最終章
第14話
「おう、待った?」
「……お帰りなさい、夏彦」
「いやいや久しぶりの日本。本当は君も連れて行きたかったけど……ダメだもんな」
「そうだね。でも事業も軌道に乗ってよかった」
「そうだなぁ。そっちもよくやってるじゃないか」
「……ま、まぁなんとか」
「ここで会話するのも何だから部屋に行こう」
「はい……夏彦」
テンポの良い会話はつい最近では培えないものである。
二人の関係は友人以上なのだがこの会話ではそれ以上か分かりにくい。
「ちょっと、腰に手を回すだなんて……ダメですよ、ここでは」
「いいじゃないか、もう10年以上の仲」
「……ええ」
「いつものようにキスはここでしないけど、これからいいじゃないか周りから見たら仲のいい友達さ。……なぁ、誠也」
夏彦と誠也は恋人同士だった。
その後に夏彦が浮気した相手はわたしだったのだ。
まさか恋人の姉である私と浮気してしまったのだ。
私の妊娠がわかって誠也と別れるつもりだったが誠也はとても夏彦を愛していた。
誠也は女性よりも男性を愛し、夏彦が初めての恋人でもあった。
私はそれに全く気づかなかった。通りでこんなに素敵な容姿、才能があるのにも関わらず女性1人も紹介もしなかった。だからこそ夏彦も紹介なかった。偶然私たちが姉弟だったのだ。
そして日本では同姓同士の結婚はできない。元々結ばれないことは覚悟であった誠也は愛人という形で夏彦と関係を続けていたのだ。
もちろんこの関係は私には秘密で全く知らなかった。悲しい。
何度も二人は密会していたが、二人は男同士というのもあり、探偵は二人の関係は見逃していた。ましてや妻の弟、だから。
「杏子……占い師としてめっちゃ人気だな。離婚してから吹っ切れたってやつ?」
夏彦と私は一年半前に離婚した。それから私は誠也と上京して店だけでなくテレビやメディアに引っ張りだこの人気占い師になった。
夏彦と不倫していた女たちは、というと……
敦子はパートを掛け持ちをしまくり慰謝料をなんとか完済したものの、体調を崩して事情を暴露し、今は心広い夫の実家の山奥にて家族で移住して静養している……というらしいが。
大義祖母、義祖母、義母、引きこもりの義理姉もいるらしく、毎日介護、農作業、家族の世話でてんてこ舞いだがあんなに忙しいのに夏彦と浮気できたんだから大丈夫でしょうね。
遙はカードローンを重ねてさらに請求された慰謝料も高額で返すことができず、こちらもまた夫に素直に告白。残念ながら離婚をし、その後は行方は誰も知らない。
私の作ったブレスレット……似たようなものがいくつかフリマアプリで販売されたらしいけど最初の値段付けが高すぎて売れすぎず、最後は叩き売りされてたって。悲しいわ……。これも誠也が調べてくれたのよ。
奈々美は娘を連れて家を出た。慰謝料を請求はできなかったが代わりに秋利が支払っているがそれも最近滞っている。義父母たちはもう流石に払えない。まず持って不倫したのは奈々美だ、奈々美の両親に訴える! といつも通りの的外れさと孫を失った悲しみも相まって怒り狂っていたが結局は秋利にお金をやっているとかないとか。
「あ、倫太郎くんは今日家に帰ってますよ。明日は姉さんオフにして親子水入らずで夢の国、ホテルもオフィシャルホテル」
「そうか、元気そうなんだな。俺には連絡ないけど」
学費は夏彦が納めているが、ずっと母親の私を罵っていた父親を見ていたせいか今回の不倫による離婚で更に失望してしまい、離婚を機に倫太郎は私を気にかけて長期休暇は帰ってくる。
そうでもない時でも私の仕事の空き時間にテレビ電話をしたりメールをしてくれる。
本当に嬉しいわ。これこそ親子。ようやく我が子を抱きしめることができる。愛することができる。
誠也もいいけど……やっぱりお腹を痛めて産んだ我が子が愛おしい。
「おいおい、こういうところではやばいだろ。抱きつくのはよせ、誠也」
「大丈夫です、僕らしかいませんから」
誠也は私の付き人として寄り添ってはいたものの、他にも数人弟子がついた。
他の弟子よりも特別扱いしたけどやはり倫太郎の方がいい……。
あの子はやはり賢い、これに気づいていたの。でも弟だから見放すことはないのに。
「こらこら、そんなに甘えて……誠也」
「いいでしょ、夏はこう」
よしよし、良いわよ夏彦。名前を呼び合えば更なる証拠になるわ。
……てか夏彦。懲りない、この男は。
私が夏彦のモラハラで苦しんでいると相談され、かつて愛した恋人の夏彦がそんなことを……とショックを受けた誠也。
諦めたのに、姉の幸せのために、夏彦の幸せのためにと誠也は身を引いたそうだ。
ああ、心苦しい。でもこんな夏彦の毒牙に塗れなくてよかった。姉の私が代わりに……。
私は誠也が夏彦の恋人と知らず彼の知識や技能を利用して調べるのを手伝ってくれた。録音テープや記録でその事実を知り、探偵を雇うと他の女たちの影。
ショックだった。軽蔑もした。夏彦は情報を出してくれた時は毅然とした態度だったけど私の知らぬところで泣いていたらしい。ごめんなさい、そんなこと知っていたら……。
「流石に姉さんも夏彦さんの相手が僕だなんてわからないでしょう」
「そうだな。はははっ、ほんとあいつもバカだなぁ」
この音声を私はホテルの駐車場で聞いていた。誠也が鞄に仕込んだマイクで。
誠也はやはり許せなかった。だから自分が夏彦と付き合っていたことを私に告白した。
私は大いに喜んだ。誠也を思いっきり抱きしめた。そして誠也の悲しみも。
離婚してから夏彦は仕事を辞めて友人と起業をしていた。
そしてすぐに知り合いから紹介された女性と結婚したのだ。
だが私への養育費や慰謝料が滞っていたのだ。
「……バカはあなたよ……」
と私は車から出てホテル直通のエスカレーターに乗った。
終
占い師キョウコの企み 麻木香豆 @hacchi3dayo
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