第7話 最終話

「イレーヌ姉様、ヘンリックにオモチャを買ってきました。これは姉様へのお土産です」


 養弟のマルテスは積み木や輪投げに絵本を、ウィンザー侯爵家に来るたびに持ってくる。私には珍しいお菓子や流行の香水などを、まるで恋人のように頻繁にプレゼントしてくれた。


「嬉しいけれど、さすがにウィンザー侯爵家に来すぎではないかしら? マルテスにはまだ婚約者もいないでしょう? 姉思いのなのは美徳だけれど、いきすぎると女性からは敬遠されますよ」


 いつも、そのように忠告するけれど全く聞く耳を持たない。ますます、ウィンザー侯爵家に入り浸るので私は呆れていた。


 ラエイト男爵家を継ぐマルテスには、財産や領地の管理が必要になる。経済学や財務管理の知識は、財産や資産を適切に管理し、持続可能な収益を確保するのに役立つ。

 社交スキルや儀式のプロトコルについての知識も、公的な場での適切な振る舞いに役立つ。そういったものを全て学び終えた彼は、とても頻繁にヘンリックと私に会いにウィンザー侯爵家を訪れた。

 しかもヘンリックの世話を熱心にしてくれるので、すっかりヘンリックはマルテスに懐いてしまった。


「パァパァーー」


 ある日、ヘンリックがマルテスに向かって手を伸ばしながらそう言った。


 私はマルテスを睨み付けた。


 子供が自発的に「パパ」と言い出すなんて、マルテスがそれを教え込んだ結果としか考えられない。


「ヘンリックにパパと呼ばせるなんて、なにを考えているのですかっ! 無責任すぎますよ。マルテスはいずれ結婚して家庭を持つのですよ? そのようになれば、ここには来れなくなります。急に会えなくなったマルテスを恋しがるヘンリックの気持ちを考えなさい」


 マルテスがヘンリックを甥として可愛がってくれるのは嬉しい。でも、過剰に懐かせるのは良くないのよ。


「私は姉様以外の女性とは結婚しませんよ。ずっと、好きでした」


 私が声を荒げて怒っていると、マルテスは銀色に輝く瞳に艶っぽさを湛えながら、笑って私を抱き上げてそう言った。


 それから5年の歳月が流れ、私はヘンリックの他に二人の子供に恵まれた。次男はアラン、長女はクリスタル。この二人の子供たちの瞳は・・・・・・もちろん父親に似て銀色よ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

[完結] 旦那様、覚悟してくださいね! 青空一夏@書籍発売中 @sachimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ