最終話 真相

「少し話そうか」


 そう目の前にいる自分が言った。


 私と同じ顔、同じ声で。その人物は語る。


「君の混乱はもっともだ。まぁ、それが見たくて現界させたところはあるんだけどね」


 にっこりと口角を上げて、こちらを見据えた。


 鏡を見ているようだったが、目の前の自分は勝手に動き、勝手に喋った。


「きみは・・・」


「お初目だね。君達が言うところのカルダシェフ・スケールのタイプ5以上の地球外起源生物。エマくんが言う神様だよ」


 自分の胸に手を置き、自己紹介を始める。


 自分を神だと自称するジョンがそこにいた。


「自称・・・ではあるか。君達の文化圏で語られる神とは別種だけどね。エマくんが言った神ではあるよ」


 遠くを見つめるように彼は言った。


「だってエマくん達は僕がそういう風に作ったからね」


 その言葉に思わず顔をしかめる。


「作った」などという言葉は。


「少し不快だったかな?でも事実だよ。僕が仕組んだんだ。地球を壊したのも僕だし、あの星を作ったのも僕なんだ」


 淡々としていた。


 その説明には何の抑揚もなく、ただの事実としての言葉が流れ続けた。


「そして君を作ったのも僕だ」


「作った・・・」


 もう気付いている、自分が何者なのかを。


 それでもそれは誰かに言われなければ納得の出来ない出来事だった。


「君はスポットから複製された人間なんだよ、ジョン君」


 静かに目を瞑り、息をゆっくりと吸った。


 衝撃だったが、もう何も驚かない。


「あの日、君は穴に落ちた。そして君の情報は読み取られ。君の『本体』はすぐに任務を続行させた。君の宇宙服に記載されている時間からもう何十年も時は経っているんだ。君は何十年もの時間を超えてきた、謂わばタイムトラベラーなのさ」


 穴に落ちて、その後飛び起きた。最初、自分はここが現代だと思い込んでいた。


 すぐに任務を続行しようとしたが、もうすでに地球など存在しなかった。


 外での時間はすでに何十年と進み、地球は滅び、そして異星での人類文明が出来た世界。そこに私は複製されたのだ。


「本体と言ったな?」


「うん、複製された君をジョンBとするなら。40年前のオリジナルのジョン君をジョンAとしよう。ジョンAは任務を全うしたよ。救助者を見つけることは出来なかったが無事に地球へ帰還して異星に危険性がないことを証明した」


 仕事を全うした。


 その言葉にだけで、どこか救われる気持ちになった。


「人類は脅威だったからね。地球ごと破壊させてもらったよ」


「じゃあこれは」


「うん、僕がやった」


 スクリーンに映し出される地球。


 この荒廃した大地を前にして、自分がやったと言い切った。


「僕は僕の恒星系圏内でしか動けない情報熱源の生命体でね。地球まで移動することが困難だったんだ。だからこちら側に来てもらったんだ」


「こちら側?」


「そう、僕は自分の恒星系圏内の物質をスキャンして生成と複製することが出来る。なるべく多くの人間にこっちの恒星系圏に来て欲しかったんだ。だから惑星を移動させて木を生成して、人類が住みやすそうな星を作ったんだ。美味しそうだったでしょ?異星『H2P4』は?」


そう語る。


「木々の情報は宇宙船の中に入っていた植物から読み取らせて貰ったよ。意外と出来が良いだろう?」


「何のために?」


「地球を丸ごと破壊する術はすぐに思いついたけど、それだけじゃあ足りなかった」


 そう彼は語る。


「もう一度言うが人類は驚異的だった。時間さえあれば僕のいる恒星系のエネルギーを貪り食うことぐらいは出来ただろう。だから滅ぼすことを決めたんだ。最初に君たちの宇宙船が僕の力場に触れた時点で、君たち人間のスキャンは完了した。君たち人類の一般常識。それを見せてもらったよ」


 おそらくだが、それが最初の行方不明者だったんだろう。


 彼等は行方不明となったのは、この生命体のいる恒星系に入ってからだ。矛盾はない。


 「そして人類の脅威を知った。そして罠を張った。人間がたくさん来るように。植民地化しやすい惑星を作った。それぐらいは容易いさ」


 新たな大地に夢を見る。


 その夢に人類は押し潰されたわけだ。


 「僕が知れる情報は、僕の恒星圏内に来た物質、生命の情報だけ。一人や二人読み込むだけじゃ足りなかった。僕が知りたかったのは、全宇宙に漂う人類の数と位置だったからね。それを知って対策しないと、せっかく地球を破壊しても。人類の脅威は無くならない」


 だから・・・。


 「人類全ての位置が発見されるまで、何人もスキャンしたよ。そしておおよそ分かったところで地球の破壊と、漂っている宇宙船の破壊を行わせてもらったよ」


 目を瞑り、男は語る。


「僕は、僕という生き物が一番尊い。だからこそ、それを最優先させてもらった。だけど人類に対して何も思わなかったわけじゃないんだ。だから、こちらに住まわせることを考えた」


 男は自身の頭を指さした。


「僕も考えるんだよ」


 どこか得意げに、男は語る。


「無秩序に人類が繁殖しないようにシステムを作った。信仰や心情は改変させて。僕の星に住まわせる。新しい文化圏を作ってもらい、そこで生息させてもらおう。そう考えたんだ」


 もう一度、男は目を瞑った。


「残酷なことだとは思っている。何十億人もの人類の命を奪った。しかし、これしか方法はなかったんだ。人類と私はこの先、必ず接触する。そこまで指を咥えて待っていることはできなかった。君達で言えば武装する野生動物を放っておかないのと同じだよ。これは僕の自己防衛の手段だ」


 息を吐く。


 「欺瞞だと思うかもしれない。それでも人間と僕が生き残る方法を考えたつもりだ」


 目を見据える異星人がいる。


「混乱を来したかもしれないが、それでも僕は問いたい。君が・・・君たち地球人がどう感じるのかを、僕は知りたいんだ」


 答えを求めて。


 そう男は語る。


 異星は考え、人類に対抗し、そして人類は負けた。


 荒廃した大地を下にして、一つの宇宙船が空を漂っている。


 「それが君の仕事だ」


 吐かれる問いに対して、私は自分に与えられた任務を遂行しようと考えた。

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