file.20 ラーメン食べて帰ろうよ
「誰に指示された? いるでしょ、バックにイカれたやつが」
「し、知らないんだ……!」
必死な表情で主張する阿瀬を見て、ワトソンはそれをすぐに本心だと判断した。おそらく心拍数や瞳孔を操作できるほどの技術はこいつにはないだろうし、信じていいのだろう。
「得るものはないか……」
「探偵、もう警察に突き出すか?」
「そうだね、もう用無しだからね」
強引に首元を掴み、俺は阿瀬を警備員に事情を説明して引き渡した。
最後まで、利用されていただけで自分は無罪だと主張していたが、経緯がどうであれ誤りには変わりない。
更生して、スキルを世のため人のために使って欲しいものだね。
「随分あっけない依頼だったね」
「短期間で解決するに越したことないだろ」
「そうですよマスター、事件にあっけないなんてないですから」
そう言うワトソンは、「そんなことより被害者のケアが必要です」と話を変えた。
「だが小型コンピューターが関与しているなら、医療の専門外だ。取り除くことはできるだろうが、神経に関与するタイプの機器なら素人が迂闊に触るのは危険だろう」
「確かに、医者にサイバー的な技術面を求めるのはお門違いだからね」
こんな時にどうするか。
そんなことすら考える暇なく俺の意図を読み解くなり、ワトソンは木原へと連絡を飛ばしている。
『……誰かと思えば、語部のとこのアンドロイドか。話は分かった、うちでなんとかする』
「ありがとうごおざいます、よろしくお願いします」
デバイスから漏れ聞こえる声で、木原が被害者のケアを引き受けることを快諾してくれたことが分かった。
「と言うわけで十名をデータ管理庁まで搬送してくれるかい?」
「分かった、救急車の手配をしよう」
善は急げ。と言うことで今すぐ木原にはバリバリ働いてもらおうと思う――
「――はぁ」
「なんだい? 会うなりため息をついて」
被害者が搬送され、一時間後くらいにデータ管理庁へ着いた俺とワトソンだが、作業はすでに完了していた。
そして今、俺は木原に完全に呆れたような視線を送られている。
「なんだそれは?」
「助手のワトソンだよ」
俺の横でぺこりと頭を下げてにっこりワトソンは微笑む。
「おかしいだろ、どう見ても人間なんだが?」
「改造したからね」
「おかしいだろ」
自分の目がおかしくなったのかと何度も目を擦る木原だが、何度擦ろうと目の前の現実は変わることはない。
「シンギュラリティに達したらヤバいやつに狙われるって話だったろ」
「うん、だから人間にした」
「は……?」
「人間に達した瞬間を狙うならすでに人間にしとけばいいんだよ」
俺はワトソンを大幅に改造したことを伝える。
最初はいちいちツッコんできていたが、途中から馬鹿馬鹿しくなったのかと言うほどノーリアクションで話を聞いていた。
「……マジでぶっ飛んでやがる。一歩間違えば敵に持ってかれるとこだぞ」
「一歩間違ってないから問題ないよ」
「結果論でドヤるな」
俺の頭を軽く叩く木原は、相変わらずプロセス重視らしい。
「でもまぁ、色々ある中でもお前が楽しそうで良かったよ」
「ツンデレかな?」
多少のデレを感じつつも、用が済んだので俺たちはもうここから去ることにした。
「あいつらに会って行かなくていいのか?」
「今日はいいかな、俺お腹すいたんだよね」
「ったく、いい大人なんだからマイペースすぎるのはどうかと思うぞ」
もう今更だと思う。
「ワトソン、帰りにラーメン食べて帰ろうよ。近くに美味い店があるんだ」
「いいですね。食べたことがないので楽しみです」
期待に瞳を輝かせるアンドロイドを少し朗らかに眺める木原に見送られ、俺たちは小腹を満たしに歩いた。
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後書き
読者の皆様、ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
本作は勝手ながら、20話で完結とさせていただきます。
当初はもう少し話を広げる予定で設定を作っておりましたが、作者自身が今後の展開を広げられなくなったため、今回このような形で終わりとさせていただくこととなりました。
まだ明かせていない謎もあり、私の力不足で皆様を不愉快な気持ちにさせてしまうかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いでございます。
また、しばらく執筆活動をお休みさせていただきますが、必ず皆様に楽しんでいただける作品をお持ちして舞い戻りますので、その時をご期待ください。
文末となりますが、あらためて。
本作をご愛読いただき、心より感謝申し上げます。
語部紡久は語れない 真白よぞら @siro44
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