藍の世界

ナナシリア

藍の世界

 テストで失敗した。部活で失敗した。友達と上手く喋れなかった。好きな人に話しかけられなかった。


 理由なんてなんでもいいけど、俺が失敗を重ねるたびに、その心を癒そうとするのか、もしくは壮大な景色で塗りつぶそうと思ったのか、海を訪ねた。


 日も暮れた後の海は、昼の鮮やかさが嘘のように暗い藍色をしている。


 海だけでなく、空も藍色で、陸の上の空気すら藍に染まっているようで、そこはまるで藍の世界だった。


 そんな藍の世界で、制服に身を包んだ、近所の高校の生徒と思しき人たちがはしゃぎまわっている。


 まるで俺の将来の理想みたいな青春だった。だが、こんな理想なんて叶うことはない。今のうちに凝視して諦めをつけておこうか。


 俺自身を放り投げて捨てるかのような考えと呼応するように、生徒がボールを遠くへ放り投げた。


 放り投げられたボールは何人かの男子生徒を伝って、投げられながらも最終的に元の生徒の元へと帰ってきた。


 彼は他の生徒たちと笑いあった。


 それと同時に、女子たちが手に持ったスマホで自分たちとともに藍色に染まった美しい世界を撮影していた。


 俺は美しい景色を写真に残そうという思想はあまり好ましいものではないと考えているが、こういう青春に限っては何か口出しをしようという気にはならない。


 スマホから放たれるフラッシュが藍の世界に光を生み出した。


 さほど強い光ではないはずのスマホの光なのに、あまりにまばゆい光が俺の視界をふさいだ。


 今度は明るい性格ではしゃぎまわり、先ほどから俺の耳を妨害してきた男子たちの方に視線を向ける。


 あれがいわゆる陽キャなのだろう、高校に進学しても変わらないであろうあまりに辛すぎる現実に俺は目を逸らしかける。


 陽キャたちは、彼らの中では定番だと思われる遊び、サッカーボールを使ったサッカーを始めた。


 走り回る元気さと日の暮れた後の藍の世界のギャップが俺の脳みその情報処理を阻害した。


 スマホのフラッシュとはまた違う種類の眩しさと、先ほどボールを放り投げた生徒の暗さが俺の脳内で勝手に比較される。


 しばらくして、彼ら彼女らは遊び疲れたのか、一度休憩をとるようで一か所に集まった。


 皆でマクドナルドの袋からポテトやらバーガーやら思い思いのメニューを取り出し食べ始めた。


 高校生の財力とマクドナルドの青春に驚かされるばかりだ。


 俺の中で青春といえばマクドナルドかサイゼリヤだというイメージがあったので、青春そのものといったところだろうか。


 一人の男子生徒が女子生徒に話しかけられ顔を赤くした。青春の風物詩である恋愛だろうか。


 べつにその女子生徒のことが好きではなかったとしても、あの男子生徒はたぶん陰キャだったので今この瞬間好きになっただろう。


 ほかにも何組かの男女がカップルを誕生させそうな雰囲気を醸し出している。


 まさに青春といったところだが、俺がこのまま高校進学したとしてこのような青春を送れるかは謎だ。


 彼らがマクドナルドの商品を食べ終わると、全員で立ち上がり一か所に集まって女子生徒がスマホと自撮り棒を取り出した。


 自撮り棒とは前時代的というか流行がすぐ通り過ぎたものだというイメージがあるが、ここまで大人数で自撮りをするとなれば必須アイテムなのかもしれない。


 ともかく、彼らは写真を撮影したようだった。先ほどよりも強く思えるフラッシュを焚いて。


 気づけば、藍の世界は時間が経ったことによりもはや黒の世界といえるまでに夜の帳を下ろしていた。


 暗闇の中で、青春の光が光り輝き、俺がその影に入りこんだような形になった。


 まさか一人になって心を癒すために海に来たというのに、その先でまたもや孤独を感じることになってしまうとは。


 藍の世界に溶けてしまいたいと思って、俺は今度は海の方へ視線を送った。


 荒々しい波がまるで絶望か何かを運んでいるように見えた。あまりにも暴力的な黒に、恐怖さえ感じた。


 俺は真っ黒となってしまった藍の世界に背を向けた。

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藍の世界 ナナシリア @nanasi20090127

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