第4話
翌日は健斗と同伴で店に入った。
同伴とは、出勤前にお客さんと合流してから来店をするというシステムで、出勤の前に食事・ショッピングなどをしてからお店に入る、という流れだ。
もちろん、同伴をしたキャストは「同伴バック」という給料が上乗せされるシステムがあり、健斗が同伴料を払い、一ノ瀬
彼女が入り口をくぐり、階段を降りようとすると店長が耳打ちをした。すでに、杉下が来ているようだ。季依は彼を見つけると、手を挙げて挨拶をした。健斗は隣で顔をしかめていた。
「こんばんわ。杉下さん」
「やぁ、季依さん。こんばんわ。昨晩はお見掛けしませんでしたが、お休みでも取られていたのでしょうか?」
「やだ、杉下さんったら。見てわからないんですか? 昨日は お客さんが少なかったから 健斗さんとアフターですよ」
「なるほど。道理で お二人とも見かけなかったわけだ」
杉下は、にっこりと笑った。
「昨日は先に帰って悪かったですね。出来上がったもんで」
健斗はゆったりとした動作で、杉下と向き合うように座った。
「健斗さん。ここ最近、よく通っているそうじゃないですか。ただのアルバイト従業員にしては、ずいぶんと羽振りが良いですね」
「財テクですよ。最高の男は お金にも 女にも 愛されるんでね」
健斗が笑って答えるが、店内には少し緊張が走った。客同士が、キャストを取りあって暴力沙汰を起こすのは よくある話だった。だが、季依にはこういった場を収めるテクニックを持ち合わせていない。
店長は、素早く№1キャバ嬢の
白咲は仕方なく、杉下らのテーブルへ向かった。
白咲は拝金主義者で、同性には厳しく自分に甘い性格だ。キャバ嬢で生きていくにはこれほど『天賦の才』といえるものはないだろう。
「やだぁ。このお店を紹介したの杉下さんじゃないですか?」
「あぁ、そうでした。これは失礼しました」
自然の流れとばかりに、二人の会話に入っていく。
「健斗さん。すぐにお席へ ご案内いたしますね」
白咲が 健斗の横に座ると彼の腕に おっぱいを 押し付ける。そして、心のコンパスを杉下から自分へと向くように、甘い表情で、相手の顔を下から覗き込んだ。
「そうかい。じゃあ、彼が飲んでいる酒よりも、高い酒を頼もうかな」
健斗は相手の出方を窺った。ここで杉下が引き下がったら、季依は完全に俺の物だ。
まさか、同じ女を好きになるとは思ってもいなかっただけに、抜け駆けをしてしまった負い目はある。だが、健斗は本気になってしまっていた。
杉下は おどけるように 肩をすくめた。
健斗は身を乗り出し、白咲に扇動されるように立ち上がった。
彼女が健斗を新たな席へと案内する前に、季依のお尻をきつく
「いたっぃ!」季依はあまりの痛みに声をあげ、杉下は くすりと 笑った。
―――◇
第1~3話を、少し変更しました。
読み返していただけると、ありがたいです(;´Д`)
朱鳥の夢 ~あなたに会える最後の夜に~ 越知鷹 京 @tasogaleyorimosirokimono
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