喫煙

@odensiru

喫煙

 夜。僕は重い体を引きずり、ベランダに出て一服していた。部屋から漏れる光が僕の手を照らす。紙巻きタバコから立ち昇る紫煙が人差し指と中指を気怠げに迂回し、指先にタールをこびりつかせる。フィルターに一口つけて煙を吸った。口を離すと、行場をなくした主流煙がフィルターから身をくねらせて風に流される。それより少し青い副流煙が燻る火種から昇り、同じ様に流される。二種の煙は少し混じりつつ拡散しながら風に流され、やがて風下に消える。僕は煙を口内からゆっくりと肺へと入れながらそれを見ていた。

 煙は優雅だ。

 口内の煙は半分ほど肺に入れると、まだ口腔内に残留している煙ごと吹くように吐き出した。全て肺に入れるにはフィリップモリスは重すぎる。吐き出した煙は初めは勢いを保つものの、すぐに推進力を失って空に昇り始める。吐き出した煙はその向こうの夜景をより輝かせ、俗にする。重さを増した様に思える腕。


 燻りはフィルターまで到達した。僕はカップ酒の瓶に水を入れただけの灰皿に灰を落とすと、フィルターごと燻りを水につける。ジュッと音がしたのを聞くと、ベランダへの扉を開けて室内へ入った。

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