人体切断!!!

立花 優

第1話 人体切断の謎

 ある日、将棋盤上で、激しい戦いが繰り広げられていた。




「王手!」の声。




「また、負けた、叔父さんには、これで13連敗ですね」




「これで、アマ三段の実力を知ったろう?いい加減、諦めらたどうだ」




「いや、これでも、僕は、T大の大学院理学部修士課程在学の身です。今度こそ負けませんよ」




「いや、その心意気は、買うけどね。まあ、諦めたほうが良いんじゃないの?」




「失礼な、これでも僕は、叔父さんのリハビリにも貢献してるんですよ」




「ところで、叔父さん、話は変わりますが、僕、この前、大金はたいて、日本初上陸のファイブ・スター・イリュージョン劇団の講演を見て来たのですが、どうしても、解けないトリックが一つあったのです。それをこっそり録画したので、見て貰えませんか?」




 相手は、叔父さんとは言え、警視庁捜査一課の現職の刑事なのだ。




 ただ、この前の強盗事件の取り込みの最中、犯人に左上腕部をサバイバル・ナイフで切られ、現在、緊急手術後の治療後のリハビリ中である。左腕の三角頭巾が目にまぶしい。




「そんな、勝手に録画したら、実は、法律に触れるだろうが……」




「いや、僕も最初は全く録画する気が無かったのですが、あまりに、現実味を帯びていたため、胸ポケットにあった、録画・録音出来る、小型の電子ペンでとっさに録画したのです……」




「で、甥っ子の護君に言わせれば、どう可笑しいと言うのだね。


 これでも、私は、高校時代、奇術部の部長していたから、ほとんどの手品の種は理解できるんだがね……」




「それは、耳にタコができるくらい聞かされましたよ。




 では、今から録画内容を、パソコンで再生します。画質は滅茶苦茶悪いんですがねえ」




 そこで、警視庁捜査一課の現職の刑事にその画面を見て貰った。確かに、画質は悪いが、被害者らしき人物の絶叫は、十分に録画されていた。




「おおっと!」、ここで、現職の刑事が、身を乗り出して、目を見張った。




 それは、「人体切断」のイリュージョンなのだが、元々、一流高校の奇術部の部長だったこの刑事は、このようなトリックを十分に良く知っているのだ。


 人体切断マジックのトリックとは、要は人体が潜り込むようなわずかな隙間があって、そこに身を伏せて、電動ノコで切るのである。その差、わずか、1ミリ単位の差で助かるのだ。




 しかし、現職の刑事が見たのは、暑さわずか数ミリのベニヤ板の上での人体切断マジックである。これでは、とても身を隠す場所など絶対にあり得無い。これは可笑しいと、現職の刑事は直感した。……これは、トリック上絶対あり得無いのだ!!!




 第一、人間の隠れる場所が全く無いでは無いか。




 続いて、電動ノコで、まず、両腕が切られた。




「ギエエ…………!!!」、絶叫が会場内に、大音響で響く。




 で、次は両太ももが切られ、最後は首が切り落とされた。




 被害者の絶叫はやがて消えた。20代前後の若い女性だったのだ。


 観客の皆様方は、イリュージョンだと思い、大声で笑っていた。




 しかし、元、一流高校の奇術部の部長は、このトリックは実現不可能だと思った。ベニヤ板一枚では、体を隠す事は不可能なのだから。




 では、あの「人体切断」は、本物なのか?




 すると、即、劇団員らしき3人が現れ、舞台の上に薬品をまき、モップで綺麗さっぱり掃除したのだ。これでいかなる証拠も残っていない筈だ。




 掃除が綺麗に終わった後、先ほど、切断された筈の若い女性が、舞台の反対側から顔を見せた。背格好も顔も全く同じだ。そこそこ美人の女性であった。


 このイリュージョンに、観客はやんやの喝采だ。アンコールの嵐が鳴り止まないが、奇術師は、「ハーイ、グッド・バイ」と告げて、この最大の演目は終了したのだった。




 だが、さすがは甥っ子の護君はT大理学部の大学院生である。ステージの上から横の脇に、わずかにこぼれ落ちた数滴の血液を見逃していなかった。




 最終公演が終わった後、何気ない顔をして、ほんの数滴、こぼれ落ちた血液を、ティッシュペーパーで拭って来たのだ。




「叔父さん、ここにある血痕、本物の血痕なのか、単なる血ち糊のりなのか、調べて見て下さい。科捜研に依頼しなくても、鑑識で、「ルミノール試験」十分でしょう?」




 やがて、2日後、本物の血液だと、確認されたのである。つまり殺人事件だったのだ。




 しかも、護青年は、この日本初上陸のファイブ・スター・イリュージョン劇団の講演前、裏バイトで、双子募集のサイトを早くから発見していたのだと言うのである。




 双子(一卵性双生児に限る)募集。報酬、一人100万円・一日。いや、どう考えても可笑しいでは無いか……。




 警視庁捜査一課は、直ちに、殺人事件の捜査に乗り出した。しかし、ファイブ・スター・イリュージョン劇団は、既に南米へ出国してしまっていたのだ。




「叔父さん、残った一人は、無事なんでしょうかねえ……」




 と、護青年は、未だ療養中の叔父さんに聞いてみたが、叔父さんはハッキリ言った。




「このファイブ・スター・イリュージョン劇団には、悪い噂があって、聞いた話だが、FBIでも極秘で捜査しているらしい。多分だが、二人ともこの世には、もういないだろう、残念だがね。


 このトリックとは、実際の双子の一人を現実に殺害し、もう一人を舞台に上げる事で成り立っている。片方のみがいなくなれば、もう独りも只では済まないだろう。




 こうやって双子を使って観客の目を欺くトリックだ。実際に行ったのは、多分、このファイブ・スター・イリュージョン劇団が、世界で最初だろうがねえ。


 このようなトリックは、実に簡単で、小学生でも考え付くのだが、まさか、金儲けのためにここまでやるとはねえ……もう、この世も終わりだなあ」




「では、僕が見ていたのは、ホントの殺人現場だったのですか?」




「ああ、その通りだな」




 ウっと、胸元から、咀嚼物が、護青年の喉元まで上がってきたように感じた。




      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「まあ、日本一と言われる警視庁捜査一課と言っても、この、天才の僕の頭には勝てないようだな……ワハハハ」




 護青年は、アパートで、日本酒をチビチビ飲みながら、一人呟いていたのだ。




「あの血痕、アレはこの僕の血液さ。それに、「人体切断」のトリック、画像編集ソフトで、板の厚さを薄めに直しただけなんだがねえ……。切断された手足等は、手品師の後ろに隠してあった筈だよ。


 画質が悪いのが、逆に、良かったなあ……。


 まあ、それに気が付かないとは、警視庁も、叔父さんも、大した事ねえなあ、馬鹿の集まりか、ワハハハ」



 しかし、その時既に警視庁のパトカーが、護青年のアパートに向かっている事を、護青年本人は、知っていなかったのだ。




 警視庁、実は、護青年が思っている程、馬鹿では無かったのだ!!!








         ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




しかしである。




それから、約、一週後、多摩川の河川敷で、多分、一卵性双生児の、バラバラ死体(若い20歳代女性)が、発見されたのだ。




これは、一体、どう言う事なのだろう……。


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