第13話
「ああ、あの大慌てよう……私がこの店で占い師をしていたことは見抜けたみたいだけど、私たちが彼女が夏彦と不倫していたことを、知っていたことは見抜けなかったようね」
奈々美が帰って次の予約まで20分ほど時間が空いた。
誠也が近くのドーナツ屋で私の好きなドーナツとコーヒーを買ってきてくれてモグモグと口に入れていく。ああ、うまいうまい。
「……しかも探偵が言ってた一番格下の扱い、公衆トイレでの密会……笑える笑えるー」
奈々美さんに問い詰めるとどうやらもうかなり長い関係だそうで。
ハァ、奈々美さんとの浮気に味を占めて私のママ友にも手を出した感じね。時系列的に。
お金を払うから黙っておいてくださいって最後の方は頭を下げてたけどそれは弁護士さんにお任せする、と言うと義父母との同居もしますからお許しくださいと土下座している姿がアー笑えてきたわ。
「奈々美さん、どうされるんでしょう」
「だれかにちくってもこっちは手を打てるから。下手な真似したらアウトよ」
「……姉さん、やっぱりやめましょうよ」
「なんで? もうやめられないわよ。ここまできたらあとは夏彦にもドーンと叩きつけて地獄に落としてやるわよ……それにはもっとお金が必要だから……他にも密会してた女とか、ワンナイトの女とか……でも……」
「でも?」
私は奈々美が言っていたことで気になったことがあった。
『なんか私のいる時に誰かと電話していた……聞いたら別に相手がいるって……』
と。
『夏彦さんはもう女は疲れたって。でもその人は僕を癒してくれる相手だ、とか言ってたけど杏子さんは癒せる相手じゃないのね、ウケる』
……最後の一言は余計だけど。そりゃ私を癒してくれない相手には癒すことなんてしないし。
ハァ。
女は疲れた、とか言いながらもまだ不倫を続けるのね、本当アホな男。
また探偵雇わないと。もっともっと……お金を……。
誠也が私の左手を握る。
「姉さん、もうこれ以上はやめましょうよ。もう十分。お姉さんまで不倫女たちと同レベルになっていいの? 性格悪くなっていく姉さんをもう見たくないよ」
「……誠也……」
わかってる、わかってる……でも私にはこうするしかないのよ。
震える手。それを優しく握ってくれるのは誠也だけ。ああ、本当にもう彼氏か私は愛せない。
もうこれだけで十分か。
……わかった。
これで裁判に持ち込んで私はようやく離婚して自由になれる。倫太郎はどっちについていくかわからないけど……誠也がいれば私は大丈夫。そうよね……。
こんな優しくて純真な誠也、他の女には渡したくない。あともう少しだから、もう少し……。
私も誠也の手を握ると彼も優しく握り返してくれた。この手は離したくはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます