ささやかな余白の夜に

カエデネコ

ささやかな余白の夜に

 今日は夕方にシトシト秋雨が降り、ぐっと冷えた。吸った空気がひやりと体に染み込む。畑のネギを抜いて、慌てて台所へ戻る。


 寒さは気持ちをシャキッとさせる時もあるけれど、落ち込ませることもできる。今日の私は後者かもしれない。


 うまくできなくて、思い通りいかなくて、昨日はできたのに今日はできない。そんなことで簡単に気分は沈む。


 新鮮な野菜と秋らしくきのこたっぷりのお鍋にしよう。にんじんもいれて色合いも良くして、柔らかなお肉もいれよう。


 シンと静かにしていた琥珀色の汁がグツグツ煮立ってきた。そこへどんどん具を入れていく。


 柔らかくクタッとなる具材達。フツフツポコポコ煮えた音がしてきて、完成する。蓋を開けると野菜やきのこから出た水分で汁が多くなっていた。


 熱々の汁と共に頬張ると、きのこと野菜から出た優しい出汁の味が広がる。油揚げはギュッと味が染みてて、甘くて美味しい。豆腐の角を崩して舌が火傷しないように食べる。


 おかわりには七味をパラリとかけて、味にアクセントを出してみる。


 シメはうどんをチュルリとすする。コシのあるうどんを噛む。


 そしてもう一品。この時期の秋刀魚も良いけれど、子持ち鮎も好き。あっさりとした白いホロッとした身に、プチプチの子が入ってる。


 これに山田錦を使った日本酒を飲みたい。冷酒にしようかな?熱燗にしようかな?寒さを感じるようになってから、お酒の温度を選ぶ楽しさが出てきた。


 米の甘味を感じるお酒。フワリと香るお酒の匂い。日本酒と鮎を交互に口にした。


 お酒が回り、体が温まってくると眠気が起こる。ぼんやりとして良い気分。


 今夜は何もせずに、お風呂に好きな香りの入浴剤を入れて、ゆっくり湯船の中で手足を伸ばし、温まる。


 そしてホカホカとした体で、お布団に入って、目を閉じ、ぐっすり眠りたい。


 何もない。何も考えない夜。頭の中を空白だらけにする。


 そんなささやかな余白のような時間や日が時々あっても良い。

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ささやかな余白の夜に カエデネコ @nekokaede

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