第15話 発見
「———主様、分かったよ!」
「そうか、よくやった、リリー」
「えっへん、リリー頑張った!」
「そうだな」
俺はリリーの頭を撫でてから、目の前でまるで糸が切れたかの様に眠る無傷のフレイア卿を眺める。
尋問の傷はリリーによって跡形もなく消えて、記憶も俺が尋ねた所から忘却させているので、俺の正体がバレることはないだろう。
「それで、ユーマは何処に居る?」
「えっとね……大きな森!!」
「大きな森?」
「うんっ! 何か改造? を受けるために運んでるんだって!」
———改造。
人体実験の果てに偶然生まれた概念で、生きた生物の潜在能力を限界以上に引き出す禁忌の行いである。
副作用で死ぬこともあるし、そもそも潜在能力以上の力を引き出して身体が耐えられる訳などない。
そんな簡単なことも分からない馬鹿共がこの世界に存在しているのが非常に残念で仕方ない。
フレイア卿もその内の1人と言う訳だ。
恐らくユーマの身体を弄って魔導王国を操りたいとでも考えているのか。
真意は不明だが、そんなことはどうでも良い。
「オレの友に手を出したこと———後悔させてやろう」
———魔導王国の最北端にある『黒樹海』と呼ばれる森は、ヒュー大陸で最も広大で未開の地だと言われている。
カリバン王国にも危険なモンスターの蔓延る樹海があるが、正直そこより遥かに危険度が高い。
そして、何故『黒』と呼ばれるのか。
それは———。
「うわぁ!? 主様、とっても硬いよっ!」
———この森の全ての植物に金属が含まれており、漆黒に輝いているからである。
その硬度は巨大であればあるほど高まり、全長50メートルにも及ぶ大木であれば、俺が通常時に魔力を込めて本気で殴っても破壊は出来ない。
そんな木を殴ったリリーは、自らの拳を摩りながら涙目で俺の袖を引っ張る。
「主様っ! どうして教えてくれないの!」
「教える前に殴ってたろ」
「むぅぅぅ〜〜リリー、この森嫌い!!」
リリーは頬を膨らませてむくれながら、案内のために先行する。
因みに記憶を覗いたのはリリーのみで、残念ながら俺にそんな高度な魔法は使えない。
「それで、道は分かるのか?」
「うんっ! このまま真っ直ぐ! でも、後ちょっとでユーマお兄ちゃんが研究室に着いちゃう!」
おい。
物凄く時間が迫っているじゃないか。
「リリー、来い」
「ふぇ? あ、抱っこしてくれるの!?」
リリーが俺を、期待でキラキラ輝く瞳で見てくる。
そんなリリーに、答え合わせとして片手で抱っこした。
「行くぞ、リリー。自分の体に結界張っとけ」
「分かりましたぁ!」
リリーの身体が結界に包まれたのを確認すると……。
「《神力解放》」
自らの底に眠る神力を解放。
身体の周りに薄い白銀のオーラが漂う。
リリーが眩しそうにしているが、まあ我慢して貰おう。
因みにこの状態は《開闢の使徒》の簡略版である。
髪とかも染まらないしオーラの色も薄い。 全てにおいて《開闢の使徒》には数段劣るが、正直使い勝手自体は完全にこっちの方がいい。
今思えば、レオンとの戦いも、此方を使えば良い勝負になっていたのかもしれない。
まあ十中八九レオンはキレていただろうがな。
「待ってろ、ユーマ」
目的地へと、障害物を破壊しながら一直線に駆け抜けた。
「おい、一体何なんだアレは!?」
「知るかよ!! おい、とっとと運べこのカス野郎ッ!! ぶっ殺すぞッ!!」
「む、無理ですっ! 植物を避けながら進まないといけないのでこれ以上速度が出せません!!」
場所は少し変わって黒樹海の中心部付近。
馬車に乗った全身に刀傷だらけの厳つい男が後方を指差して叫ぶ。
そんな男に顔のよく似た別の厳つい男がヤケクソ気味に言い返し、御者へと罵声を浴びせるが、御者が涙目顔面蒼白状態で叫んだ。
そんな彼らの後方には———何者かが木々を根こそぎ吹き飛ばし、破壊しながら一直線に此方に進んで来ている。
まるで超強力な竜巻が意思を持って向かってきているかの如き凄惨な光景だった。
その速度は異常で、僅か十数秒の間に距離が半分以上埋まっていた。
恐怖に支配されかける男達だが、自分達に護衛が居る事を思い出す。
「おい、お前の出番だぞ!! アイツを足止めしてくれ!!」
「我の睡眠の邪魔をする不届き者か……仕方ない。足止めではなく、瞬殺してやろう」
厳つい顔に似合わぬ顔面蒼白状態の男に、馬車の後方に座り、目を閉じていた精悍な顔つきをした男が忌々しげに杖を持って立ち上がる。
そして……馬車の上から何やらぶつぶつと唱え始めた。
そして10秒くらい経った時、すぐ眼前に少女を片手で抱いた白銀の男が現れた———同タイミングで杖を掲げ、目を見開く。
「———我が眼前にひれ伏せ《
その瞬間———半径100メートル以上もの範囲の木々や地面が上から重いモノで押し潰されたかの様に凹んだ。
アレほど硬い木々がぺちゃんこに潰れる。
辺りに砂埃が舞い、視界が遮られた。
「ふっ……我に掛かればこの程度———」
「主様っ、へなちょこな魔法使われた! 多分重力魔法だと思いますっ!」
「重力か、随分と生温い魔法だな」
「———ナニィイイイィィィ!?!?」
男は目をひん剥き、物凄い高音の驚愕の悲鳴を上げる。
そんな男の目の前では、フード付きの漆黒のマントに身を包んだ白銀のオーラを纏う男———アルクが、まるで何も感じていないかの如く歩く。
そしてアルクに抱かれて、場違いな程キャッキャッと喜ぶ少女———リリーまでもが魔法を気にせずにいることに男は更に驚愕を露わにした。
「な、ば、バカな……ッ!! 我の魔法は完璧なはず……!!」
「出力の問題だ。貴様程度の魔力では、オレを止めることは出来ん」
「…………」
完全に戦意を喪失した男を路傍の石ころを眺める視線で見た後、アルクは剣を構える強面の双子へと威圧を放った。
「———オレの逆鱗に触れた事、あの世で後悔するがいい」
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