第13話 修行
あれから1日ほど寝込んだ俺は、体調が回復したと同時にいつもの訓練場に駆り出された。
体調不良で寝込んでいた時に、教官からは大丈夫なのといった心配の声は一切上がらず、この軟弱物、サボり魔と言った風に散々な言われようであった。
あれがパワハラというものかと身を持って体感したところであった。
「予定外のことで時間を浪費したから早速だけど、修行を始めるわ。まずは、『氣』で身体を覆いなさい。」
俺は呼吸を整えて、身体の内側に感じる力を解放する。
「はっ!!」
白い靄が俺を包んだ。
「それで、この後はどうするんだ。」
「まずは、足に『氣』を集めなさい、そうすることで爆発的なスピードで移動できるはずよ。これが出来れば相手の攻撃を簡単にはもらわないはずよ。」
俺は何とか身体中の『氣』を足に移動させようと意識するが、1ミリたりとも変化がなかった。
「すまない。どのような感覚でするんだ。」
「私の感覚になるけど、『氣』を放出する箇所を足だけにする感じで他の部分は蓋をして閉じる感覚を持つことかしら。」
「分かるようで、分からないな。」
「いいからとりあえず、やってみなさい。」
教官は憮然とした表情で言った。
それから次の闘いまで残り3日となるまで、同じような訓練を毎日行った。
日がな1日中訓練していると感覚を掴むことができ、時間をかければ足に『氣』を集約できるようになった。
「ふうー。とりあえずは形になってきたわね。後は、実戦で使用できる練度まで上げる必要があるわ。」
「というと実戦形式での訓練ということか。」
「そういうことよ。発動までにかかる時間を短縮、発動後の継続時間の向上を図るわ。」
「どんな訓練をするんだ。」
「今回は楽しい楽しい鬼ごっこよ。私が鬼であんたが逃げる役よ。捕まったら、罰として尻キックよ。」
「罰があるのかよ。」
「罰がなければ、燃えないでしょ。」
嬉々とした表情で言った。
(ただ、俺のこと蹴りたいだけじゃないのか・・・。)
「それでは、早速だけど開始!!」
「いきなりかよ!!」
俺は開始の合図と同時に足に『氣』を集中させると、今までにない速さで集約を完了し、地面を踏み抜き一目散に駆け出した。
流石に付いてこれないだろうと思っていたが、後ろから声が聞こえてきた。
「あらっ、さっきより全然発動時間が短いじゃない。やっぱり実戦で伸びるタイプね。可愛がり甲斐があるわ。」
そう言うと、能力で空間から棒手裏剣を取り出し、こちらに投擲する。
俺は咄嗟に横に方向転換し、回避する。
「危ねえじゃねえか、怪我するだろう!!」
「あんた、ただの鬼ごっこをすると思ったの実戦形式だから当然攻撃もするわ。」
(まじかよ、、、。怪我するような鬼ごっこなんて絶対誰もしたくないだろう。全然楽しくねえよ・・・。)
そこからは俺を追跡してきた教官が遠慮もなく棒手裏剣を放ち、それを逃げながら何とか躱し続けるということを繰り返していたが、時間の経過とともに俺の足に纏っていた『氣』が少なくなっていく。
『氣』が少なくなると、棒手裏剣の回避が難しくなり、身体を掠めることが多くなる。
そうこうしているうちに、俺は無数の切り傷を負っていた。
「そろそろ限界かしら。」
直撃を避けるように躱し続けていたが、ダメージによる限界よりも先に肉体的疲労による限界が訪れた。
肉体的疲労は急激に訪れて、俺の足を覆っていた『氣』が喪失し、立つこともままならず地面に倒れ伏した。
「くそっ、動けねえ。」
倒れ伏した俺の元に歩いてきた教官は、俺の背中に手を触れて言った。
「鬼さん、捕まえたー!!」
「くそっっ。」
俺は悔しさのあまり悪態をつく。
「初回にしては悪くなかったわよ。初動にかかる時間、継続時間共に通常の訓練時から想定されるものよりも良かったわ。」
「しかし、訓練時に継続できた時間より短かったぜ。」
「それは仕方ないわ。激しい動きをするとその分消耗が激しくなるから、止まった状態で維持するのとは比較にならないくらい『氣』を消費するのよ。」
「『氣』の継続時間はどうすれば、伸びるんだ。」
「それは今回みたいに限界まで『氣』を出し尽くしていくことを繰り返していくしかないわ。それじゃあ、少し休んだら再開するわね。」
「ちょっと、待ってくれ。今日はまだこの訓練を続けるのか。」
「当たり前じゃない。最低でも5セットはしないとと考えているんだから。」
「俺は身体中に切り傷だらけで、身体もヘトヘトなんだが・・・。」
「そんな掠り傷、唾つけとけば治るだでしょ。あと、身体がヘトヘトだから訓練を 止めてくださいなんて、甘いこと許すはずないでしょ。あと、罰は訓練が終わった後に精算するから。」
(忘れていた。この女超絶スパルタだったことを・・・。あと、罰はしっかり精算するんだな。俺、当日の体調大丈夫か。)
こうして残りの期間、冬至はスパルタでしごかれるのであった。
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