【10万PV突破】ネカマで釣りをしていたつもりがネナベに釣られていた

#109 ニートストリーマー

「あざっしたー」

　忙しいってのもあるんだろうけど、宅配の兄ちゃんって挨拶適当だよね。現場仕事従事者自体そんなもんなのかもしれんけど。などと若干失礼なことを考えながら、配達員の背中を見送る。

　それにしても今日はやけに身に覚えのない宅配が届くな。飛鳥さん、ニートのくせして何を買い込んでるんだ？　っていうか、俺のハンコでいいんかな。

「飛鳥さーん、またなんか届きましたよー」

「うむ、ご苦労」

　俺から荷物を受け取るや否や、自分の部屋に戻ろうとする飛鳥さん。そこまで興味ないし、プライベートの買い物だから深くは聞かないでおこう。

　そう考えていたら、飛鳥さんがこちらを振り返った。

「ああ、そうそう。今日はもう何も届かないはずだから、安心してくれ」

「あっ、そうなんですね」

　それはありがたいんだけど、なんで自分で荷物を受け取りに行かないんだろう。俺から受け取っては部屋に籠もるってのを繰り返してるんだろうけど、一体何をしてんだろうね。……〝今日は〟？

「ああ、それから、今日は部屋に入ってこないでくれよ？」

「え？　ええ……わかりました……？」

　本当に何をする気なんだろう。まさかナニを……。

「おいおい、もっと興味持ってくれよぉ」

　あっ、聞いてもよかったんだ。俺は夏休みがもうすぐ終わるという事実で頭がいっぱいだから、飛鳥さんの買い物にさほど興味ないんだけど。

「あっ、いえ、プライバシーとかありますから」

「同棲してんのに今更そんなもんないだろ」

　普通にあるだろ。仮に夫婦でもプライバシーは存在するよ。え、何かの間違いでこの人と結婚したら、全てをさらけ出さなきゃいけないの？　それって、一歩間違えたらDVじゃない？　そういやこの人って、価値観が少し古いというか、少しズレてるんだったな。もし恋人ができても、わりとすぐ破局しそう。

「それで、一体何を買ったんです？　バラバラに届くってことは、別々のショップで買ってるんでしょうけど」

「そうだな、今届いたのはカードさ」

　カード……？　言われてみりゃ妙に軽かったけど、なんのカードだろ。封筒じゃなくて箱で届くってことは、プリペイドとかその類ではなく、カードゲームだろうか？

「今流行りの携帯怪獣カードを大人買いしたのさ」

　俺の心を読んだのか、それとも語りたくて仕方ないのか、箱の中身について語る飛鳥さん。ニートがおもちゃを大人買いするのってどうなんだろ。

「転売でもするんですか？」

　携帯怪獣カードって聞くと、転売しか思い浮かばないのよな。並んでまで買い占める輩がいるんだろ？　最近は流通が安定してきたから、売値が落ちたと聞くけど。

「そんな外道なことするわけないだろ？　怒るぞ」

「……ではなんのために？」

　商店街の子供とでも遊ぶんかね？　子供達に混ざっても違和感なさそうだし。

「パック開封の配信でもしようと思ってな」

「あー、そのカテゴリ昔は人気でしたもんねぇ」

「今も人気さ、多分」

　そうなんだ、そういうの全然見ないから知らなかった。飛鳥さんのトレンドなんかイマイチ信用できんけど、麻雀企画よりはよっぽどマシだろ。

　っていうか……。

「その、本気で配信者を目指す感じなんですか？」

　系統の違う美女が五人出演して伸びなかったんだから、諦めたほうがいいと思うんだけど。しかも今回は一人だろ？

「普通の配信者って仕事をしながらやるもんだろ？」

「まあ、よほど人気のストリーマーじゃない限りは」

　まともに生活費を稼げてるのって、なんパーセントぐらいなんだろ。もっと確実な副業がありそうなもんだけど。

「私には仕事をしてないというアドバンテージがあるからな。合理的だろ？」

　うるせぇな、もっともらしいこと言ってないで就職しろ。時間を持て余してる学生さんも多いだろうし、そんな甘い世界じゃないって。結局、事務所に所属してる人間とか、アイドル売りできる人が勝つ世界だって。

「じゃあ、他の荷物も……」

「ああ、配信用のアイテムさ」

　占い師じゃないが、一つ予言しよう。元手を回収することすらできずに終わる。まともに働けない人間が生き残れる世界じゃないだろうし。

「なんでもいいんですけど、迷惑系の配信者にだけは……」

「キミは今まで何を見てきたんだ？　不義理なことはせんよ」

　アンタの義理人情は少し歪んでるから、忠告してんだよ。

　といってもこの人頑固だし、せめてトラブルが起こる前に飽きることを祈るか。

　とりあえず興味持ってる感じを出しておくか、拗ねそうだし。

「カードの開封するって言ってますが、携帯怪獣カードについて詳しいんですか？」

「いんや？　なんなら携帯怪獣も十五年以上前の知識で止まってる。もっと言えば、その知識さえ曖昧さ」

　マジで舐めんなよ、配信業界。多方面から怒られるわ。

「生配信の予定ですか？」

「まー、そうだな。編集とか面倒だし、ライブ感も重要だろ？」

　編集が面倒って理由で生配信する人って、伸びないと思う。動画と生配信、それぞれの長所と短所を比較した上でだな……。

「知識つけてからやったほうがいいのでは？　最新作に触ってみましょうよ」

「うーむ……。システム複雑になってそうだし、ついていけるかな」

　なんで急に消極的になるんだよ、行動力どこいったのよ。

「それは知らないですけど、何も知らないカードのパックを剥き続ける配信よりはマシかと……」

「キミがそういうなら、信じてみようかな」

　いや、信じるのはやめてほしい。責任の所在を押し付けられかねんし。

「じゃあゲーム機、私の部屋に持ってくけどいいな？」

「……どうぞご自由に」

「よしっ！　クリアまで耐久配信するか！　絶対に部屋には入らないでくれよ！」

　なんでこう、この人は極端なんだろうな？　まだ二十七歳だから、多少の徹夜ぐらい平気だとは思うけど……。

　……百均にでも行って、耳栓買ってくるかぁ……。