今夜はよく寝れる

あけぼの

第1話今夜はあまり眠れない

「伊織、今日は早く寝なさいよー」

明日が待ち遠しい。6年間で最大のビックイベントである修学旅行はついに始まろうとしている。だからぜんぜん寝れない。行事の前はいつも楽しみで眠れないし、修学旅行なんてなおさらだ。あ~あ、今度こそは………。
















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投げられた手提げ袋


クラス対抗なのに別のクラスに入ってやったドッチボール


約束の時間になっても来ない友達


嘲笑われた帰り道


いつもそうだ


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 清水寺は残念ながら工事がされていて舞台は少し窮屈ではあるけど、きれいな空と美しい紅葉がよく見えるいい景色だ。その後はお昼で、湯豆腐だ。結構たくさんあるから食べるのが大変そうだ。宿では写真屋さんが沢山写真を撮ってた。二日目の奈良は驚くべきことに見る限り鹿だった。まあその後は柱にある穴を潜って帰った。

 行きは新幹線帰りはバスだ。バスのほうが寝るのに遠慮がいらなくていい。新幹線よりは狭いからか何処か自分の居場所のような安心感がある。目をつむると後ろの方で話してる男子や昨夜の続きの恋バナをしている人たちがいるのがよく判る。僕は隣の子とあまり仲が良くないから本当に寝るしかないのに。


 覚えているのはこのくらいだ。当時はとても印象的だったかもしれないが、このあとの出来事のインパクトが強すぎて記憶はあまり残っていない。

 事件は帰りのバスから始まった。いや、本当はもっと何年も前から始まっていたのかもしれない。

「帰ったら公園行こーぜ」

 そんな声が引き金となり学年の全員が公園に集まった。みんなでひとしきりサッカーをしたあとは何人かが集まって話し合いをしていた。僕は当時はまっていたリフティングに夢中であまり見ていなかったけど、その何人かのもとにだんだんみんなが集まって、最終的に僕の本へ来て、親しげに話しだした。

「伊織だけ逃げで鬼ごっこやろーぜ」

 普段は流石にこんな事言わないからなにかおかしいと僕は思った。

「せめてもう一人ぐらいいないの?」

 そしたらまたみんなが集まってコソコソ話し始めた。


 その後僕ともう一人の選ばれた子が逃げることになった。5分経ったら追いかけてくるらしい。僕はもうひとりのこと結託してなんとか逃げ切ろうと思ったが、その子は早々に何処かに行ってしまったからそれはできなかった。まあ大きい公園だからやりようはあるだろう。そう思った僕はまず迂回して最初の場所に戻る作戦を立てた。

 そして戻って茂みに隠れてみると、予想外の光景が広がっていた。


 みんなはサッカーをしていた。流石に自分の目を疑った。まあ結構ひどい目にもあったことがあるけど奴らも流石にここまでの外道ではあるまい、と。でもやっぱりみんなはサッカーをしていて、そこには僕とともに逃げる役になった子もいた。

 体の内側が丸ごとぐちゃぐちゃになっていた。僕はハブられている。みんなから嫌われている。社会ってやつから排斥された。孤独が首を絞めた。でもあいつらにそんな感情を抱かせられたことも悔しくて、もう全部壊したい。自分でも自分が何を考えているのかよくわからなかった。

 木の枝を片手で折って地面に突き刺した。







 僕はバレないうちそっと立って家に走った。もとからなにかおかしいとは思っていた。低学年の頃から下校中は僕を目の敵にしてくるし、部活とかでもあまり協力的ではなかった。でも、修学旅行の日くらい良い一日にならないかなと思っていた。悔しくて風呂の中で歯を食いしばらなくていい日になってほしいと思っていた。


 つまり期待していたんだろう。特別な日だからって。


 馬鹿馬鹿しい。ほんとはどっかで分かっていたはずなのに。






















それを拒絶してたんだよね

でももうしない。

今日からはよく眠れる。


 

 

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