43 あとがき
今作品をお読みいただきありがとうございました。ここから先、ネタバレがありますので、ご承知おきください。
今回は「前は兄が弟殴る話書いたし逆やるか」という単純な発想から始まりました。主人公を引きこもりにすると決め、二人の力関係を決めました。
序盤はけっこうキツかったのではないでしょうか……。ええ、書いてて自分でも「鷹斗くんよく罵るなぁ凄いなぁ」と思ってましたもの。
そして、志鶴くんのミナちゃんとの浮気。とてもずるくて情けない主人公でしたね。
ミナちゃんの死は割と初期からプロットに組み込んでいたのですが、いよいよ書くとなるとためらってしまったのが実際のところです。
死はありふれた事象です。でも、それを通過点として割り切ってしまえるほど人は強くもなく、かといって弱くもなく。
ミナちゃんの死後、働く決心をして、行動に移した志鶴くんのことは、褒めてやりたいと思います。
志鶴くんは社会との繋がりをあくまでも求めるキャラクターでした。その一つがネストでした。まあ、ツイッターのことですね。グリーンというのもスペース機能のことです。
絵というのは志鶴くんにとってはコミュニケーションでした。シホさんやあーこさんと繋がり、ミナちゃんの魂を慰め、トキヤくんと交流する。そんなツールでした。
絵は芸術としての側面もあるのですが、今回は一切それを廃しました。志鶴くんはどこまでもアマチュアの絵描きの設定になりました。これからも彼はネットでの活動を続けることでしょう。
物語はその人物の一部分を切り取って貼りつけたものだと私は思っています。志鶴くんと鷹斗くんの長い人生の中のハイライトを詰め込んだつもりです。
兄弟という世間一般では許されざる関係にある彼らですが、あがきながらも幸福を見つけ、生きていく、その姿に何かしら読者さまが思うところがあれば、小説家としてこれ以上嬉しいことはありません。
鷹斗くんの「渇き」は、彼が生きている以上満たされることはないでしょう。そこには決着をつけませんでした。それは一種の悲哀ではあります。しかし、彼らが兄弟である以上ままならぬものとして、あえて残しました。
今回、ふたりを描けてとても幸せでした。彼らの人生には、今後も苦難が待ち受けていることでしょう。それでも、愛する者同士が手と手を取り合うこと。その尊さ、愛というものの可能性に思いをはせながら、この物語を終えたいと思います。
惣山沙樹
繭の中のふたり 惣山沙樹 @saki-souyama
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