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● ○ ●


〈東錠side〉


「立花ひろき。立花ひろきを知っていますか?立花ひろきは〜〜〜。」

「っ!!」


俺、東錠鍵治はジャングルジムのてっぺんで休んでいた。夏目蒼の調査も済み、田中さんの到着を待つまで完全に暇だったのである。だからこそ突然鳴り響く放送に驚き、焦る。

校庭のスピーカーからの音声だ。


「ふんっ!」


俺は跳ね起きると焦らずに


ボゥッ!


「立花ひr『バキィィィィ――』


「よし。」


スピーカーが意味のない機械音を垂れ流すようになったのを確認する。無事校庭のスピーカーを破壊できた。


「それにしても今の放送は...だいぶまずいな。全校内で流れたんならだいぶめんどくさい。」


今のは『立花ひろき』側の策略だろう。放送で短時間に全員に自らを知らせようとしている。

校庭にだけ放送するのは考えづらい。校内の全校生徒は全員放送を聞いてしまったはずだ。まずいかもしれない。

俺はスマホを取り出すと履歴から田中さんへ電話をかける。


〈放送機器使われました。等級をあげてください。〉

〈東錠くんはいつもツメが甘いねえw〉

〈...なんで田中さんに電話して星野先生が出るんですか〉

〈これ教員室の電話だし。タナっち二級の怪の討伐で呼ばれちゃったし。特級の任務もなくて暇だし、生徒を助けるのも先生の役目ってゆーか...〉

〈つまり星野先生が来るってことですか...チッ。〉

〈今舌打ちした?え?最強の特級魔導士マジシャンの僕に舌打t〉


何やらうるさい星野先生を無視して電話を切る。俺は校内の様子を確認しようと、下駄箱に向かった―――。


● ○ ●


〈夏目side〉


「うおっ!」


下駄箱につくと、校庭の方から朝会った少年が走ってくるのが見える。


「お前は...トウドウ!」


「東錠だ!...お前は無事なのか?」


「無事だ、け、ど...。」


俺は足に氣を巡らせ、タタンというリズムでジャンプすると下駄箱の上に乗った。

俺は確信を持って東錠に問いかける。


「「...さっきの放送、お前の仕業か?」」


(...!)


言葉がかぶる。東錠も全く同じ疑念を俺に抱いていた。


「お前、氣の量が異常だし校内から出てきたから『立花ひろき』に操られて放送したもんだと思ったんだが...」


(氣?...氣について知ってるなら、尚更怪しい...おじいちゃんと知り合いなのか?

いや、だったら『夏目』の姓に反応するはず。下手に話題に出さない方が良さそうか。)


「や、俺、昼寝してたら急にみんなの様子がおかしくなって...。それよりお前じゃないのか?朝、校門でみんなに広めてたろ。」


「違う。俺は...」


東錠の言葉の途中で、俺はうなじがゾッと冷える感覚を覚える。これは―――危険が迫ったときの感覚だ。


「危ない!伏せろッ!」

「―――ッ!」


俺の鬼気迫った表情に、東錠が反射的に身を屈める。

先ほどまで東錠の頭があった部分を、薄紅色に発光する弾が通過する。弾は壁に穴を開けると凄い速さで空へと飛んでいった。


「大丈夫か!」


「ああ...少し、虚を突かれただけだ。」


(なんだ...今の弾...。大砲か?まるで漫画のエネルギー弾みたいな...。)


『ふむ...これを避けますか...。』


ゾッ、と再びうなじが冷える。

俺は素早く振り返り両方の拳を顎の前で軽く構えた。

ファイティングポーズだ。

ブルブルと震える体が、本能的に自らを護る形をとっている。

なんだ、この威圧感は。


『校長を洗脳してからは楽勝でしたね。』


倒れたクラスメイト。その中心に、大男が立っている。


「だれだ!お前!」

「『立花ひろき』だ。完全体のな」


俺の疑問に、東錠が答えた。

気のせいか少し声が震えている。

『立花ひろき』は、とても人間とは思えない形状をしていた。

カマキリのような逆三角の頭と目。生々しい歯茎を見せつけるような口。太い肩や胴と、バランスをとるように細い腕や指。


「あれが...。」


『大人数の“記憶”が集まったので実体化できましたが...なぜ洗脳の効いていないヒトがいるんでしょうか....。」


気持ちの悪い合成音のような声。

思わず息を呑む。テレビの中でしか見たことのないような異形だ。熊やヤクザとはわけが違う。


「...お前が、あの放送をしたわけじゃなさそうだな、東錠。」


「誤解が解けて何よりだ。」


「なあ、どうすればあいつらを助けられるかな。」


俺はクラスメイトを視線で示す。


「そりゃ、『立花ひろき』を討伐できればだけど。」


「はは、話が簡単で助かるわ。」


俺は全身に氣を巡らせ走り出す。


「バケモンと戦うのは得意なん、で、な!」

「ダメだ!夏目!」


東錠の言葉を無視して俺は駆ける。東錠は俺が一般人より強いのを知らないらしい。


「よっ!」


タン、と地面を蹴った俺は壁を蹴ってさらに加速する。『立花ひろき』に背を見せるように半身を捻って右足で着地し、そのままの勢いでジャンプして空中でフィギアスケーターのように回転する。


脚力をスピードに、スピードを回転に、回転を威力に。


それが―――

旋風脚せんぷうきゃく!」


勢いのついた足は、氣で強化されさらに強さを増す。そしてその足は物凄い勢いで『立花ひろき』のがら空きの腹に―――。



トッ...。


『いい蹴りですね。でも隙がありすぎじゃないですか?』


「んなっ!?」


俺は地面を蹴って後ろへ引く。


(なんだ...今の手応え...。)


まるで岩壁を蹴っているかのような。

氣での肉体強化をやるようにしてから感じたことのない感触だった。


「言ったろ!

...時間を稼ぐ!合図したらどこか鍵をかけられるところに案内しろ!」

「えっ!...わかった!」


東錠の提案に乗る。どのみち今のままゴリ押しても攻撃は通りそうにない。

 東錠は懐から大きな布を取り出すと、投網のように『立花ひろき』へ投げ...布?


こいつ、こんな布で抑えられるわけ...。


『立花ひろき』は俺と同じ考えなのか、避けようともしない。


『こんな布かけても、時間稼ぎにもなりませんが?』


『立花ひろき』が布を振り払おうとする、その時。

東錠が想像より数段早い動きで駆けると布に触れる。


「布の強度は関係ない...【施錠フリーズ】」


ガチッ!


「!」『!』


布が突然する。


「行くぞ!」

「おっ、おう!」


何が起こったのか、という疑問は一度しまう。

ひとまずは布が動きを止めている間に安全なところへ!

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東京マジシャンズ 夜野やかん @ykn28

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