燈火

@odensiru

燈火

 赤茶の土の上に燭台が置かれ、少し肌色の混ざった蝋燭が台上でその身を溶かし、橙の灯火を灯しつづけている。

 灯火は柔らかな土を優しく照らす。土は良く耕された畑のようにふっくらとしているが、植生は皆無だ。灯火は顔のない聖母のようにあたたかに赤茶の土を照らし出し、暗闇の中であまりに優しい。

 私は園芸用のスコップを握り灯火の前にしゃがむと、柔らかな土にそれを中程まで突き刺した。持ち手にあいだ穴のちくちくとした感触。金属にメッキのされたスコップは灯火を反射して橙に輝く。少し力を入れると土はもこりと持ち上がり、支えを失った両端の土がぱらぱらと落ちる。私はスコップを細かくゆすり量を整えると、それを蝋燭にかけた。

 蝋燭の灯は静かに消えた。先程まで橙に照らされていた土はぞっとするような黒を取り戻し、感触以外で周りの空間と区別がつかなくなった。

 私は立ち上がると、一面の暗闇の中、遥か遠くにちりちりと明滅して見える燈火へと足を進めた。柔らかな土が私の体重によって圧縮され、私の靴が軽く埋まる。構わず足を進めると、靴紐の上に土が少しかかった。

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