不思議な宿屋に泊まります


 何分か馬車に揺られて移動すると一件目の宿屋に着いた。降りて開いているかを聞くために中に入ると、受付には本日満室とかけられており、聞いていても満室らしいので次のところにいくが、そこも満室だった。こんなことなら、服を見る前に宿の確保をしておくべきだったのかもしれない。


「ギルドで教えてもらった宿は何件あるんですか?」

「三件だ。だから次もダメなら本当に自分たちの脚で開いている宿を探さないといけない」


 ここまで人が多いとは思わなかった。王都の宿屋の需要を甘く見ていたのかしれない。


「宿がなかった場合はどうするのだ?」

「どこかで野営だな」

「せっかく王都に到着しているというのにそれは味気ないな……」


 そんな事態、俺だって嫌だから宿で寝るために全力で探す。しかしそ意気込み、むなしく三件目もダメだった。


「いったん、ギルドに戻るか。私の服を見ていたばかりに何だか申し訳ないな」

「エレナが責任を感じることでもないだろう。王都の宿屋事情を甘く見ていた俺のせいなんだから」

「私ももっと注意しておくべきでした」


 三人それぞれが何かしら責任があると思っているということか。でも今は自分の方は悪い論争をする必要はない。俺たちに必要なのは宿屋なのだから。


「やめよう。こんなことを言い続けたところで宿屋が見つかるわけじゃない」


 二周したところで打ち切る。すぐにギルドには着いて、降りると、目の前には獣人の小さな女の子が立っていた。迷子だろうか。この世界は人攫いが平気であるから心配だ。とりあえず声だけでもかけてみよう。


「お嬢ちゃん、迷子? それとも誰かを待っているのかな?」


 ルナも気が付いたらしく俺の側によって来た。御者台に座っているエレナは馬車を降りずに心配そうにこちらを見ている。


「お兄さんたち冒険者さんですか?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」


 冒険者であると言ったら表情がすごく明るくなったけど、話しがいまいち見えない。探してい人か待っている人が冒険者ということかな。でもそれなら俺が力になれそうになうんだよな。だって王都に冒険者の知り合いはいないのだから。


「もし探していたり、待っていたりする人が冒険者だというのなら俺たちは……」

「お兄さんたち宿は探していませんか?」

「えっ、宿? ごめん、話が見えないんだけど、どういうことか話してくれるかな」


 唐突すぎて話しがまったく見えない。この女の子は一体何を狙っているのだろうか。少なくとも迷子というわけではなさそうで、その点は安心したけど。


「あたしの家、宿をしているんです。でもあんまりお客さんいないからここにいれば来てくれる人もいるかなって」

「お父さんとかお母さんに言われてここにいるのかな?」

「ううん、お父さんたちには何も言われていない」


 こんな小さな子が暗くなりそうな時間に家を出ているんだ。心配しているだろう。それに宿屋を営んでいるか。


「ルナ、どう思う?」

「とりあえずこの子を家まで送りましょう。そこに泊まるかどうかはそれから決めても遅くはないと思います」

「分かった。そうしようか」


 この子をここに置いていくのも気分の良いことではない。今日は野営もやむなしかもしれないけど致し方ない。


「お父さんとお母さんはきっと心配していると思う。だから送るよ。お嬢ちゃんの家がどこか教えてくれるかな」

「泊ってくれるの?」

「そうだな。それも考えているよ」


 馬車に載せ、道を教えてもらいながら進む。女の子の両親が営んでいるという宿屋はギルドからほど近い立地にあるようだ。それだけの場所だというのに、道中で聞く限りあまり泊まる人がいないらしい。これは香ばしいな。何かしらヤバいことでもあるのではないかと邪推してしまうな。


「馬車を止めることはできるのかな?」

「できるよ」


 どうやらその点はクリアしているらしい。あまりにも難があるなら別だが、今日はそこでもいいような気がしてきた。


「ここだよ」

「見た目は普通の宿屋か」

「当たり前じゃん」


 見た目は普通でしかない。とりあえず、二人は馬車に乗ったままでいてもらい、女の子と中に入る。


「ただいま!」

「どこに行っていたんだ!?」


 勢いよく椅子から立ち上がり、椅子が倒れら音がしたかと思ったらズシズシと重い足音がする。どうやらこの子の父親は奥にいたらしい。


「お父さん、お客さん連れてきたよ」

「お客さん? ああ、この子を送ってくれてありがとう」


 どうも対応が慣れている気がする。これはこの子、いつもこんなことをしているのかな。ちょっとこのおっさんには同情してしまう。それを差し引いても綺麗だし泊っても問題なさそうだ。


「それで今日、ここに泊まることはできるのか?」

「あ、ああ。それはもちろん大歓迎だ! 泊ってくれるのは兄ちゃん一人か?」

「いや、外に連れが二人いるから三人だ。それと馬車があるからそれを止めたいんだが」

「三人か。分かった。馬車についてはうちの女房に案内させる」


 そう言うと、大きな声で誰かを呼んだ。奥から店主と同じくらいと思われる年齢の女性が出てきた。女の子がお母さんと言って近づいたのでこの人が案内をしてくれるのだろう。


「私が案内しますね」

「お願いします」


 その女性と一緒にいったん、外に出て二人に説明して馬車の方を移動してもらう。俺はもう中に入り手続きを進めることにする。


「三人ということは同じ部屋でいいのか? それとも部屋は分けるか?」

「一緒にできるのなら一緒でお願いしたい。可能か?」

「大丈夫だ。夕食はどうする?」


 夕食もあるのか。それもお願いすることにして、お風呂はあるのかな。


「風呂はあるのか?」

「大浴場がある」

「やったぜ」


 お風呂があるのならもう何もいうことはない。これだけ受付がきちんと清掃されているのなら、部屋も問題はないだろう。あとは値段だけだが、それも聞いてみると高くはなかった。さすがに街の宿よりは高いけど、それは地代が高いということで納得できる程度だ。ならばどうしてここまで閑古鳥が鳴いているのだろう。不思議なこともあるものだ。


「お待たせしました」

「部屋、三人一緒にしてしまったけど大丈夫か?」

「私は構いませんけど、エレナさんは大丈夫なのでしょうか?」

「ん? 私なら大丈夫だぞ」


 大丈夫らしいので一部屋に決定する。


「部屋にベッドを一台入れないといけないから少し待っていてくれ」

「分かった」


 店主は部屋の準備をしてくるようだ。部屋は二階にあるようで階段を昇っていった。構造も普通の宿だし不思議なこともあるものだな。


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俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~ 藤原 @mathematic

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