1-11 パールホワイト・Tバック

「く、くくくく」


 そんな二人を見て、押し殺したように笑う影があった。


 言うまでもなく、『サディズム』を司るフェチズマー、ルキである。


 彼女、あるいは彼は、大きな岩の上に悠然と腰掛けて、片割れのルホに向かって話しかける。


「おい、見ろルホ。あやつら、ふざけた格好をして、何を格好つけているんだろうな」


「羨ましい羞恥プレイですね! ボクもあんな情けない姿にされてみたいです!」


 『マゾヒズム』を司るルホは、よだれを垂らしながら、羨ましそうにみさきを見つめた。


「ああ、でも……ご主人さまの、あのヒールにげしげしと踏まれてもみたい……」


 と思えば、今度は、しほのすらりとした脚に悩ましげな視線を送る。


「節操がないな、貴様は」


「気持ちよければなんでもよいのです!」


 ルホは、わおんとわなないた。



______________________



 一方。


 性癖の使者『フェチピュア』と化したみさきとしほは、粘液まみれの舌を伸ばすパンティフェチズマーと相対していた。


 その巨大なオオアリクイは、舌をうにょうにょさせながら叫んだ。


「へ、変態だ!」


 再三述べておくが、そのオオアリクイは、頭に純白のブリーフを装着している!


「テメェにだけは言われたくねぇよ!」


「いいえ、ピュアサンシャイン。自分の格好をよく見て。どっこいどっこいよ」


 ピュアサンシャインと化したみさきの服装は、首輪手枷とボロ布のみだ。もはや、裸の方がいっそ潔くてマシと思えるくらい情けない格好である。


「いや、しほ。アンタのもなかなかひどいぞ」


「そう? 機能美に優れているから、割と気に入っているのだけど。強いて不満を上げるなら、股が食い込んでちょっと痛いわ」


 しほは、食い込むハイレグボンテージを微調整しながら、恥じらうことなくそう答えた。


 両者共に、街の往来を歩けないという意味では変態的な格好ではあるものの、しほのほうがまだコスプレとして受け入れられるコスチュームだった。


 そんな二人の格好を眺めていたパンティフェチズマーは、舌を震わせ憤りの声を上げた。


「あ、あああああ! なんということだ! ワタシは……至って健全な女人のパンツを拝みたかったというのに!」


 オオアリクイは、あのお馴染みの威嚇ポーズを取りながら、みさきとしほを睨みつける。


「オマエも! オマエも! 下着すら身に着けていない痴女じゃないか!」


 オオアリクイの目は、二人の下半身に向けられていた。


 みさきはおよそ下着が似合う格好ではなく、しほは鼠径部丸出しである。


 確かに、両者共に、下着らしい布がこれっぽっちも見えない。


「ワタシのたぎった欲望をどうしてくれる! パンツはどこだ! パンツは、どこだぁ!」


 オオアリクイは、手足をジタバタさせて怒り狂う。頭にパンツさえ被っていなければカワイイと思える動きだった。


「チクショウ……」


 ひとしきり暴れた後、なぜか彼は肩を落として背を向けて、トボトボとコンテナへと歩いていった。


 みさきとしほの間に、微妙な空気が流れた。


「なんか知らんけど、帰ってくぞ、あいつ」


「きっと、パンツにしか欲情しないのね。ピュアサンシャイン。あなた、今、履いてないわよね?」


「…………うん。すっげぇスースーする」


「フェチズマーはきっと、司る性癖にしか反応しないのよ。私たちの格好を見て、パンツを履いてないからどうでもいいと思ったのね」


「えっ。じゃあ、変身した意味は?」


「今のところ、ないわね」


 二人は今一度、哀愁漂う背中を向けるパンティフェチズマーを見た。


 しほが、にやりと笑みを浮かべた。


「だから、私が、作ってあげる」


「おい、しほ! やめろ! 余計なことすんな!」


 みさきは嫌な予感がして彼女の口を塞ごうと手を伸ばすが、指をガリリと噛まれて失敗する。「痛ぇ!」


「パンティフェチズマー! 聞きなさい!」


 しほの凛とした大声が工事現場に響き渡り、オオアリクイを振り向かせる。


「あなた、私のこの鼠径部を見て、パンツを履いてないとでも思ったのでしょう?」


 オオアリクイは、静かに舌を垂らした。


「……そうだ。一般的なパンツであれば、その鼠径部の露出は生まれない」


「浅はかね。自分の性癖のアンテナすら、まともに展開できない愚か者よ。——私は、履いている。極小の、Tバックをね」


「なん……だと……」


 オオアリクイのつぶらな瞳に光が宿った。彼は何かを探るように、舌をぐるぐると動かした。


「あ、ああ……確かに、感じる……感じるぞ! オマエの股間から、聖布パンツの気配を! シルク製の、滑らか手触りリボン付き! 色はパールホワイトだ!」


 しほは、一度振り返って、己の下着を目視してから答えた。


「ご明察よ。——どう? これで、私たちを襲う理由ができたんじゃなくて?」


 オオアリクイは、四つ足に戻って、静かに答えた。


「感謝する。破廉恥な娘よ。おかげで、ワタシは、己の欲を満たせそうだ」


 オオアリクイの毛が逆立った!


「かかってきなさい。返り討ちにしてあげる」


 しほが鞭をバチンと地に打つ!


「この流れで、戦うのかよ」


 そして、置いてけぼりをくらっていたみさきは、ぽつんと呟いた!


「ああ、いいぞ。実に愉快な見世物だ」


 観客席では、ルキが、楽しそうに高笑いを上げていた。

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HENTAI! ふたりはフェチピュア! 寺場 糸@第29回スニーカー大賞【特別賞 @Terabyte

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