第25話 アルマと別れることが出来るのか少し心配だ
日が完全に地平線より高く昇り、焚火の火が消えた頃ジュディが目を覚ました。
「んん~~! おはよ」
大きく伸びをした後、眠そうな目をこすりながら体を起こした。
「あぁ、おはよう」
「やっば~、気が付いたら朝だった」
確かに夜中、起きる気配が全くなかった。むしろ寝返りすら打っていなかった気がする。おそらくそれほどぐっすり寝ていたんだろう。
「あの後特に何も無かったから安心しろ。それに、アルマも夜泣きしなかったしな」
そう、アルマは一切夜泣きをしない。むしろ泣き声すら聞いたことが無い。基本大人しく、辺りを観察するかのように瞳を動かすだけだ。そして時折、こっちをじっと見つめてくる。
ジュディがあやすと笑い声をあげて喜ぶのだが、俺があやしてもあまり喜ばないのが少し悲しい。まぁ、大声で泣かれるよりましではあるが。
「そうなの~、偉いね~」
ネコ撫で声で籠の中のアルマを覗き込むと、ほっぺたをぷにぷにした後そっと抱き上げた。キャッキャと両手足をバタつかせて笑い声をあげる。
「もうすぐ街につきますからね~。もう少し頑張ろうね~?」
そう。街についてしまえばアルマとはお別れになる。下手に懐かれては別れる時に寂しくなってしまうだろうから、これでいい。
「さぁ、さっさと準備をして街に向かうぞ」
俺は立ち上がり、焚火の後処理と身支度を始める。
「はぁ~い。そんなに急かさなくっても良いじゃんね?」
少し不満げな返事をした後、アルマにそう語りかけた。恨み事を聞かされたアルマは、その言葉の意味を理解したのかしていないのか、「あう~」と発した。
「あんまりモタモタして街につくのが夜中、というのは避けたいんだ。もしかしたらまた道中で誰かに襲われるかも知れないし」
「まぁ確かにそうねぇ。教会で待ってる人も、もしかしたら早くこの子に会いたいかもしれないだろうし」
そうだ、さっさとこのクエストを終わらせてすぐに北へ向かいたい。カイルを殺すのは俺だ。いや、俺が殺さなければならない。シグル村の人達のためにも、カイルのためにも。
「ねぇちょっと、顔が怖いんですけど~?」
「えっ? あぁすまない、ちょっと考え事を、ね」
どうやら知らないうちに表情が強張ってしまっていたようだ。なるべく負の感情を出さないようにはしているが、カイルの事を考えると憎しみが溢れ出してしまう。
「あたしじゃ全然力になれないかも知れないけど、あまり一人で抱え込まないでよね」
そう言ってくれるのは嬉しいが、これは俺個人の問題だ。あの日、カイルを殺しそこねた俺の。
「そんな事より、支度を整えて欲しいんだが」
「そんな事ってどういう事よ。結構大事なことなんだからねぇ」
頬を膨らませ抗議の声をあげた後、ようやくテントを片付け始めてくれた。
チラリと土牢に目をやる。その様子は昨日と全く変わっておらず、今もまだあの中にアビゲイルが閉じ込められているのだろう。蔦に養分を吸い取られるのか、その先はあまり想像したくなかった。
「さぁ、お待たせ。さっさと行くわよ」
ジュディが意気揚々と声をあげる。その言葉に振り向くと、すでに荷物をまとめ終え、アルマを胸元に抱いていた。
「いや、何で俺が急かされているんだ?」
「だって、そんな所に突っ立ってボーっとしてるんだもん」
「別にボーっとしてたわけじゃ無い。あれがどうなるのか少し気になっただけだよ」
俺は再び土牢に視線を向ける。
「あぁ、それなら気にしない事ね。あたしもどうなるか知らないから」
「そうなのか?」
「ええ。最後まで見届けたことが無いからね」
はたしてそれで良いのだろうか。自分の使う魔法の効果は熟知しておくべきだと思う。だが、ジュディの様子から察するにあまり使いたくない、人にかかって欲しくない様だった。もしかしたら人に対して使うのが始めてだった可能性も考えられる。
それに、養分を吸いつくされるまでに時間がかかるのかも知れない。確かにそうなると、悠長にずっと観察しているのは不可能だろう。
「じゃあ、行くか」
俺は心の中でアビゲイルの冥福を祈ると、荷物を持ち上げ街へと歩き出した。
西の都に着く直前、情報通り検問が敷かれていたが問題なく通過する事が出来た。
「ねぇ、どうして夫婦のふりをする必要が有ったのよ?」
検問所からだいぶ離れてからジュディがそう問いかけて来た。
「普通にクエストでこの子を街まで送り届けるって事じゃダメだったの?」
俺はジュディに対して、検問所を通過する際は余計なことを喋らず夫婦のふりをしろとしか伝えていなかった。下手なことを喋ってボロが出ては困るからだ。
「それだと話が非常にややこしくなる可能性があったからだ」
「どうして? 単純にクエストです。はいどーぞ。で済みそうだったけど……」
「そうなると、その子供は誰の子で、誰に頼まれて誰に渡すんだってことを説明しなきゃならないだろう? 俺たちはただアルマを教会へ連れて行け、という事しか指示されていないんだ」
「でも、クエストについては守秘義務があるでしょ? いちいち詳細を伝えなくても問題ないはずよ」
「通常ならな」
そう、通常であれば各種クエストについて、クエスト協会の保証において遂行されているため、詳細を問われる事や拘束されるなんてことはあり得ない。
「だが今、西の都では子供、特に幼児の誘拐事件が多発しているんだ。だから検問所を設置して、都から出て行く者や入って来る者が幼児を連れていないか確認しているんだ」
「なるほどねぇ。だからクエストだって言っちゃうと、それが誘拐のクエストである可能性があるから、詳細を聞かれる可能性がある、と」
「まぁ、そういう事だ。そもそも子供だけを別の街に送り届けるクエストなんて怪し過ぎるだろう? 親子の護衛ならまだしもな」
「そうよ、別に夫婦じゃなくて、あたしの護衛をキースがしている、って事でも良かったんじゃない?」
「検問所を突破するだけならそれでも問題無かっただろうな。だが思い出して欲しい、アルマは追手に追われているんだ。子供を抱えた女性を護衛をする、というクエストだと追手をまくことが難しくなる。だから、夫婦として問題が無い見た目の男女ペアでクエストを行う必要があったわけだ」
「確かにそうだったわね。あの人以外に追手が来なかったのは、上手くいったってことかしら」
あの人、つまりアビゲイルの事だ。上手く行った可能性もあるが、たまたま追手が来なかっただけなのか、もしかしたらアビゲイルが追手だった可能性も考えられる。
「まぁ、まだ油断は出来ないけどな。街に着く直前で襲われることも考えられる」
街が近いという事もあり、街道にはちらほらと他の冒険者や行商の姿が確認出来る。その中に追手が紛れ込んでいるかも知れない。そのため、ここからの会話も気を付けなければならないだろう。
「まぁ、襲われそうになったらきっと今度はキースが何とかしてくれるよねぇ?」
ジュディは抱きかかえたアルマにそう問いかけ、自分の頬をアルマのほっぺたに軽くこすりつけた。
その瞳は慈愛に満ちていて、本当に我が子を愛する母親の様だった。
その様子に俺は少しだけ不安になる。本当にアルマを愛し始めてしまっているのではないか、と。
「確かにアビゲイルの時は、毒でまともに動けなかったからな」
「ちょっとぉ、今のは冗談じゃない。本気にしないでよ」
俺の素っ気ない返事に怒っていると勘違いしたのか、ばつが悪そうな顔をした。だが俺は別に怒っている訳では無い。まともに動けなかったのは事実だし、今も気を抜くわけにはいかないが、今の所、俺たちの会話が聞こえる距離に人の姿は見当たらない。
「本気になんてしてないさ。そんな事より、俺はジュディが心配なんだ」
「え? 何? どういう事よ」
「いや、クエストを完了するということは、アルマと別れるという事だ。それが辛くならないかなって」
「うそー、そんな心配をしてくれてたの? 確かにお別れするのは少し寂しいけど、大丈夫よ」
「そうか、なら良かった」
もしかしたら依頼者へ渡すのが嫌だとわがままを言ったり、一緒に住むなど意味不明なことを言い出しかねないと思っていたが、どうやら大丈夫なようだ。
「でも、なんか不思議な感じがするのよね。他人なんだけど、そんな気がしないというか、この子もあたしに対して安心しきっている感じがするし」
確かにそれは俺も感じていた。もちろんあまり泣かない子もいるだろうが、普通自分の親以外に抱かれた場合嫌がる事の方が多いはずだ。だがアルマの場合、ジュディに対して何の抵抗も示さない。それは俺に対してもほぼ同様で、ジュディほどでは無いが俺が抱きかかえてもあまり嫌がらない。むしろ俺の方がどのように扱えば良いか困惑するほどだ。
「あ~あ、あたしもこんな大人しくて可愛い子が欲しいなぁ」
思わずそれは無理だろうと言いたくなったが、口から漏れる寸前で止めた。
「何よその顔は。あたしには無理だって言いたいの?」
「いや、別にそういう訳じゃないよ」
どうやら言葉には出なかったが、表情には出てしまっていたようだ。
「じゃあ、どういう事よ~?」
ジュディが口を尖らす。
「子供は元気な方がいいだろ? それに相手によっても変わるだろうし」
「まぁ確かに。両親のどっちに似るのかなんて分からないものね。でも、キースは大人しい子供だったでしょ?」
小さい頃はセーラやカイルと一緒にイタズラやヤンチャな事をしたが、二人に比べて大人しかったと自分でも思う。
だが。
「なんで、俺?」
「ちょっと、人の裸を見ておいて、まさか責任を取らないつもり?」
「まだいうか? それ」
「なぁ~んてね、冗談よ。まぁ、責任を取ってくれるって言うのなら、あたしは全然問題無いけどね」
俺にとっては問題が大ありなんだが。まぁ、それは口に出さないでおこう。
「この世界は広いんだ。きっと、良い相手が見つかるだろ」
「う~ん、そうだと良いけど」
そう言うとジュディは少し俯き、そして上目遣いでこちらの様子を伺ってきた。
「そろそろ、会話に気を付けた方が良いな。もう都が目の前だ」
「えぇそうね」
都の入り口前にも見張りの兵士が立っている。検問所で通行許可証を貰っているが、なるべく怪しまれない方が良いのは確かだ。
俺はジュディにさりげなく身を寄せた。すると、何を勘違いしたのかアルマを抱いていない方の腕を絡めて来た。確かに夫婦を装うべきだが、そこまでやれとは言っていない。俺は逆に動きがぎくしゃくするのではないかと心配になりながら、都の入り口まで歩を進めた。
勇者殺しのキース 玄門 直磨 @kuroto_naoma
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