第15話

「こうやってゆっくりするのは久しぶりかもね」

 よっこいしょと腰を落ち着けて、彼女の隣に座る。

「そうですねぇ。しばらくはごたごたしてましたからね」

 君に浴衣はとても似合っていて、どことなく色っぽさも感じていて、その気持ちは特別なものだと思うと、僕は少し恥ずかしくなった。

 今年の十五夜は特に大きな月だ。乾杯して、二人で月見酒を楽しむ。

「誠一君、もう赤くなってますよ。雪の中にいたら一発で見つかりますね」

 どうしたって僕は彼女よりお酒が弱い。逆に彼女は酒豪で、僕がつぶれた後も平気で飲み続けているらしい。

「それなら君は、春の花畑の中にいても負けないくらい美人だ」

 言った後に恥ずかしさに耐えられなくなって、顔を逸らす。

 すると君はトンと、僕の肩に頭を預けた。

「じゃあ……。夏の空のように雄大、とかどうですか?」

 しまった。やり返された。お酒の分もあって余計熱くなって空を仰いだ。

 そこに浮かんでいるのは、暗い空の上に浮ぶのは。

「君は秋の月の様に――」

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秋の長々しい夜に、秋女だった君と。 鵙の頭 @NoZooMe

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