尻を守る戦い、すなわち己が尊厳を守る戦い。精緻で硬質な和風ファンタジー

キャッチコピーの「男の戦い(尻を守る)」から、ぱっと見で艶笑系BLの印象を受けてしまうかもしれない本作。
ですが、それで敬遠されるのは非常にもったいない。
男が尻を守る戦いには間違いないんですが、意味するところはむしろ「百鬼夜行の跋扈する大奥で、己が尊厳を守るために知恵の限りを尽くして生き抜く少年の戦い」です。
本作、非常に精緻で硬質な和テイストのファンタジーです。

長編ということで魅力的な登場人物は多数登場しますが、個人的には主人公音由くんの強烈な印象が際立っていました。
絶世の美少年、かつ非常な切れ者でありながら、「百姓のこせがれ」としての泥臭さやしたたかさ、(良い意味での)意地汚さをも兼ね備えたキャラ造形は、他ではなかなかお目にかかれない強烈な個性と思います。
物語は、音由くんが大奥でいかに立ち回るかを中心に進んでいきますが、彼の鮮やかでしたたかな知性が次はどんな策を繰り出してくるのか、終始目が離せません。

背景となる架空和風世界の設定も、街や国の様子から貨幣単位に至るまで細かく組み上げられていますが、それらのひとつひとつを饒舌に長々説明することがないのも良い塩梅です。
細やかな設定の多くは、あくまで登場人物たちの動きを彩る脇役として「ちらちら垣間見える舞台装置」に留まっており、このバランス感覚も心地良いです。

文章も硬質で細やかですが、1話あたりの文字数が少なめに設定されているため、文そのものは重めのはずなのにさくさく読めます。

まずは第1話に目を通していただければ、地に足の着いた重厚な和風ファンタジーの空気感は伝わるかと思います。
そこで気になるようでしたら、ぜひともその先も。
期待は裏切られないはずです。

その他のおすすめレビュー

五色ひいらぎさんの他のおすすめレビュー122