金木犀の香り

霞千人(かすみ せんと)

【企画てんとれ祭】金木犀の香りが夜を包んだら私を思い出して

「ねえ健一君、金木犀ってわかる?」

幼馴染の美知香みちかが言った。

「なにそれ、惑星の名前?」

「またー、茶化さないでよ

とっても良い香りがする木なんだって」

「ふーん、でも僕らの地方じゃ見たことも聞いたことも

無いよね」

「やっぱり寒いところだと育たないのかなあ?」

調べてみたら北限は岩手と秋田の南部らしい。

「やっぱりこのあたりだと無理みたいだね」

「そっかー残念だなあ。なんかロマンチックぽくて

憧れていたんだけどなあ」


そんなことが有って10年後僕たちは上京して大学に通い、

就職して結婚した。定年まぢかになって夢かなって

少し郊外だけど庭付きの一軒家を手に入れて

庭に金木犀の木を植えた。

苗を植えて3年目で開花したがあたり一帯を香りで包む

には。程遠かった。それからまた30年後。2人の間に

子宝には恵まれなかったが金木犀は2人の子供同然だった。

とうとう秋になると、窓を開けると甘い香りが入って

くるようになった

とうとう中学の頃の夢が叶ったわね」

美知香が嬉しそうに微笑む。

ああ、この人と一緒になれて良かったと僕は美知香の少女の様な

笑顔を見てしみじみ思う。

お互い80台になって、僕は頭が薄くなり美知香はしわが増えて

腰も曲がって……

それでもなお、新婚時代の様な愛情で繋がっている。

月夜に虫の声を聞きながら、金木犀の香りに包まれていると


美知香がしみじみと言った。

「ねえ貴方……」


「もしも私が先に死んで金木犀の香りが夜を包んだら私を思い出して」

ぼくも言い返した。

「僕が先に死んで金木犀の香りが夜を包んだら僕を思い出して」

ふたり揃ってフフッと笑った。

「「70年も飽きずに愛してくれてありがとう」」




        


参考.引用/蜂蜜ひみつ/てんとれないうらない/第99話

【金木犀の香りが 夜を包んだら私を思い出して9点】

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金木犀の香り 霞千人(かすみ せんと) @dmdpgagd

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