなくてもいいんじゃないか?」


「無理はしてないよ。お祭りに興味がないわけでもないし、たまにはそういうのも悪くないのかなって」


 私がそう言うと、啓介くんは少しだけ黙ってしまっていた。


 ……さすがに言いすぎたかもしれない。


 ただ止めて欲しいと思って言ったけど、啓介くんが自分の気持ちに悩んでいたということも知っていた。


 確か、『えっちな姿を見るから可愛く思うのか、気になっているからえっちな姿を見たいのか』だった気がする。


 つまり、まだ啓介くんの中で私のことが好きなのか、その答えが出ていないのだ。


 その答えをこうして聞き出そうって言うのは、少し意地が悪すぎたかもしれない。


 だから、少しだけ卑怯な気がしたから、私は少しだけ意味ありげな言葉で助け舟を出すことにした。


「……催眠でも何でも使って、それを止めてくれる人がいれば、話は別かもしれないけど」


 少し露骨すぎたかもしれないけど、ここまでしないと啓介くんは私のことを止めようとしないかもしれない。


 自分で意地悪をしておきながら、寸前でビビってしまう私はチキンなのだろう。


 啓介くんは私が言っていることに気づいたのか、ハッとして後にポケットに手を入れた。


 そう、私に言うことを聞かせたければ、催眠アプリを使えばいいのだ。


だって、私は啓介くんの中では催眠にかかっていると思われているのだから。


「――夏祭り、俺と一緒に行って欲しい」


 だから、催眠アプリを使うのは自然な流れだと思う。それでも、何かに頼ってでも私を止めてくれたというだけで、今は十分――


「え?」

 

 今はそれで十分なはずだった。


 それなのに、啓介くんの手にはスマホが握られていなかった。


 一度ポケットに入れていたはずの手は出されていて、今は少しだけ握られていた。


「えっと、なんで?」


 なんで催眠アプリ使ってないの?


 状況的に催眠アプリを使うのが自然な流れだと思っていたので、私はなんで催眠アプリを使わなかったのかを問いていた。


 すると、啓介くんは真剣な目で私を見つめた後、言葉を漏らした。


「正直、最近恵理のことをエロい目で見始めている自分がいる」


「え? ……え?!」


 聞きたかった質問と全く違う答えが返ってきて、私は突然の不意をついた告白を前に、顔を熱くさせてしまっていた。


 そんな私の心情など知る由もない啓介くんは、そのまま言葉を続けた。


「ただそれが恵理のことを気になるからエロい目で見てるのか、エロい目で見てるから恵理のことを気になり始めてるのか、正直分からないんだ」


 白昼堂々、啓介くんは学校の通学路でそんな言葉を口にした。


 当然、私達の他にも下校中の生徒はいるし、主婦みたいな女性や会社帰りのサラリーマン風の男性も通っている。


 そんな道中で、私のことをエロい目で見ていると言い始めたのだ。


 当然、通行人の視線を集めないわけがない。そして、その通行人たちの目は少しえっちな物でも見るかのような目をしていた。


「でも、これだけは言える。他の奴にエロいことをして欲しくないし、えっちな所は俺にだけ見せて欲しーー」


「わ、分かったから! ちょっと黙ろうか、啓介くん!」


 私は周囲の人々の目に耐えられなくなって、慌てるように啓介くんの口を手で強く塞いだ。


 だって、こっちに視線を向けてくる人たちの目が、私達が白昼堂々イやらしいことをしているみたいな目をしていたから、耐えられなくなったのだ。


「な、なんで、そんなえっちな話になったのかな?」


 周囲の目によって羞恥の感情を高められて、私は顔を熱くさせながら、少しだけ啓介くんの口から手を離して聞いてみることにした。


 すると、啓介くんは小首を傾げながら当たり前のことを言うかのように言葉を続けた。


「いや、だって『そういうのも悪くない』って」


「『そういうのも悪くない』……そ、そういう意味じゃないから?!」


 どうやら、啓介くんは私の言葉を変な意味合いで受け取っていたらしい。


 多分、火遊び的なのをするのも悪くないかな的な感じで受け取ったのだ。


いや、普通そんな勘違いする?!


 啓介くんの中の私って、そんな変態な認識なの?! そんな素振り見せたこともーーなくはないのか。


 ここ最近、啓介くんに色々とえっちな私を見せるようなことをしてしまっていた。


 けど、それは啓介くんだからであって、誰でもいいってわけじゃないに……。


「……もっと、普通に誘って」


 少しだけ自業自得であることを分かっていながら、私は不貞腐れたようにそんな言葉を口にした。


 すると、啓介くんは少しだけ照れるようにしながら、私をじっと見つめてきた。


「えっと、他の奴じゃなくて、俺と一緒に夏祭りに行って欲しい」


「んっ、分かった。あとで誘ってきた男の子には断っておくから」


 見つめ合ったのは少しだけ。


なんとも言えない甘い空気か恥ずかしくなって、私達は互いに視線を逸らした。


 ……なんか、少しだけ変な感じだ。


 そんなことを考えながら、私は確かに胸をときめかせていたみたいだった。


「恵理、なんか笑ってる?」


「わ、笑ってないから?! 幼馴染にえっちな目で見られてるって言われて、喜んでたら私変態みたいじゃん!」


 私は緩まってしまった顔を誤魔化すように、啓介くんの前を歩いた。


そして、振り向きざまに抑えが効かなくなった頬を緩ませたまま言葉を続けた。


「浴衣着てくからさ、楽しみにしててね」


「……おう」


 こうして、私達の関係は少しだけ変わったのだった。


 今までの何でもない幼馴染から、少しだけ意識をしてしまうような関係に。


 多分、夏祭りに行った後、私達の関係はもっと変わっているのだろう。


 それこそ、催眠アプリなどなくとも、お互いに素直になれるような関係に。


 そんなことを私は胸の中で静かに思ったのだった。




 ……思っただけだった。


 夏祭りに行った後も特別関係が変わるということもなく、私は今日も啓介くんに熱視線を注がれながら、催眠アプリの画面を見せられていた。


「スカートをたくし上げてくれないか?」


 どうやら、今日は啓介くんが催眠アプリをかける番らしい。


 最近は、啓介くんもまた私に催眠をかけるようになった。


 ただ一方的にされるのが好きだと思っていたが、女の子にえっちなことをさせるのも好きみたいだった。


 ……まぁ、私もえっちなことを命令されるのも嫌いではないんだけど。


 啓介くんから性的な興奮をそのまま視線に乗せたような目を向けられて、私はひそかに息遣いを熱くさせてしまっていた。


 今日はどんなことをさせられるんだろう。そう思うだけで、私は心臓の音をうるさくさせてしまっていた。


 羞恥心によって掻き立てられてしまった感情が、胸の奥の方で沸々と湧きあがってきて、頭を少しだけとろんとさせてくる。


 スカートの裾を摘まんで、啓介くんからの熱視線を受けながら、私はスカートをたくし上げていく。


 太ももに注がれる視線と、興奮したような鼻息にくすぐられながら、私は徐々にスカート裾を上げていった。


 そうして、少しだけ見せたパンツを見て興奮する啓介くんの視線を受けて、私は熱くなった吐息を漏らしていた。


 今日も私はスカートをたくし上げる。


 催眠にかかったフリをして、そんな状況に少しだけ興奮を覚えながら。


 ……どうやら、私はちょっとだけ変態過ぎるみたいだった。




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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

この物語はこの話で完結とさせていただきます!

前半と後半で攻守が交代する二人を見て、楽しんでいただけたら幸いです!


これまでで少しでも面白い、えっちだ!と感じてもらえたら、評価を入れていただけると嬉しいです!

レビューなどで感想も聞けるとさらに嬉しいです!


それでは、今後も私の小説の方をよろしくお願いいたします!


※評価は目次の下にある『☆で称える』から行うことができます!



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私の幼馴染は私が催眠にかかったフリをしていることを知らない。 荒井竜馬 @saamon_

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