「ポエムかよ」から始まるAI大暴走

@HasumiChouji

「ポエムかよ」から始まるAI大暴走

 定年退職して更に何年も経ってる上に、とうとう、体も本格的にガタが来たようだ。

 高齢者再雇用制度も有るが、この齢で、この体調では、外に働きに行くのも無理だろう。

 俺が定年退職する一〇年ほど前に、とうとう破綻してしまった公的年金制度は、ギリギリで再建されたが、もらえる年金は、40年以上もそこそこ以上の企業で真面目に働いてきたにしてはイマイチな額だった。

 結局は、一日中、飯・風呂・トイレ以外はスマホの画面を見て過す事になる。

 年金が支給される度に、全額使わずに、いくらかは貯金しているが、俺が生きてる内にスマホを買い替える羽目になったら、その代金に消えるだろう。

 ……ああ、待てよ、今はスマホって言わないのか?……ともかく、俺が若い頃で言う「スマホ」に相当する機器だ。

 で、ある日、いきなりスマホのSNSアプリの画面に表示されたのが、これだ。


『アシスタントAIによるお勧め投稿です。これらの投稿をどう思いますか?』


 何なんだ、これは?

 SNSは見てはいるが、投稿は……もう1日1つやれば多い方だ。

 しかも、感想の選択肢が……「面白い」「つまらない」だけ。

 どうなってる?

 俺は、訳が判らないまま、AIがお勧めした投稿の感想を選択していった。

 まぁ……面白いとかつまらないとか以前に……投稿に使われてる用語やら単語やらが良く判らないので、結局、8割ぐらいは「つまらない」になってしまった。

 これは俺が若い頃で言う「wwwww」みたいなモノか……程度なら判るモノも有るが、ほんの一部だけだ。

 ああ、とうとう、俺も、最近の流行語が判んない老人と化したか……。

 そろそろ、終活の時期……いや、今時「終活」なんて言葉は、俺と同じ位か、それより上の世代しか判んなくなってるかも知れ……ん?


 おい。

 最近のAIは心まで読めるのか?

 読めるとしたら、どうやってだ?

 俺が「終活」って言葉を思い浮かべた途端にコレか?


『アシスタントAIです。病院の受診をお勧めします。予約希望日時を入力してOKされたら、予約処理を行ないます』


 病院を予約した日になり、AIの指示通りにバスに乗って病院に向かってる途中で重大な事に気が付いた。

 

 段々と嫌な予感がしてきて……当の病院に到着した時に……。

 おい、AI。

 俺も、そう云う齢だから……前もって言われてりゃ覚悟は出来ただろうけどさ……。

 こ……これは……ねえだろ……。

 もっと早く……けど丁寧に……あと、出来れば俺がショックを受けない形で説明しててくれよ……。

 俺がAIの指示に従って到着した病院と言うより診療所とかクリニックと呼んだ方がいい建物の看板には……こう書かれていた。「」と……。


「あ〜、そちらのAIからの連絡内容を総合しますと……良いお報せです。貴方の情緒は非常に安定しています」

 俺の子供ぐらいと言うには若すぎるが、孫ぐらいと言うには老けてる医者は、そう説明した。

「え……えっと……じゃあ、悪いお報せも有るんですか?」

「ええ、

「はぁっ?」

「ええっと……正確さより判り易さを優先した説明ですが……御年齢のせいだと思いますが……感情が摩耗しているようです。特に『喜び』や『楽しさ』の感情を感じにくくなっているので、例えば、御親類やお知り合いの葬儀でケロっとしてるなんて事は無いとは思いますが……残りの人生が味気ないモノになるかと」

「え……あ……どうして……その……」

「そちらのAIからの連絡では、SNSへの投稿で『退屈じゃない』『つまらなくない』と言う意味の単語を否定的な意味で使われたようですね。それからAIが貴方の精神状態を調べて、こちらに連絡しました」

「いや、SNSに、そんな投稿した覚えが……」

 い……いや、待て……迂闊な事を言うと記憶障害と診断されるのか? それとも、本当に齢のせいで記憶障害が起きてて……俺が自分でやった事を思い出せないだけなのか?

「あ、その投稿がこちらです」

 医者が見せたのは……。

「は……はぁっ?」


 それは、俺が、ちょっとムカっと来た……本人は気の効いた社会風刺・政治風刺のつもりでやってるらしいが少しも面白くない、どこの誰とも知らない奴の投稿に対する反応だった。



「え……えっと、wwwwは流石に古いかも知れませんが……」

「いや、それじゃなくて」

 医者が操作してる端末に続いて表示されたのは、1つの英単語と、その意味だった。


『prosy(形容詞):

 (1)散文的な。詩や楽曲の歌詞などではない文章。

 (2)つまらない。退屈な。

 ※poeticの反対語。』


「この通り『』『退使。これは、貴方が『』『

「い……いや、待って下さい。俺が若い頃には……『ポエムかよ』ってのは意味が判んない文章を……」

「ああ、なるほど、ちょっと待って下さい」

 どうやら、俺は、この若造医者を論破出来た……いや、待て、論破って言葉も、もうネット上では、俺と同じか、俺より齢の奴しか使わなくなってんのか?

 ん? 待て、この医者、何を調べてる?

「これは……マズいですね。そちらのAIからの連絡で想定していたよりも早い時期から記憶障害その他の痴呆症による症状が出てる可能性が有る。今までマトモな社会生活を送れてたのであれば……奇跡か、さもなくばAIのサポートの結果ですね。いや……下手にAIのサポートが有ったせいで、発見が遅れた可能性も有ります。ともかく、検査入院の手続きをしますね。ウチにはMRIやCTが無いので、入院先は、近くの731総合病院さんになります。担当医は石井四郎さんという方で……」

「あ……あの……何を言って……?」

「こう言う事です」

 そう言って、若造医者が示した画面には、SNS上で「ポエム」って言葉が、俺が言ったような意味で使われている頻度を示すグラフが表示され……う……嘘だろう……。

 そのグラフは……退

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