一難去ってまたですか④
「っ……」
「ジーナ!」
ジーナが膝を突く。
構えていた盾はヒビが入っていて、彼女が手放した直後に砕けてしまった。
鉄の盾が砕けるほどの攻撃を、長い間防御し続けていたのだ。
「平気だ……問題ない。私のことはいいから、怪我人の手当てと……周囲の安全確認を……」
「よくないだろ」
「そうだよ! まずは自分の治療が先だ!」
「カナタのいう通りだ。サラス、ジーナに治癒魔法を頼む」
「はいはーい! お任せですよー」
サラスがジーナに治癒魔法を施す。
見た目の傷はないが、あれだけの攻撃を受け続けたんだ。
腕も足もボロボロだろう。
「骨折とかしてるんじゃないか?」
「ヒビは入っているかもしれない……少し、左手が痛い」
「マジか。そんな状況でよく耐えたな」
「私は騎士だから、痛みに耐える訓練もしている」
騎士っておっかないな。
そんな訓練があるのか……冒険者でよかった。
「……情けないな」
「え?」
ジーナが弱音を漏らす。
その横顔は悔しそうで、寂し気だ。
「私一人じゃどうしようもなかった……どころか、皆が助けてくれなければ今頃……」
「あれは仕方ないだろ。俺だって偽物なことに気づけなかったし」
「私は気づきましたよ!」
「お前は黙って治療してろ」
「なんでぇ!」
気づいたのもギリギリだった癖によく威張れるな。
あと今話に入られると拗れそうだから、とりあえず黙っていてほしい。
「騎士は守るために存在している。それなのに、私は守られてばかりだ」
「そんなことないじゃん! ちゃんとあたしらを守ってたろ?」
「そうだぞ。ジーナがいなかったら今頃全員ミンチだ。騎士としてしっかり守ってくれてたよ」
「……だが、姉上ならもっと上手くやれていただろう」
ジーナは夜空を見上げる。
姉のことを思い浮かべながら、遠い星々を見つめる。
「私の加護を見ただろう? 動けば効果が途切れてしまう。防御が硬いだけで、一人では何もできない」
「いや、十分すぎるだろ。あれだけ攻撃を耐えれたら大したものじゃないか」
「姉上なら一人で戦える。あの程度のモンスターにも苦戦しない。レベル差じゃない……才能の差があるんだ。私はいつまだたっても……姉上に届かない」
吐き出されるのは劣等感ばかりだった。
ひしひしと感じる。
彼女がどれほど、優秀な姉と比べられ、劣等感を抱いてきたのか。
「私なんていても変わらない。彼に言われた通りだ。私じゃなくて……姉上が来ていれば、もっと早く解決していただろう」
「――でも、ここにいるのはジーナだろ」
「え?」
「間違えるなよ。今日ここで、骨が折れるまで頑張ったのは誰だ? お前じゃないか」
「……タクロウ?」
柄にもないことを言おうとしている。
他人の俺が、彼女の葛藤に口出しするのは無責任だとも思う。
それでも、口は勝手に動いた。
「お前の姉がどんな凄い奴なのかは知らない。俺は転生者だからな。会ったこともないし、噂すら聞いたことがない」
「それはそうだろう。会えばわかるよ。私とは全然違う」
「違うのは当然だろ? 姉妹だからって、何もかも同じなわけあるか。姉は姉だし、ジーナはジーナで、それぞれに得意不得意はあるんだよ。適材適所って言葉を知らないのか。あーいうことをいう連中は!」
「タクロウ?」
他者と比べられ、どうしてお前はできないのか。
あいつに比べて無能だと、影で言われる苦しみは知っている。
集団行動は当たり前。
輪を乱したり、ついていけない奴が悪者になる。
勝手に比べられて、無能の烙印を押されて……いい迷惑だ。
「あーえっと、何が言いたいかっていうとだなぁ」
「……」
「今ここにいたのはジーナで、頑張ってのもジーナだ。お前がいなきゃ俺たちは死んでいたかもしれない。だからジーナ、お前がいてくれてよかったよ」
「――!」
俺は恥ずかしながら感謝を告げた。
それを聞いたジーナは両目を大きく見開く。
「……先に助けられたのは、私だ」
「そうかもな。別にいいじゃないか。完璧な奴なんていないんだし、助け合えばいいんだよ」
「助け合い……姉上なら、群れることは弱さだと言うだろうな」
「なんだそれ。そんなわけないだろ? 他人を頼ることだって勇気がいるんだ。それに助け合いだぞ? お互いに長所を活かし、短所をカバーする。それのどこが弱いんだ。お前の姉ってコミュ障か? だったらジーナのほうがコミュ力は上だな」
「あ、姉上を馬鹿にするな! 確かに口下手な人だが!」
「別に馬鹿にしてないよ。けど、そうやって不得意もあるんだろ? だったらそれでいいじゃんか。俺たちはどれだけ頑張っても、自分以外にはなれないんだから」
「――!」
そうだ。
俺は俺でしかない。
天才じゃない俺は、憧れる誰かには決してなれない。
努力してたどり着ける先は、自分という人間の延長でしかない。
それでいいんだよ。
「自分でしかない……か。そういう考え方もあるのだな」
「悪くないだろ?」
「……そうかもしれない。タクロウ」
「なんだ?」
「ありがとう。私に……感謝してくれて」
「変なこというな? 感謝されて感謝するって」
ジーナは笑う。
いつも気を張っていて不愛想だった彼女が、初めて笑顔を見せた。
なんだ。
ちゃんと笑えるし、綺麗な笑顔じゃないか。
◇◇◇
後日談。
あの後、ギルドと協力して街の修繕と、攫われた人たちの捜索が始まった。
ジーナが囚われていた部屋には地下があり、そこに囚われていた。
幸いなことに手を出される前だったから、彼らは治療を受けた後で普通の生活に戻れるだろう。
もちろん、失われてしまった命は戻らない。
犯人は自滅して、誰が罪を償う訳でもなく、事件は解決した。
少々もやっとするが、これで平穏な街に戻った。
そして一つ、大きな変化が訪れる。
いつも通りに冒険者ギルドに顔を出すと……。
「よぉタクロウ! 昨日は大活躍だったじゃねーか!」
「お前はやる奴だって信じてたぜ!」
「お、おう。どうも」
明らかに皆の態度が変わっていた。
つい昨日まで変態扱いしていた奴らが、俺のことを評価している。
彼らは昨夜の戦闘で、俺と一緒に戦った冒険者だ。
一緒に戦い、死線を越えたことで、俺への数々の疑いが晴れたらしい。
「調子のいい人たちですねー」
「まったくだよ! 昨日までタクロウの悪口ばっかりだったのに!」
「まぁいいじゃないか。ようやくこれで普通に暮らせる」
長かった。
本当に……毎日罵声を浴びせられ、ごみを見るような視線で見られ。
首輪はあるのに人権なんてほぼないみたいな扱い。
ついに風評被害からも解放される。
「ヒビヤタクロウ!」
「――あ、ジーナ。昨日はお疲れ」
昨夜の功労者が顔を出す。
彼女はよく頑張ってくれたし、初めて笑顔を見せてくれたのも印象的だ。
もう俺のことを疑うことはないだろう。
そうなったら、彼女は王国騎士団に戻ることになるだろうな。
少し寂しいが、いつかどこかで会える日を期待しよう。
「タクロウ、貴様には責任を取ってもらう」
「え? 責任?」
「昨夜、私の胸を見ただろう!」
「ふぐっ!」
突然の爆弾発言。
ギルド内がざわつく。
「胸だと?」
「まさかタクロウ……既婚者の癖に?」
「お、おい! あれは不可抗力で」
「そんなことは関係ない! 女が男に胸を凝視された……あれはれっきとしたセクハラだ」
「凝視はしてねーよ!」
周囲の視線が冷ややかになる。
さっきまで友好的だった奴らが、一歩下がってぼそりという。
「最低だな」
「違っ!」
「タクロウ! 貴様には責任を取って――」
「だから俺は――」
「私と結婚してもらおう!」
「……へ?」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます!
本作は基本①~④で一つのお話となっております。
面白い、続きが気になるという方は、ぜひぜひフォロー&評価を頂けると嬉しいです。
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抜きゲーみたいな世界に転生した童貞〔オレ〕は嫁を100人作ると決心した! ※決心しただけなので出来るとは言っていない。でも出来なきゃ死ぬらしい…… 日之影ソラ @hinokagesora
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